第48話 元奴隷少女とドラゴン少女、2人の休日

 ☆★


「レイ! 主人が起きんぞ!」


「疲れているのよ。休みの日ぐらい休ませてあげなさい」


 レイの部屋のドアを勢いよく開け、ファフニールがバッと入ってきた。

 そのことにレイは動じること無く冷静に返す。

 ファフニールがこうして急に部屋に入ってくるのは初めてではないのだ。


 大会も佳境に差し掛かり、試合間隔が短くなってきた。

 ロランの件もあり、さすがのロビンにも疲れが表れたようだ。

 いつもならとっくに起きている時間にもかかわらず未だ夢の中である。


「ならば、レイ。お主で良い、外へ出向くぞ」


「嫌よ、私も今日は休もうと思ってるの。今読んでいる物もあるし」


 レイを指差していいのけるファフニールに対し、机で読書をしていたレイは冷たくあしらう。


「どうせ食べ物の本じゃろ。よいよい、一緒に行きたい店に行ってやろう」


「違うわよ。私も食べることだけしか考えていないわけじゃないわ」


 そう言ってレイは読んでいた本の表紙をファフニールに向ける。

 そう、今読んでいるものは食べ物関係の本ではなかった。

 それは『初めてでも簡単にできるアクセサリーの作り方』と書かれた本。

 

「ほう、アクセサリーとな? どれ、ちょっと見せてみろ」


 ファフニールがその本に食いついた。

 レイから半ば取り上げるように本を借りて中を読む。


「おぉ、これは綺麗なものじゃな!」


 中に描かれたアクセサリーの絵にキラキラと目を輝かせる彼女。

 一瞬にしてアクセサリーに興味を持ったようだ。


「レイ! 我にもこのアクセサリーとやらは作れるのか?」


「え、ええ、まあ。初めてでも簡単にできるって書いてあるからできるんじゃないかしら」


「そうか! ならば今から作るぞ!」


 完全にやる気になってしまったようだ。

 早く教えろとレイに詰め寄るファフニール。

 だけどそう急にそれはできない。


「今からは無理よ。材料がないもの」


 そう、作るのに必要な材料がないのだ。


「ならば、買いに行くぞ!」


「嫌よ、今日は外に出るつもりじゃなかったし」


 ファフニールの誘いを断るレイ。

 しかし彼女は諦めない。


「そう言わず行くのじゃ!」


 子供が駄々こねるようにレイの腕を引っ張るファフニール。

 しかし、それはただの子供ではない。

 少女の姿だが仮にもドラゴン。

 そんなものにされたらどうしようもない。

 レイは瞬く間に座っていた椅子から放され、どんどんと引っ張られてしまう。


「わ、わかったわ。行く、行くわよ」


「そうか! それでは行くぞ!」


 こうしてレイは強引に太陽が真上に輝く暑い外へ連れ出されたのだ。


 ♢


「おぉ! 綺麗じゃな!」


 素材を求めて装飾屋に入る。

 店に輝く数々のアクセサリー。

 ファフニールはそれに目を輝かせ、せわしなく視線を泳がせる。


「落ち着きなさい。恥ずかしいわ」


「しかし、こんなにもキラキラしたものがいっぱいあるのじゃ! じっとしてられるわけなかろう!」


 レイの言うことを聞かず、次々に物色していくファフニール。


「言うことを聞かないとファフニールの分は買わないわよ」


「むぅ……相変わらずレイはケチじゃな」


 切り札とも言える言葉にさすがに大人しくなるファフニール。

 そして2人は商品のアクセサリーではなく、素材となる宝石が置いてある一角にて購入するものを選ぶ。


「これと、これと……あとはこれね」


「おぉ、綺麗じゃ、こっちも綺麗じゃな。うーむ、これも良いのぉ」


 レイは迷いなく宝石を選んでいく。

 その一方ファフニールは多くの種類の宝石に目移りし、あれやこれやと悩んでいる。


 ロビンからいつも渡されているお金には多少の余裕はある。

 とはいっても宝石は安いものではない。

 レイはファフニールに3つまでと買う前に約束を交わしていた。


「――よし! 我はこやつらにするぞ」


 結局ファフニールは3つに絞るのに30分近くかかり、それを見ていたレイは少し疲れた様子を見せていた。

 

「はいはい、わかったわ――って見事に赤いわね……」


 あれだけ待って選んだのがこれなのかと、ファフニールが持ってきた3つの赤い宝石に呆れた表情をするレイ。


「我といったらやはり赤であろう?」


「まあ、ファフニールがそれでいいならいいけれど」


 一刻も早く帰りたいレイはそれ以上は何も言わず、さっさと会計を済ませたのだった。


 ♢


「これをこうして、こうじゃろ? うーん……難しいのお」


 他のアクセサリーの材料を購入し、宿屋に戻る。


 その足でゆっくりしたいレイを諭して早速作業に入らせるファフニール。

 しかし細かい作業は彼女には向いていないようでだいぶと苦戦していた。

 そんなファフニールを余所目に、レイはすでに2つのアクセサリーを完成させている。


「ガアー! 難しいのじゃ! レイはどうしてそんなにやすやすとできるのだ?」


「落ち着いてやればいいのよ」


「むぅ、それでできていたら苦労はしておらん……」


「ほら、ここをこうして――」


 自分の分を完成させたレイはファフニールの手を握り、二人羽織の要領で力を貸す。


「お、おお――できたのじゃ!」 


 するとあら不思議とあんなに苦戦した箇所がいとも簡単に仕上がり、アクセサリーが完成した。

 ファフニールが作ったのはネックレス。

 

 2つの丸いルビーの宝石が真ん中の四角いガーネットを強調させる、なんとも赤いというものだ。

 それを早速首に着け、満足気に見て子供のように喜ぶ彼女。


「しかし、レイはなんでそんなに作っておるのだ?」


 すこししてレイの作っていたものにも興味を見せるファフニール。

 レイが作ったのはネックレスと指輪、そしてイヤリング。

 3つの宝石を1つずつのアクセサリーに仕上げていた。


「そうね、まだ秘密よ」

 

「むぅ……やはりレイはケチじゃ」


 口を塞ぐレイに頬を膨らませるファフニールだが、すぐに自分のネックレスを見て「そうじゃ!」と言ってロビンの部屋に向かっていくのだった。


 ★☆

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