第41話 開幕
大会本戦開催まで早くもあと2週間を切った。
ロランは無事予選を通過したようだ。
嬉しそうにどや顔で俺に報告してきた。
予選とは言え相手は強者揃いだっただろう、わかってはいたがやはりロランは強い。
俺も自分のことのようにその知らせを喜び、称えた。
「おぉ、人間は馬の力を借りて長旅をするのじゃな」
俺たちはギゼノンに向かうため馬車に乗っていた。
ファフニールは馬車に乗るのは初めてで感銘を受けている。
前回はギルドの馬車であったが今回は旅客用の木製馬車で向かう。
布で覆われて後ろからしか窺えなかった景色も今回は横窓があり流れる景色がよく見えるようになっている。
だが、その窓はファフニールがしがみついて見ているため俺とレイには関係ないようだ。
「空からの景色も良いが地上からの景色も中々良い物じゃ」
「揺れるからあぶないわよ」
「なんじゃ? この程度揺れにも入らぬわ。ほれ、レイも見てみよ」
旅客用の馬車なので実用性重視の前より揺れも速度も少ない。
前回は一面平面だったのに比べ前後に椅子が取り付けられており乗り心地も悪くない。
だが、それでも揺れはないとは言えない。
レイはファフニールにきちんと座るよう諭すがファフニールは動じない。
「私はあまり興味ないからいいわ」
「つまらんやつよのう」
楽しそうなファフニールとは変わってレイは外の景色には興味を示さず、持ってきた本をじっくりと読んでいる。
「さっきから何を読んでいるんだ?」
「旅人用の観光資料よ。前回は結局あまり食べることができなかったでしょ」
はぁ、こいつもこいつで変わらないな。
魔法の勉強でもしているのかと思えば結局食べ物の本のようだ。
「なんじゃ、お主は食べることばかりじゃな」
「人間は食べることが一番大事なのよ。食べないと死んでしまうわ」
少し覗き込むとそこには評判の店や料理が載っている。
写真という技術はないため絵と文字であり多少抽象的ではあるが、それでもレイには関心のあるものだろう。
♢
「飽きたのじゃ!」
「そうね、もう読み切ってしまったわ」
「がぁー。もっと速く走れんかこの馬は!」
初日はあんなにも楽しそうだったファフニールも3日目に入るとすっかり外の景色に飽きてしまったようだ。
ダラーと椅子に座って喚いている。
「主人よ、こんなものより我の背に乗るのじゃ。一瞬で目的地まで運んでやるぞ」
「それは駄目だよ」
ファフニールはドラゴンの姿になり運んでやるというが即断る。
そんなことをしたらとんだ騒動になってしまう。
というか、人間サイズだったはずだが……それでも背に人間を2人乗せて飛ぶことができるのだろうか。
「そうよファフニール。大人しく座ってなさい」
むぅと頬を膨らませるファフニール。
しかし少しすると退屈さが限界に来たのかスヤァと寝てしまった。
「ほんと子供みたいねこの子は。あのドラゴンとは思えないわ」
レイは隣に座るファフニールの頭を優しく撫でる。
健やかに寝ている姿は本当に10歳ほどの人間の子供のようである。
「本当だね」
その光景は微笑ましく、俺もつい笑みがこぼれてしまった。
♢
「ようやく着いたのじゃー!」
5日目、ついにギゼノンに到着する。
やはりだいぶ前回よりも遅い到着となった。
ファフニールは両拳を天にまっすぐ掲げてウーンと伸びをする。
結局殆ど寝ていたなこいつは。
「はぁ……やっぱり疲れるわね」
乗り心地は前よりも良かったがそれでも長旅は疲れるものだ。
レイも少し疲れの表情を見せている。
「まあ、今日はゆっくり宿で休もうか」
「それはできないわ」
体を休めようと提案したが、レイに強い口調で反対される。
なにか急ぎの用事でもあったか?
考えているとレイはスッと馬車で読んでいた本を取り出す。
「今日はここへ行くわよ」
「おお! これはうまそうじゃな!」
ページをめくり料理店を示す。
なんだ飯のことか、深く考えて損をした。
まあ、前回はあまり希望に添えなかったからな。
ファフニールも目を輝かせているし、ここは付き合ってやるしかないか。
「それじゃあ食べに行こうか」
俺が同意すると2人は嬉しそうに頷いた。
♢
観客席の一角にずらっと楽団がならび、管楽器によるファンファーレがギゼノン闘技場に鳴り渡る。
ついにこの日――全イスティナ闘技大会開催日を迎えた。
真ん中の舞台には俺を含め、本戦出場を決めた強者がずらっと並んでいる。
中には知っている顔もちらほらと見受けられるが、Sランク冒険者は数名と言ったところ、恐らくAランクあたりの冒険者が多いのだろう。
ロランもどこかにいるのだろう。
せっかくなら一緒に来たかったが、姿を見つけることができなかった。
俺たち出場者の視線の先に用意された壇上にはギゼノンの領主ケト=ラゼフが堂々立ち、俺たちを見下ろす。
なんとも素晴らしいファンファーレが終わり、会場から拍手が送られる。
その拍手が鳴り終わる時をみてケトが指先をピンと伸ばして右手を斜めに上げ開会宣言をおこなう。
「今日、この日、ここに集まりしはイスティナ全土から集いし強者である。皆が皆、素晴らしき強さを誇り、優劣つけがたい戦士たちであることを我が約束する。我はこの大会をおこなうことを夢見てきた。その夢が今叶おうとしている。この眩しく熱い太陽も諸君を一層熱くするものだろう。最後にここに立つ人間こそイスティナ最強の戦士である! それでは、これをもって全イスティナ闘技大会を開催とする!」
宣言を終え、右手を下すと会場から大きく、地面が揺れるほどの歓声が響き圧倒される。
闘技大会が今ここに始まったのだ。
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