第55話 漆黒の波動砲
「主よ、あれはまずいぞ」
「ロラン――俺の親友を頼む」
「了解じゃ」
ざわつく会場、それはいつもの歓声ではなく戸惑いの声。
ファフニールの言う通りあれが危険だというのは俺だけでなく会場全員が感じているだろう。
あの禍々しい程に黒く巨大なオーラはなにかわからないが、あのままだとロランが死んでしまうというのはわかる。
「バットンウイング」
「ちょっと――」
レイが何か言いたげだったが急がないといけない、蝙蝠の羽を羽ばたかせ一気にロランの前に立つ。
目の前で見ると一段と邪悪な気を感じる。
「ロ、ビン……?」
後ろでバタッと言う音がした、ロランが気を失ってしまったみたいだ。
「防げるか?」
「頑張るよ」
小さな体で軽々とロランを担ぎ上げるファフニール、「後は頼んだぞ」と場を後にする。
後はもうじき放たれるであろう、恐らくとてつもなく威力の高いこの一撃を防げるか……。
「シールド」
六角形で半透明の薄い壁は陽の光で七色に輝く。
それを5枚、できる限り広く大きくする。
防御魔法をあまり使ったことがないけれど、後ろに人がたくさんいるので正面から受けるしかない。
それを確認したのか、前の敵がニヤリと少し黄ばんだ歯を見せる――来る!
振り下ろされた大剣、一瞬の煌めきの後集まっていた悪魔の咆哮が一斉に射出された。
とんでもない勢いと大きさの波動が1枚目のシールドにぶつかり、簡単に破壊される。
だめだ大きさが足りない、全体を防げない。
魔力を込めて2枚目以降のシールドを更に広くする。
2枚目も突破される……やはり凄い勢いだ。
魔力をさらに込めてシールドを保とうと試みる。
3枚目も破られたが、少し勢いは弱まったか? なんとか防ぎ切らなければ俺だけでなく観客席にまで被害がでてしまう。
「クッ! ……」
4枚目を突破され感じる圧がかなり強くなった、飛ばされそうになる体を足を踏ん張って耐える。
一体どんな魔法を、技を使えばこんな威力の攻撃が出せるんだ? 少なくてもこんな魔法を俺は知らない。
シールドは後1枚、この勢いならなんとか弾いてそらせばいけるか?
いや観客がこんなにいる、そらす方向を間違えれば甚大な被害になるかもしれない。
ピキッと最後の壁に亀裂がはいる。
耐えれないか? いや、なんとか耐えるんだ。
「ハァァァ!」
魔力を更に込める。
広く展開している分、強固にするのが難しい。
また亀裂が入り大きくなる……ダメだ、破られる!
「シールド」
「レイ?」
破られると同時に新たな防壁が展開される。
俺の横にはレイの姿、これは彼女のシールドか。
同じ様に観客を守るため展開されたそれは1枚目ながら中々純度が高い。
これに阻まれた形で弱まっていた漆黒の波動はようやく霧散した。
残ったのは凄まじさを象徴したような抉れた地面の道。
「ふぅ……なんとかなったわね」
「ありがとう、助かったよ」
腕で額の汗を拭う彼女に感謝する。
彼女の力がなければ観客に被害が出ていただろう、魔法もだいぶ成長したな。
「ウッ!!」
前を見るとアルダシールが苦しそうな表情で膝をつきうずくまっている。
あの禍々しいオーラはもう無くなっていた。
「グハッ!!」
どうしたんだと思っていたら今度は一気に大量の吐血をする。
なんだ? あの技の副作用か?
流石に心配になり駆け寄ろうと思ったがスタッフが前に立ち塞がり制止される。
「ロビン様、試合中の乱入は反則です。従って失格に――」
「よい!」
ルール違反により失格を言い渡されそうになったところに観客席から声が飛ぶ。
静まり返る会場、それもそのはずだ、声の主はこの都市の領主――ケトのものであったから。
「し、しかし!」
「もう勝負が決した後だ、我は2人の勝負が観たい! 皆もそう思うだろ?」
席から立ち上がったケトの声に「オオォォッ!」と賛同する声が大きく上がる。
失格にならないのは良いがさっきまで観客も危機に晒されていたんだぞ、わかっているのか?
「わかりました、では失格は取り消します」
そう言ってスタッフが退く、前にいたアルダシールはその間に会場を後にしていたみたいで姿はない。
「行くわよ」
「ああ」
レイに促されまだ声が鳴り止まない会場を俺達も後にした。
向かうは救護室、ファフニールがロランを運んでくれているはずだ。
「おぉ、主よどうにかなったみたいじゃな」
「うん、ファフニールもありがとう。ロランは? 大丈夫そう?」
救護室の前にいたファフニールに案内してもらうとベッドの上に目を覚ましたロランが寝転んでいた。
「無事でよかった」
側にある椅子に座って話しかけるとロランは俺を一瞥した後にそっぽを向いてしまう。
何か悪い事してしまったかな?
「今度こそ、君に勝てると思ったんだけどな……」
「ロラン……」
そうポツリと漏らすとベッドを握る手が強くなる。
俺もロランと戦うのを楽しみにしていたけど、きっと彼はそれ以上に気持ちがあったんだろう。
目は見せてはくれないけれど、鼻をすすり身を震わす姿からそう感じた。
「いつか、いつか勝ってみせるからな」
「うん、待ってる」
震える声を絞り出す彼に答える。
「優勝しろよ」
「当たり前だよ」
ベッドを握りしめる拳だけを俺の方に差し出すロラン、拳を合わせて俺は誓った。
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