第33話 不滅の竜

「ロビン」


「ああ、わかってる」


 レイが危機を俺に伝え、俺も急いで短剣を構える。

 後ろの兵士たちも剣を抜いた音が聞こえる。


 確かに心臓を奪ったはず。

 直接ドラゴンの心臓がその体内から取り除かれたかは確認していないが、そうでないとあの心臓の説明がつかない。


 次第に光の球が小さくなっていく。

 それは人間と同じほどのサイズとなって光を消していった。


 あのドラゴンのサイズではない。

 だが、そこにあったはずのその体がない。

 どういうことだ。


 そして現れるのは赤い体。

 それは確かにドラゴンの姿をしている、しているがあまりにも先ほどまで対峙していたその体よりも小さいものだ。


『剣を納めよ』 

 

 脳にあの声が聞こえてくる。

 やはりドラゴンで間違いないようである。


「生きてたのか?」


『面白いことを言うな』


 気持ち悪い笑い声混じりの声が届く。


 一筋の冷や汗が俺の額から流れているのがわかった。

 だが今こいつに動揺を見せてはならない。


「ロビンさん援護します、魔法部隊用意!」


「ウォーターキャノン」


 後ろで兵の声が合図となり複数の魔法部隊と言われる者たちが魔法を放つ準備にはいったようだ。

 《ウォーターキャノン》は水系の上位魔法――つまり職業魔法使いの者だけが扱える強力な魔法である。


『待て! 我に戦う意思はもうない』


 ドラゴンの声が脳に響く。

 それは俺だけに聞こえているわけではなさそうで、後ろの兵士たちもその言葉にざわざわとなっている。

 だが、「信じられるか」などのドラゴンの言葉を否定する兵士たち。

 

「みんな、一旦納めてくれ」


 俺は一瞬考えた後、戦わない選択をする。

 確かにここにいる者たちで力を合わせれば完全に倒すことができるかもしれない。

 しかし、このドラゴンが姿を小さくしただけでその能力が同じであれば話は別だ。

 もし戦うことになればあの灼熱の炎を止める手段はない。

 俺だけなら回避可能だが、後ろに多大な被害が出る可能性がある。


 俺も腰に短剣を納め、戦わないと意思表示を見せた。


「しかし、ロビンさん! こいつを野放しにすれば被害が出るかもしれません。ここで討たなければ」

 

 先程魔法部隊に支持を送っていた兵の声が聞こえる。

 どうやらこの兵がこの隊のトップらしい。

 その兵の言葉も納得がいくものである。

 ここでこいつを討たずに放っておけば脅威となる。

 このドラゴンにもしその意思はなくとも人はそれを脅威ととらえるだろう。


「レイはどう思う?」

 

「そんなこと言われてもね……」

 

 確かにこの選択をレイに委ねるというのはあまりにも酷だろう。

 しかし、俺では最善の選択がわからない。

 でもレイの後押しがあれば選択できる気がするのだ。


「あなたがそのドラゴン、従えたらどうかしら」


 少しの沈黙の後、思いついたかのようにレイの声が聞こえてきた。

 それはあまりにも無理のある言葉。

 ボケなのかとツッコミをいれてしまいそうな回答であり、少し力が抜けてしまった。


『我を従える? ハハハハ、それは愉快な話であるな』

 

 ドラゴンもあまりにも突飛押しもない回答で思わず笑ってしまっている。

 

『だが、それも良いだろう。それでここを納めると言うのであればそうしてやろう』


 なんと、受け入れるというのか。

 だが従えるといってもどうすればいい。

 後ろからも口々に「騙されるな」などという言葉が聞こえてくる。


「ロビン、あなた私から奴隷紋を盗んだって言ってたわよね?」


 レイの言葉で俺は持ち物を見る。

 確かに前に盗んだその奴隷紋がその欄には存在する。

 まさか、これを使えというのか。


「奴隷紋は絶対強制の主従の契り。それならみんなも納得するんじゃない?」


 兵たちの嘲笑が所々から聞こえてくる。

 それはできるならしてみろと言わんかのようなもの。

 レイの発言をバカにしている感じで少しイラッとくる。


 だが、これはドラゴンに使えるのだろうか……。それに人間ではないにしろ奴隷にするというのは少し気がひける。


『よい、その奴隷紋とやらを我に施せ』

 

「……わかった」


 悩んだが他のいい案もない、ドラゴンもこう言っているし試してみるだけ試してみるか。


 警戒してドラゴンに近づくも抵抗する様子はなく、俺の目をその金の瞳でしっかりと見つめている。

 持ち物の奴隷紋を選び使用するを選択。

 

 ビリビリと青い稲妻を発しながらドラゴンの額に紋が刻まれていく。

 ここまでは順調のようだ。


『これで終わりか?』


「いや、ここに俺の血で名前を刻む」


『わかった。好きにするがよい』


 俺は短剣で指の先に傷をつけ、血を滲ます。

 その血のついた指を紋の所に持っていき、名を刻む。

 ドラゴンの色と同じ赤の血、しかしやはり同じ赤でもその色は少し違うようで書いた文字ははっきりと見える。

 そして名を刻み終わった時、奴隷紋が光り輝く。


 なるほど、これが奴隷契約完了の証か。

 

「これでお前は俺の奴隷だ」


『ふむ、なるほど。不思議な力が感じるな』


「みんな、これでドラゴンは無害だ。もう戦わなくていいだろ?」


「あ、ああ……皆、武器を納めよ」


 ポカンとしていた兵たちだが次第に武器を納め、展開していた魔法も解かれる。

 これで大きな副産物を俺に残して完全に勝負がついた。

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