第46話 それは幻のごとく
☆★
「チッ……やっぱ強いな……」
ロランの第4戦目の相手はギゼノンの兵士。
ケトが頭角を現してきた若き精鋭と評した十人隊長の男である。
ここまで順調に勝ち上がってきたロランもその男に苦戦を強いられていた。
今までうまく流せていた防御術が通じなくなっているのだ。
「ハヤブサ斬り!」
高速の3連撃。
上段、中段、下段からと目にも止まらない速さでの剣撃がロランを襲う。
「――くっ!」
「五月雨突き!」
「ゴハッ!」
なんとか防ぐが下段からの攻撃でロランの剣は弾かれ、隙ができる。
そこへすかさず放たれる突きの応酬。
さすがのロランもかわすことも防ぐこともできず、その鎧を纏った身へもろに貰う。
後ろに飛ばされ、尻もちをついて倒れるロラン。
その衝撃で脳が揺れ、視界が乱れる。
そこへ振り下ろされる剣。
しかし、それはなんとかロランが剣で受け止める。
力を入れて弾き返し、その間になんとか立ち上がる。
しかし、ダメージはすでに相当なものを貰っている。
痛みで汗が滲み、顔がゆがむロラン。
突破口を見出そうとするも、考える隙もなく相手の剣が迫る。
間一髪のところでその剣撃を防ぐが、攻撃は止まない。
「ハヤブサ斬り!」
ロランは防御の剣に関しては自信を持っている。
それは圧倒的な存在であるロビンに打ち勝つために磨かれたもの。
その化け物じみた相手の攻撃を防ぎ切り、反撃に出るためのものである。
本来は体をも使い相手の剣の力を受け流すよう防ぐが、すでに体は思ったようには動かない。
それでもロランはその剣のみでなんとかここまで持ちこたえる。
先程は耐えきれなかったその攻撃もなんとかしのぐ。
「やるな。まさかカルタナの一兵士がここまでやれるとは思わなかった」
「ふっ、嫌味か?」
状況は圧倒的に相手の方が優勢。
その場面でそう言ってくる相手に鼻で笑って返すロラン。
「いいや。素直な称賛と受け取っていい」
一歩踏み込み、上段から勢いよく剣を振り下ろすギゼノンの十人隊長。
それをまた両手でしっかりと剣を持って受け止めるロラン。
受け流すことができない分、その衝撃が剣を伝って体に響く。
「回転斬り!」
上段からの攻撃を防がれ、そこから鋭く一回転。
回転斬りへの連撃につなげる。
「――ッ!」
側面からロランの胴へと剣が痛烈に入る。
なんとか剣の防御が間に合ったが、その衝撃でとばされるロラン。
「カルタナ兵のわりに良く戦った。降参しろ」
剣先を転がるロランへ向け、降参を諭す相手。
しかし、彼にそれは許されない。
こんなところで負けるわけにはいかない。
決勝に上がってくる親友にリベンジを果たさなければならないのだ。
剣を突き刺し、それを支えに起き上がる。
もう体は立っていることさえようやくといった感じだ。
しかし彼の目は未だ熱さを残していた。
「本当は、決勝まで取っておきたかったんだけどな――」
「なに?」
剣を引き抜き、よろめく体をなんとか踏ん張って相手を見て剣を構えるロラン。
「来いよ!」
「ならば、次で終いだ!」
ロランに目掛け十人隊長が最後の一撃を振り下ろす。
「――幻影剣」
その一撃は動かない相手を倒すかに思われた。
しかし、剣が裂いたそれには感触が全くない。
――幻、そう彼は幻を見せられていたのだ。
そして刹那、体に幾度も衝撃が走る。
何が起こったのかわからない、そんな表情で彼は地面に跪く。
カチャっという音が十人隊長の首元で鳴る。
それと同時に冷たい感触が首筋を襲い、彼は状況を悟る。
「くそ、負けだ。まさかそんな隠し球があるとはな」
「家に伝わる特殊なスキルだ。決勝まで残したい切り札だったんだけどな」
両手を上げて降参する十人隊長にロランが残念そうに告げる。
勝負あり、カルタナの一兵士が精強なギゼノンの十人隊長を破り次に駒を進めた。
観客席ではどよめきがおきていた。
さっきまで優勢だった戦局が一瞬にしてひっくり返ったのだ、しかもなぜそうなったか未だに理解が追いつかないのだ。
だがしばらくするとポツポツと拍手が鳴り、呼応するように次第に大きくなる。
「くそ! 期待してたのに!」
しかしそんな中には敗者を侮辱する声も小さく聞こえてくるのであった。
★☆
闘技場に今までのような良い印象は薄れてしまったが、俺はロランを応援するために来ていた。
相手は先のパレードの日、特別試合で見たギゼノンの十人隊長。
強い相手とは知っていたが、まさかあのロランがここまで一方的に押されるとは。
何度も剣でのダメージをくらう親友の姿は痛々しいものである。
「ロラン!」
決勝で戦うと言ったよな?
なら、こんなところで負けるんじゃないぞロラン。
お前なら絶対に勝てる。
相手がギゼノン兵士であり、押されているため応援では完全にアウェー。
だが、俺はフラフラになりながらも立ち上がるロランを応援する。
しかし、そんなロランに無情にも一撃が振り下ろされる。
「ロラン……」
本当はいけない事だとわかりつつも、親友の危機に思わず目を瞑ってしまう。
刹那、何重にも金属音が鳴り響く。
どうか無事であってくれ――しかし、願いながら開けた瞳には全く予期出来ていなかった状況が映る。
「え?」
思わず声が出た。
負けを覚悟していたロランが跪く十人隊長の首元に剣をかざしているのだ。
何があった? 観客を見ても信じられないと言った人が多く見られる。
困惑する空気が次第に拍手へと変わる。
「やっぱりロランは強い」
油断できない、きっととんでもない隠し技があるはずだ。
簡単には勝たせてくれそうにない、俺は一層気を引き締めた。
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