第39話 ライバル

 手紙によると開催日は今から2か月後のようで1か月後から予選が行われるようだ。

 俺は予選を免除され本戦からの出場になるとのこと。

 予選までやるなんて、言っていた通りだいぶ大がかりな大会になるようである。


「おお、主人よ。なんじゃ面白そうなことが書かれているではないか」


 俺の肩へのっかかり目を輝かせて覗き込むファフニール。

 

「参加させないぞ?」


「むぅ……ケチじゃのう」


 あからさまに残念そうな顔をするファフニールだが、参加なんてさせるわけにはいかない。

 こんなやつが参加すれば大会がぶち壊れてしまう。

 人間に手を出せないという契約も先の件をみると闘技大会では意味をなさないだろう。

 

「予選もあるらしいが、レイは参加……しないよな」


「するはずないでしょ」

 

 まあ、その反応はわかっていたが。

 レイはこの大会自体良いと感じていないんだから。

 となると参加は俺だけ、この2人には応援でもしてもらおう。


 いや、レイはそもそも来るのか……。

 俺がレイを見ると彼女は怪訝けげんな表情をして口を開く。


「なに? そんな顔しなくても応援ぐらいするわよ」


 あの時のように会場にすら来ないのかと思ったが、さすがに応援には来てくれるようでよかった。


「その代わり約束しなさい」

 

「なにを?」


「絶対に勝つって。間違っても、死ぬなんてことはしないで」


「ああ、もちろん」


「そう、それならいいわ」


 死ぬなって、物騒なことを言うな。

 そりゃもちろん負けるために参加などするはずはない。

 レイの約束に自信をもって返答する。

 

「何を言っておるのじゃ? 我と同等以上に戦った主人じゃ、人間相手に負けるはずなかろう?」


 勢いよく俺から飛び降りて自分のことのように自信をもってレイに言うファフニール。

 こんな少女の格好だけどドラゴンに言ってもらうと力強いな。

 レイもそれを聞いて少し表情を緩めた気がする。


「そうね……その通りだわ。それでも私は心配してしまうの」


「どうしてじゃ?」


「どうしても、よ」


 しかし前からそうだがレイは何故あの闘技場、いやケトに対して嫌な印象を持っているのだろうか。

 ――レイのことだから聞いても話さないだろうけれど。


 ♢


「やあ、ロビンじゃないか」


「ロランか。巡回中か?」


「そうそう。今日も今日とて巡回だよ。あ、レイさんもこんにちは」


「こんにちは、覚えてくれていたのね」


「こんな美人な女性、忘れるわけないじゃないか」


 ギルドから出た所でロランに遭遇する。

 軍の鎧を纏い、都市を巡回している途中らしい。

 都市の平和を守る為の必要な仕事だと思うがロランの性格だ、もっと第一線で活躍したいのだろう。


「だれじゃこやつは? 主人の知り合いか?」

 

 ああそうか、ファフニールは初対面だったな。


「ロランは学校の同級生で親友だよ。あ、ロラン。こいつはファフニール、新しい仲間だ」


「ロランだ、よろしくな」


「うむ! よろしく頼むぞ」


 ロランは手をだし握手を求めるがファフニールは握手を知らないのか腰に両手を当てて挨拶をする。

 ロランは当然出された手をどこに持っていっていいのかと少し気不味い顔をしている。

 

「ファフニール、挨拶の時は手を出されたら握り返すものだよ」


「ん? そうなのか、それはすまないことをした。改めてよろしく頼むぞ」


 俺が握手というものを教え、ファフニールはロランから出された手に握手をする。


「しかし、また可愛いお嬢ちゃんだな。エルシーが聞いたらきっとまたむくれるだろうな」


 ん? なんでエルシーがそこで出てくるんだ?

 俺が疑問に思い首をかしげるとロランは呆れたように首を振る。

 なんかいつもエルシーの話になると呆れられるがどういうことなのだろうか……。


「そうそう、ロビン。聞いたか? ギゼノンで大きい闘技大会が開かれる話があるらしいぞ」


「ああ。さっき手紙をもらったよ」


 闘技大会の話はもう広まっていっているようだ。

 ロランもきっと参加したいのだろうな。

 学校の剣術実戦の時もこいつが一番熱が入っていたし。


「そうなのか、ロビンも参加するのか?」


「ああ、参加するって前に言っちゃったからね。本戦からの参加だけど」


「そうかそうか! そうだよな、ロビンは向こうでも英雄だしな」


 俺が参加すると知って嬉しそうに俺の肩を叩いてくる。

 手甲てっこうで叩いてくるもんだから少し痛いのだが。


「俺も参加するからよろしくな」


「え? ロランも参加するの?」


 軍人でも参加することができるのか。

 軍の仕事もあってこういう行事には参加することができないと思っていたのだが……。

 それともイスティナ中の強者って言ってたし、ケトが各地で交渉でもしているのだろうか。


「ああ、父に無理を言って通してもらった」


 なるほど。

 ロランの父は軍の幹部で権力者だ、これぐらいの無理は通せるってことか。


「それじゃあ、対戦することになるかもしれないな」


 ロランと俺は常に学校で剣術のトップ争いをしていた。

 まあ、レベル差がかなりあるので当然戦績は俺の全勝。

 俺はトップ、ロランは2位の位置でずっと過ごした。

 俺たちは親友でありライバルなのである。


「ああ、次は絶対負けないからな!」


「望むところだ」


 白い歯を見せ、とてもいい顔で宣言してくるロランに俺も負けず返す。

 ロランが参加するなんて余計にわくわくしてきた。

 できれば2人共勝ち続け、頂上で対戦したいものだ。

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