第38話 闘技大会の案内

 ♢


 森へ出没し、近隣の村を襲っていると討伐依頼がカルタナギルドにあった。

 そのCランク任務『コボルトキングの討伐』を受注し、絶賛遂行中である。


「ほれ、そっちへ行ったぞ主人よ」


 2足歩行をする犬の頭部を持つ魔物【コボルト】。

 成人の人間よりも小さく、その大きさは1メートル程度。

 犬の様な体毛が全身を覆い、手には棍棒を持つものもいる。

 そのキング級と言われる通常よりも位が高い個体の討伐が今回の依頼だ。


「了解。絡みつく」

 

 コボルト自体は非常に弱い種族であるが、それを群れにして統率すれば話は少し変わる。

 人海戦術ではないが、やはり数は正義なのである。

 さらにキング級というのはその群れを統率できるだけのものを持つ場合が多い。


 今回の場合はそれは強さであろう。

 明らかに大きさが他の者よりも大きく、その大きさは1メートル半ばに至るように見える。

 体毛は所々禿げた部分があり、古傷が見える。

 コボルト自体もすばしっこいがさらに速く、手に持つ棍棒も他の者より大きい。

 それが他の下位種のコボルトを何十体と統率し村を襲うのだ、村規模では被害が出てしまうだろう。


 しかしその数も俺たちにはなんの力にもならない。

 ファフニールが肉弾戦のみであれよあれよと討伐してしまいレイも魔法で討伐する。

 残ったコボルトキングは撤退しようと俺たちの隙間を抜けようとするがそれは許されない。

 スキル《絡みつく》によりそいつの体は影に捕縛される。


「盗む」


 スキルを使用すると俺の右手から影の様な大きな手が出現する。

 魔物のスキルや奴隷紋、そしてドラゴンの心臓まで盗んだ異質な影である。


「嗅覚と聴覚強化か」


 2度の盗むでスキル《嗅覚強化(超)》と《聴覚強化(超)》を手に入れた。

 3度目は影の手が素通りし、この魔物から盗むものがもうないと判断する。


「レイ、いいよ」


「ファイアボール」


 とどめを刺すようレイに合図し、レイの魔法が展開される。

 レイの杖の先からでるのは小さい炎の球。

 しかし、今までのファイアボールとは性質が異なる。

 彼女が魔力を注ぎ込んだ炎の球は凝集していき、密度の濃い蒼い炎となる。

 俺のファイアボールと比べると大きさはかなり小さいが、凝集させることでその熱を遜色のないものとしたようだ。

 

 その蒼い炎球が放たれ身動きのとれないコボルトキングに命中する。

 蒼い炎は瞬く間にコボルトキングを覆っていき、焼き尽くしていく。

 断末魔の叫びと共にやがてその姿は灰になって空に消えていく。

 そしてクエストクリアの証『コボルトキングの討伐1/1』の文字が表示される。


「まあ、こんなものかしら、ね」


 レイの魔法の実力はかなり上達している。

 魔法力の数値がただ単にあがっただけではない。

 考え、その魔法力を最大限に引き出す術を見出している。


 一仕事終えたとレイは長い金髪を手でなびかせた。


「うん、今回もうまくいったね」


「あなたのものと比べればまだまだよ」

 

「いや、それでもだいぶ凄くなったよ。同世代なら上位になるんじゃないか?」


 これは持ち上げているのではなく、本当に同世代なら上位に入る。

 俺がいっていたのはカルタナの名門【カルタナ学園】であるが、その中に入れても屈指のものと感じる。

 俺の魔法を見て参考にしていると言うが、学校に行っていないのにこれだけの魔法を出せるのは彼女の才能と頭の良さあってのことだろう。


「そ、そうかしら?」


「ああ」


 謙遜するレイに俺が強く肯定してやると彼女は照れくさそうに笑みを浮かべる。 


「ふぅ。今日もいい汗かいたのう」


 ファフニールは満足げに額をぬぐう。

 汗、かいてないよな? とこんな無粋なツッコミはしないでおこう。

 ファフニールには人間に害を及ぼさないようにしているのだが、こと魔物に関してはその契約は適用外だ。

 本来は俺たちとは無縁に生きてもらうためにそうしたのだが、思わぬ方向の活用となっている。


「さあ、帰るか」


「ええ、そうね」


 任務を達成したことだし俺たちはギルドへ戻ることにした。


 ♢


 ギルドへ戻り、報告して報酬を受け取る。


 俺のギルドランクは先日ドラゴンから都市を守ったことでSランクとなっている。

 カルタナギルド現6人目のSランク冒険者。

 もちろんその昇格の早さは異例である。

 聞くところによるとギルドマスターを上回り、最速とのことである。

 

「それとロビン様宛にお手紙がございますのでご確認ください」


 受付嬢から俺宛という手紙を受け取る。


 差出人はケト=ラゼフ――ギゼノンの領主からのようである。

 なんの用件だろうか。


 受付から離れて早速手紙を開く。


 『全イスティナ闘技大会の知らせ』


 手紙の冒頭にはデカデカとそう書かれていた。

 闘技大会――あのコロッセオで言っていたものか。

 まさかこんなに早く開催するなんて思わなかった。

 あれは冗談でなく本気だったようだ。


「なんの用件?」


「ああ、ギゼノンの領主から闘技大会の参加要請だよ」


「本気で参加するつもり?」


「なんじゃなんじゃ?」


「ああ、参加すると言ったしね」


 レイはやはりあまり乗り気でないといった表情だが、参加すると言った手前参加しないといけないだろう。


 まあ、強者と戦うのは俺としても燃えるというものだ。

 参加するからには優勝を目指そう。

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