第32話 赤き流星が堕ちる
『ヤメロオオオオオッォォォオォォォオ!!』
「なんだ?」
ドラゴンのこの世のものとは思えない苦痛の叫びが伝わる。
耳を塞ぎたくなるほどの声だが脳に直接響くその音を防ぐことは叶わず俺を支配する。
俺の下で影がすっぽりとドラゴンを包んでいる。
いったい何がおこなわれているというのだろうか、いつも掴み取るとすぐに消えるが今回は捕らえたまま中々放さない。
だが少なくてもスキル《盗む》は攻撃技ではないので苦痛はないはずである。
その影に怯える魔物はいた、がそれとはまた別の反応だ。
これはそう、例えるならジリジリと体が蝕むしばまれる苦痛に似た叫び。
そして影の中から天をも揺るがし、天も裂けるかと思うほどの咆哮が響く。
それと共に影に纏われたその巨体が重力に従って地に向かって墜ちていく。
「え、ちょっと待て!」
地面に叩きつけられないよう慌てて短剣を引き抜こうとする。
しかしそれはしっかりと鱗の隙間に刺しこまれており、全力でも抜けない。
やがて影がスッと俺の体の中に戻るようにドラゴンからひいていった。
だがドラゴンが行動する様子がなく、それどころかすでに生気すら感じられない。
巨体はそのままグングンと落下速度を増していく。
「レイ! そこから急いで逃げろ!」
「えっ!? 何? ちょっと!」
山頂にいるレイに危険を伝える。
レイの戸惑いの声が聞こえたがなんとか兵と共にその場を退避していく。
俺の羽を使って勢いを止めることも考えたが、それはさすがに無理らしい。
短剣を抜くことも諦めドラゴンから身を引く。
その赤い巨大な体はそのまま隕石のように天から降り注ぎ、ついにそのモア・グランドの山頂に墜落する。
とんでもない轟音が夜にさしかかり暗くなった世界に響く。
同時に灰の混じった砂煙が山頂に舞い、現場を隠す。
「終わった……のか?」
やがて砂煙が薄くなり、クレーターの様な穴の開いた頂が見える。
そこにはやはりドラゴンの姿。
横たわるその姿が動き出すことはない。
俺も山頂に降り立ち、短剣を丁寧に引き抜いてそいつを確認する。
冷たい鱗、目は先程の苦痛が伝わるほどにかっ開いており、口も開いている。
地に叩きつけられた衝撃で顔の鱗はボロボロ、ツノは折れている。
先程まで感じられたその圧倒的な存在感はもうそこにはない。
しかし、それ以外には俺のつけた傷以外の外傷はなさそうだ。
「やっぱり死んでいる、よな」
なぜだ?
《盗む》によって予想外の事態が起きた。
考えられるのはやはりこのスキル。
俺は持ち物アイコンを開く。
いったい何を盗んだというのだ。
そこに追加されているのはスキル《灼熱》。
あの白い光の強烈な炎の方か?
だが、やはりこのスキルを盗んだだけでこうなるとは思えない。
「――ん?」
そこにはスキルではないが入手したことがないものの名前が存在していた。
――『ドラゴンハート(火)』そう名付けられたものだ。
凄くカッコイイ名前――ゲームである伝説の武器や防具か何かか?
今までの《盗む》では魔物からはスキルしか盗めなかった。
だが奴隷紋の例といい、例外に盗めるものもあるらしい。
さっそく、そのアイテムを取り出してみる。
さてどんなカッコイイものが出るのか……。
俺の手にそのアイテムの感触が伝わる。
ドクン、ドクンと脈打つそれは少しぬめりを持つ少し柔らかみのあるもの。
片手では足りないほどのサイズでどっしりとした重みがある。
ん? ドクン、ドクン……?
「まさか、な……」
嫌な予感。
恐る恐るその違和感のあるアイテムを目で確認する。
「――ォワッ!?」
思わず変な声が出てそれをおもいきり投げてしまう。
それは間違いなく、本物の心臓だった。
いやいや確かにそういうものには慣れたつもりだ。
しかし、だからといっていきなりくるのはだめだろう。
手にはまだその生々しい感触が残っていて気持ち悪い。
水があるならすぐに洗いたいぐらいだ。
俺の投げた心臓は高々と飛んでいき、夜空へと消えていった。
「ロビン、倒したの?」
「あ、ああ。どうやらそのようだ」
レイとカルタナの兵士たちが山頂に戻ってきてクレーターの外で話しかけてくる。
腑に落ちない部分が多いが目の前のドラゴンが死んでいるのは事実。
この死闘に俺は勝利したのは間違いない。
「はぁ、本当に勝つなんて。もう大抵のことには驚かないと思っていたけれど……」
レイがそのドラゴンを見ていつもの呆れたような口調で話しかけてくる。
しかし、その顔や声に少し安堵の表情があるような気がした。
さらさらの綺麗な金色の髪も汗でベタつき、とても似合うゴスロリ服にも汚れが目立つ。
――それだけ必死に援軍を呼びに行って戻ってきてくれたんだな。
「ありがとう」
レイに感謝を言葉にした。
「いいえ、今回もやっぱり役には立てなかったわね」
「そんなことはないさ」
笑顔でそれを否定してやる。
レイが俺のためにこんなになってしてくれたことがとてつもなくうれしい。
それに役に立たなかったってことはない。
兵の魔法がつくった一瞬の隙がこの勝負の決め手となったのだから。
俺はレイのもとへ行くためにクレーターから出ようとする。
「――なんだ?」
暗い景色に後ろから光が差してきた。
慌てて後ろを確認する――まさか、ドラゴンがまだ生きているというのか?
発光源はやはりドラゴン。
その体を白い光が包み、大きな光の球体となって輝いていた。
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