第34話 激闘の後
さて、それじゃ戻ろうと思うがその前にやらないといけないことがある。
「じゃあドラゴン。俺と一つ誓いをかわしてもらうよ」
奴隷紋はその言葉をもって初めて強制力を持つ。
強制なので誓いとは違うかもしれないが、俺はドラゴンにそれを誓ってもらう。
『ん? なんだ? 言ってみるがよい』
「自分の命の危機以外に人間を殺めず害さないこと。これが俺と君との約束だ。それ以外は自由にしてくれていいよ」
『……プッ、ハハハハハハ』
俺の強制の誓いに少し沈黙の後ドラゴンの高らかな笑い声が脳に響き、同時に咆哮が鳴り渡る。
なにがそんなにおかしい?
『いや、すまん。その程度でよいのかと思ったのでな。お主わかっておるだろうな? 負けた我が言うのもなんだが、今、お主はとてつもなく大きな力を手にしているのだぞ?』
なるほど、確かにドラゴンの力は強大。
この力を使えばそれこそ世界を手中に収めることも可能なのかもしれない。
だが、俺はそんなことをするつもりはもちろんない。
奴隷紋の命令も最低限必要なことだけでいいのだ。
俺が無言の肯定をしているとドラゴンはそっと俺に近づき、その瞳を俺にしっかりと向ける。
『そうか、そうか。おもしろい! 我はやはりお主が気に入ったわ』
ドラゴンの顔の表情はわからないが、俺にはそれが微笑みに見えた。
「それじゃあ俺たちはもう行くから、おとなしくしといてくれよ」
『なんだ? 行くのか、我もいくぞ』
いや、それは勘弁してほしい。
ドラゴンと都市に戻るなんて大騒動になってしまう。
「いや、さすがにドラゴンを連れていくのはいろいろと問題になるから」
『そうか、残念だ』
良かった、諦めてくれたようだ。
そして俺は後ろを振り向き、待っているレイと兵士たちに向かって拳を上げて宣言する。
「さあ、カルタナへ戻るぞ! 俺たちの勝利だ!」
剣士たちが剣を鞘に抜き差しし、その音が重なり合い大きい音になる。
勝利の際にはカルタナの軍兵はこうして勝利を表現する。
それと同じく皆雄叫びを上げ、喝采が湧き起こった。
「ありがとう、おかげでうまくまとまったよ」
俺はその穴から出てレイに向き合い、感謝をする。
この状況で新たな被害が出なかったのは彼女の提案あってのことだ。
「いいわよ。本当に従えることができるかは私も半信半疑だったし」
「さて、戻ろうか」
「ええ、もうお腹が空いたわ」
激闘が終わり疲れ切っているところのレイの発言に思わず笑ってしまう。
全く、こいつは本当に食べることが好きなんだな。
緊張が一気にとけてしまった、うん、お腹が空いたな。
♢
俺たちがカルタナに戻る頃にはもう夜も更けていた。
昼は賑わいを見せるもこの時間は普段であれば静けさを見せる。
しかし、ドラゴンの騒動によりさすがにいつも通りとはいかないようだ。
それに――
「おおおお! 英雄が戻ってきたぞ!」
都市の門には多くの人が集まっていた。
その民衆が俺たちの姿をみて大きく声をあげる。
先に戻った兵が報告をしたのだろう。
多くの鳴りやまない歓声を浴びながら俺たちは都市に入る。
俺はギゼノンで似たような経験をしたからいいが、やはりレイは少し動揺しており挙動不審である。
その先に一人の使いが待っており、領主邸へと来るように言われ、俺たちは領主【リキウス3世】のもとへと向かう。
レイにはすまないが、食事はもう少し後になるらしい。
♢
「このたびは本当にご苦労であった」
ギゼノンの遺跡のような領主邸とは違い宮殿のような外観のカルタナの領主廷に入り、リキウス3世のいる部屋へと通される。
壁画ではなくカルタナ軍の印が大きく描かれた赤い垂れ幕が奥に構えているが、その内装はギゼノンのそれと似ており、かなり立派なものだ。
「ロビン=ドレイク。この度のお主の活躍に名誉カルタナ人民賞を与えようと思う」
名誉カルタナ人民? 国民栄誉賞みたいなものか?
とりあえずいいことなのは間違いないよな。
「ありがとうございます」
「よい、皆が待っている。手を振ってやってほしい」
「はい」
使いの者に連れられてローブに身を包む。
豪勢なキラキラとした装飾品を装ったローブを渡されたが希望を言って俺は自身のローブを纏う。
やはり名誉なことにはこの父さんがくれたローブを身に着けたい。
そしてリキウス3世と共にバルコニーへと出る。
そこから見下ろす領主廷の庭にはこの時間にもかかわらずやはり大勢の人が集まっており、広く見えた領主邸の庭を埋め尽くしている。
そして、俺が姿を見せるとやはり大きな歓声が巻き起こる。
暗いはずの外がとても明るく見える。
俺はそれに手を振って応える。
ロランたちは周辺の村などの民をカルタナに避難させていた。
父さん、母さんももしかしたらこの中にいるのだろうか?
流石にこの人だかりだとわからないな。
これを見てくれているのだとしたら誇りに思ってくれるのだろうか。
胸を張って自慢の息子だと言ってくれるだろうか。
遠く空を見ると昼の激闘がなかったかのように月や星が優しく輝く。
しかしこの歓声は確かにそれが実在したことを教えてくれていた。
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