第30話 赤壁を崩す手段はあるか

 その後は拮抗した空中戦となる。

 攻撃力も防御力もドラゴンの方が上。

 しかし素早さはやや俺に分があるように思う。

 

 正面からの短剣と鉤爪の競り合い。

 裏を取られることはまずない。

 俺も背への短剣の攻撃は無駄と腹など装甲の弱そうな部位を狙いに行く。

 自慢の翼で空中を自在に飛び回り、競っては距離をとり、また競り合う。


 ――もう一度。

 飛び込む俺にドラゴンが鉤爪を振るう。

 それをギリギリまで引き付け体をひねってかわす。

 そのままもう一段加速、一気に懐に入り込み、そこで回転を加えて下腹部あたりに一閃。

 

 よし! うまくいった、これでダメージも――。


「――ッ!」

 

 右から衝撃が走る。

 俺の体はその衝撃にいそのままいともたやすく吹き飛ばされる。

 なんとか羽をはばたかせ体をとめ、前を向く。


「再生」


 即座に回復。

 影が腹を纏い傷を癒す。

 

 俺の攻撃直後に背の固くトゲトゲしい赤い鱗が見えた――尻尾での攻撃か。

 全く、攻撃後にも油断は一切許されないな。


『ハハハハ、一度ならず二度も傷を負うとはな』


 しかし、ドラゴンの腹には刺した跡とは別に一筋の傷。

 攻撃は確実に当たっている。


 もう一度、可能ならいずれかの傷口に深く刺せれば。

 勢いよく羽ばたいて放された距離を一気に詰める。


『接近戦だけが攻撃ではないわ』


 ドラゴンの口から火球が撃ち込まれる。

 

「スプレッドウォーター」


 それに合わせて水を放射する。

 まだまだ。


「シャドウ」


 爆発し、霧が発生したところで《シャドウ》を使い姿を消す。

 そのまま高温の霧を突破、加速にのせ一気に懐に飛び込みその勢いのまま短剣を打ち込んでやる。


「なっ!?」


 距離を詰めこのままというところでドラゴンの体が回転し、尻尾が俺の上方から振り落とされる。

 勢いを急停止させて体をひねって羽ばたき、なんとかそれを横にかわす。

 ――なぜだ。さっきもそうだが姿が見えている?


『不思議だ、と言う感じか?』

 

 同じ老若男女不明な気持ち悪い声だがその声色に嘲笑が含まれている感じがする。


「ああ、どうして姿が見えているのだろうね」


 その声に姿を隠したまま答える。


『姿なんぞ見えてはおらぬよ。ただな、空気は変化するものだ』


 自慢げな声でそう脳に響く。

 確かにさっきもその前も近くに接近するまでは目すら合わなかった。

 なるほど、そこまでされるともう姿を消して接近はできないか。


 ならば魔法ならどうだ?

 

 ドラゴンの上を取る。

 接近しなければ悟られることはやはりないようでドラゴンは明後日を向いている。


「アイスフォール」


 巨大な氷の塊を振り落とす。

 しかしその氷が降下するというところでドラゴンの顔がこちらを向く。

 口には漏れ出すほどの蓄えられた炎――あれはまずい。


 その灼熱の炎が白い光を放ち降下する氷を一気に溶かし、そのまま勢いを保って俺を襲う。


『無駄だ、無駄だ』


 なんとか事前に察知できたので避けられたが、魔法も駄目なようだ。


 このドラゴンから放たれる炎は2種類あるらしい。

 1つはオレンジ色の巨大な火球。

 そしてもう1つが今の白い灼熱の炎だ。

 火球の方は《スプレッドウォーター》で打ち消すことができるようだが、問題はこの白い炎。

 火球とはその温度が段違い、兵が一瞬でやられたのもこの炎であることから当たれば再生もできず一瞬で体が溶かされ、存在が残らないだろう。

 その分炎をため込む準備期間が必要なようで、瞬時にくることはない。

 

 いずれにせよ、一瞬の油断でこの命ないと肝に銘じなければ。


『そろそろ姿を見せてはどうだ?』

 

「そうだね」


 《シャドウ》を解き、ドラゴンに姿を見せる。

 姿を消している時の方がドラゴンの五感が研ぎ澄まされている気がする。

 正々堂々と戦った方がまだ分があるか。


 さてドラゴンの動きは大分読めてはいる。

 しかし、こちらも攻め手があまりない。


 下から赤い閃光が走る――ドラゴンがその巨体そのまま突っ込んできた。

 そのロケットのように飛んでくる頭部を短剣で防御、体は衝撃で上にあげられるがバク転し勢いを止める。

 すでに火球が迫っているがそれも横にさける。

 そのまま一気に標的に向かって急降下、その頭部目掛け短剣を向ける。


 また飛んでくる火球。

 読んでいた俺は勢いそのまま《スプレッドウォーター》で打ち消す。

 至近距離での爆発の熱風に巻き込まれるがそのまま突っ切る。

 先程の火球で俺に向けられ口が開かれている。

 よし、口内なら防御は薄いはず!


 刹那、重たい感触が短剣から全身に伝わる。

 確かに短剣はドラゴンを刺した。

 しかし、それはその口や装甲の薄い部分ではない。

 口が閉じられたことで丁度鼻の部分の固い鱗へ突き刺さる。


 しかし、勢いもありドラゴンも衝撃で地へ向け、体勢を崩す。


「盗む」


 短剣を抜き、体をバク転させ《盗む》を使う。

 ドラゴンを捕らえようとその大きな影の手が伸びる。


『それは喰らわぬ!』


 崩れた体をひねり、尻尾を振り払ってその影の手を打ち消す。

 ――また《盗む》が防がれた。

 しかし、今のドラゴンの声少し焦りがみえなかったか?

 思い違い? いや、最初からドラゴンは最初に《盗む》を成功されてから気にしていた。

 ならば突破口になるか? やってみる価値はありそうだ。

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