第2章

第36話 ドラゴンは都市を歩む

 ドラゴンに勝利し、早3ヶ月が経とうとしていた。

 ここカルタナはとても平和であの日の激闘はもう感じられない。

 だが、ここから見えるモア・グランドはやはりその景色を変え、山頂の美しい雪景色からの緑の山はすっかり禿げてしまった。


「のう主人よ、我は街を歩きたいぞ」


 その原因とも言えるドラゴンもといファフニールはどういうことか俺の隣にいる。

 倒すことは無理な存在、被害を最小限にするために俺がとった手段はこいつに奴隷紋を施すことだった。

 その行動が巡りこういう結果となった。


 幸い人間の少女の姿をしたこいつをドラゴンだと思う人間はいないので騒ぎになることもない。

 それにドラゴンの時はあまり感じられなかったがファフニールは天真爛漫な性格らしく都市でもちょっとした人気者であり、人間と仲良くやっているようで安心している。

 困るといえば、俺がたまにロリコンだと疑われていることぐらいか。


「レイもいくか?」


「私はやめておくわ。少し疲れているから休みたいの」


 レイは相変わらずツンとしているが以前よりもだいぶ距離は縮まっている感じがする。

 相変わらずクエストを受注しては彼女のレベルをあげていった。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 レイ=アシュリー

 レベル35 状態:健康

 HP   : 380/380

 MP   : 400/400

 攻撃力  : 30

 魔法力  : 280

 防御力  : 30

 魔法防御 : 60

 かしこさ : 150

 素早さ  : 50

 器用さ  : 100


 スキル  : なし

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ステータスはこのように、か弱かった彼女もこと魔法においてはかなり力をつけている。

 彼女の魔法ですでにある程度の魔物ならば倒せるほどである。


 一方、ファフニールもパーティに加わりステータスを見ることができるが、それが少しおかしい。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 ファフニール(不明)

 レベル不明 状態:不明

 HP   : 

 MP   : 

 攻撃力  : 

 魔法力  : 

 防御力  : 

 魔法防御 : 

 かしこさ : 

 素早さ  : 

 器用さ  : 


 スキル  : ドラゴンクロー

        爆熱

        灼熱

        思念伝達

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ほとんどの部分が不明であり、能力値に関しては表示すらされない。

 やはりそこは人間でなくドラゴンといったところなのか。

 人間の秤では測定などできないのかもしれない。


「なんじゃ? 体力のない娘よの」


「あなたの今の姿でいわれてもね……」


 ファフニールとレイの相性はあまり良いとは言えない。

 どちらかと言えば寡黙なレイと天真爛漫なファフニール、合わないのは仕方がない。


「ハハハ。これでもお主よりはだいぶ目上であるぞ、敬うがよい」


「そうね、目上の人は敬わないとね。カワイイカワイイ」


「むぅ」


 レイにどや顔で言うファフニール。

 しかしレイは棒読みで彼女を子供扱いし、頭を撫でる。

 ファフニールは不満という感じで頬を膨らませる。


「それじゃあ私は部屋に戻るわ」


「そうか、それじゃあ俺たちは少し外に行ってくるよ」


 レイは休むために俺の部屋を後にし、自分の部屋に戻っていった。


「よし、行くぞ主人よ!」


「ああ」


 俺はファフニールと2人外に出る。


 ♢


「やはりおもしろいな、人間のくせに我の興味をそそるものが多くあるわ」


 何度か都市を回ったりしているがファフニールはその度に目を輝かせている。

 人間のつくる物すべてがこのドラゴンにとっては新鮮なもののようだ。

 ちなみに額の奴隷紋は髪と同じ赤色の額当てを買い、外に出る際は隠してもらっている。


 露店街に出ているがファフニールの視線は落ち着きなく露店を物色している。


 こう歩いていると娘というのはこういうものなのだろうかと思ってしまう。

 ……いや、俺よりこいつの方が相当年上なんだったか。


「おう、嬢ちゃんにロビンさんじゃないか」


「おぉ! おやじ殿、今日も頑張っておるようじゃの!」


「ハッハッハ! ほれ、今日も食べるか?」


「いいのか? 感謝するぞ――うむ、うまいな!」


「そうかそうか、それはよかった」


 俺達に声をかけてきたのは露店で果物を売っている商人。

 ファフニールファンの1人と言っていい彼はよく売り物のカットフルーツを餌付けする。

 今日もパイナップルによく似たパイノップルという果物をカットしたものを与え、ファフニールもそれを満足そうに口一杯に頬張っている。


 ついでに俺の分もくれる商人のおやじさん。

 ――うん、パイナップルの味だ。おいしい。


 最初は皆俺と一緒にいる少女と見ていたが、今では俺がおまけのような扱いだ。

 このような感じでこいつは都市の人間に受け入れられている。

 今日も変な行動は起こさず気楽な都市案内となりそうだ。


「――誰か! そいつを捕まえて!」


 後ろから声が聞こえてきたので振り返る。

 そこには倒れて手を伸ばしながら声を上げる女性、そして高価そうな女性物のカバンを持ち、フード付きの真っ黒なマントで顔を隠してこちらに走ってくる人間の姿があった。

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