第51話 堅城鉄壁

「特別試合はきちんと見ていただけたか?」


「ええ、しっかりと観戦しましたよ」


「そうか」


 準決勝。

 残ったのは俺とロラン、アルダシール、そして俺の前に立つギゼノン最強と謳われる男――ラムセス。

 まだ試合が始まっていないが、その構えた姿だけでも相当強いということはわかる。


 ラムセスは銀に輝くギゼノン軍の全身鎧、そして一般的な軍の剣よりも太い大剣を持つ。

 どっしりとした構えだが決して力が入っているわけではなさそうだ。

 元々体格も良いが、それよりもさらに大きく見える。

 

 すでに一杯の観客席は一層の盛り上がりを見せる。

 やはりこの男は注目度が高いようだ。


 相手との息を合わせて近づき、互いの剣を合わせる。

 

 先手必勝。

 いつもならすぐに相手に飛び込むところである。


 しかし、それはできなかった――隙が見当たらない。

 それどころかいけば反撃されると脳が訴えたのだ。


「来ないのか?」


 相手はまだ一歩も動いてはいない。

 ただただ中段に大剣を構えているのみ。

 渋い声で挑発するが、俺を見据えたそのキリッとした瞳には一切の油断も見えない。

 まるでバジリスクよりも強大な蛇に睨まれたようだ。

 

「それじゃあ、いきますよ」


 それでもいつまでもじっとしてはいられない。

 動かなければ勝機など見えないのだから。

 隙がなければつくるまで。


「シャドウ」


 俺はスキル《シャドウ》で姿を隠す。

 的を絞らせない、そのまま気配を消して攻撃もいいがここはワンポイントを加えよう。

 俺は相手の周囲を回るように駆け、どこから来るかわかりづらくするよう敢えて足音を残す。

 おそらく普通の人間ならば全方向から足音が重なって聞こえているはず。


「うむ、なるほど。どこに居るか全くもって見当がつかないな」


 その場で構えたまま動かないラムセス。

 この言葉は陽動か?

 だが、そうだとしてもここはノッてやろうじゃないか。


 ラムセスの背後に回ったタイミングで相手目掛けて跳びかかる。


「ふん!」


 するどい金属音が鳴り渡る。

 だがそれは相手の鎧に突き刺さる音ではなく剣同士が重なった音だ。


 小細工は通じないか。

 一瞬の反応で相手は背後に向き直り剣で俺の攻撃を防ぎ、振り払う。

 やはり力も強く俺は強制的に距離をあけられる。


「やっぱりこんなんじゃだめか」


「いや、その速さ、まさに見事と言うべきだろう」


 《シャドウ》を解いた俺は相手と睨み合う。

 

 やはり、向こうからは攻めてこないか。

 特別試合の時もそうだったが耐えて反撃にでるスタイルらしい。

 

「ファイアボール」


 天に蒼い炎球が現れる。

 いくらなんでもこれを防ぐのは難しいだろう。

 

「前の試合でも見させてもらったが、これが基礎魔法とはな」


 自らを焼き尽くすかもしれないその炎にも全く動じないか。

 ラムセスは腰を据え、剣を引く体勢をとる。


 ならば受けてみろと俺は腕を振り下ろす。


 蒼い太陽はラムセスをしっかりと捉えてその巨体を下す。


「一閃!」


 炎球目掛け、横に払われた剣。

 スキル《一閃》によりその剣から生じたかまいたちは炎球を斬り去る。

 形を保てなくなった俺の炎はそのまま風に乗って消え去ってしまった。


 どうだと言わんばかりに俺を見るラムセス。


 まさか《ファイアボール》をあっさり打ち消してしまうとは。

 ギゼノン最強の名は伊達ではないということか。


「ライトニング」


 次の手としてまっすぐラムセスに向け電撃を放ちそれとは別に俺は側面を取る。

 当然ラムセスに電撃は振り払われるがそれはもちろんダミー。

 そこにできるはずの隙、側面よりほぼ同時に俺は短剣で追撃する。

 

「――なっ!」


 またしても防がれた。

 その太い大剣が俺の行く手を阻む。

 なんて無駄のない剣捌きであろうか。

 ほぼ同時、そして別方向からの攻撃を全てその剣一本で防がれた。


「それでは届かんぞ」


 ロランの防御が『流れ』ならばラムセスのそれはまさに『壁』。

 どんなものも受け止める強固な壁だ。


 ならばその壁――打ち砕く!


「オーガスタンプ」


 影の拳がラムセス目掛け振り落とされる。

 それは恐らく防がれるだろう。

 おれは追撃のため、また距離を詰める。


 下段から振りあげられた剣によって影は切り裂かれ、消え去る。

 

「胴が空いてるよ!」


 懐に一気に潜り込んで空いた胴を斬る。

 しかしそれは当然とばかりに止められる。


 だが、これだけでは引かない。

 すぐにステップで相手の側面に回りもう一撃。

 俺がこの世界で一番であろう素早さを活かして四方八方より連続で攻撃を繰り出す。

 

 いくつもの剣が重なり合う音がほぼ同時に鳴り響く。


「――これでも駄目か」


 一旦距離をとる。


 あれだけ攻撃をしたのにまさか一つも身に当てられない。

 すべてあの大剣によって防がれた。

 無駄のない動きもさることながら、その反応速度が驚異的である。

 まるで次にどこから攻撃が来るかわかっているかのような速度で反応されてしまう。


 そして何よりも驚くこと、それはラムセスの体がまだその場から殆ど動いてはいないということだ。

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