第29話 遥かな高みに並び立つ

「再生」


 今のは効いた。

 すぐに立ち上がるも全身に痛みが走る。

 あばら骨も何本かいかれているか?

 HPゲージも一気に5分の1持っていかれている。

 

 すぐにバジリスクから盗んだスキル《再生》を使用。

 全身を影が覆い、すぐに痛みがやわらぐ。

 影が消えると小さなかすり傷さえもなくなっていた。

 あの修復力をそのまま再現されているようだ。

 使ったのは初めてだが、やはりこれは使い勝手のいいスキルだ。

 HPもほぼ全回復。

 

『ほう、立つか。人間のくせに丈夫なようだ』


 霧が晴れ、目の前にその神話の存在がくっきりとあらわれる。

 後ろの太い2足で立ち、その高さは5メートル以上、全長はいったいどれぐらいだというぐらい大きい。

 肩から出た立派な腕には鋭い鉤爪。

 赤くドラゴン特有の顔、頭部には後ろ向きに目立つ2本の長い黒い角。

 霧で光沢の出た濃い赤の鱗には美しささえある。


 似た魔物なんかではない――これは間違いなくドラゴンだ。

 その神話の存在の眼が俺をじっと捉え、放さない。


 これは、やはり一筋縄ではいかないようだ。

 だが、動かなければやられるだけ。

 

「ウィンドエッジ」


 両手を横に広げ、風を集める。

 それは次第に6つの刃となり俺が手を標的に向けると同時に射出される。

 短剣が駄目なら魔法でどうだ。


 6つの刃がドラゴンの両側面から弧を描いて切り裂かんとする。

 

 ――やはり無理か。

 風はその鱗を裂くこと無く自然に溶ける。


『先の人間共よりはできるようだが、ぬるい』


 ドラゴンが腕を振り、鉤爪が俺を襲う。

 それを掻い潜りなんとか回避する。

 大地が鉤爪でいとも簡単に抉られ、穴ができる。

 なんという力だ、それにその巨体のわりに速い。


 懐に飛び込む形となった俺はそのまま腹に短剣を突き刺さんと飛び込む。

 腹の装甲はそれ以外よりは薄い様だ。

 根元まで突き刺した剣に確かに身を突く感触が俺の手に伝わる。

 

 よし、これならなんとかなるか。


 ドラゴンが身をよじる勢いで剣が抜け、体が振り払われる。


「盗む」


 体をうまく回転させ、ドラゴンに盗むを使用。

 影の手はそいつの体を確かにつかみ取る。

 なにか強力なのを盗んでくれよ。

 

 また襲い来る鉤爪を横にかわしながら入手したものを確認。

 そこには『スキル《思念伝達》』の文字――戦闘では役に立ちそうにない。


 鉤爪を避けた俺に間髪を入れず尻尾がムチのように地を這って俺を目掛けてくる。

 それを上に跳んで避ける。

 すぐさまドラゴンの顔が俺に向けられ、その口には炎が蓄えられている。


「バットンウィング」


 勢いよく吐かれる灼熱の炎を天へ急上昇しなんとか避ける。

 

 ひとつ大きく息を吐く。

 危なかった、一撃で命を刈り取ろうかという攻撃があんなに連続でくるなんて。

 再生で回復できるダメージならいいが、油断すれば一瞬でこの命がなくなるかもしれない。

 

 灰まじりの砂埃が地に舞う。

 そう思った時にはその両翼を広げた体は俺の目の前にいた。

 

『お主、奇妙な技を使うな』

 

 対峙する俺にまた声が伝わる。

 奇妙な技――《盗む》のことか?

 なら、お望み通り。


「こいつのことか? ――盗む」


 巨大な影の手を右手から顕現させる。


『やはりそれは人間の技ではないな、どこでそれを手に入れた?』


「さて、それはわからない。盗賊になった時からこのスキルを持っていたからね」


 一直線に標的を掴まんと手が伸びる。

 次こそ戦闘を有利にするスキルを盗んでくれ!


『ふん!』


「なっ!?」


 ドラゴンの腕が影の手に振られたと同時に影の手が裂かれたように消失する。

 今まで盗む物があった標的には絶対必中だったこのスキルが防がれた。

 しかもこの影の手は実体がなかったはずだ。


『我を舐めるでないぞ』


 いや、今は攻めることを考えるんだ。


 短剣を突き刺すため、懐に一気に入り込まんと飛び込む。

 しかし、ドラゴンが身をかわし俺の短剣は空を突く。

 そのまま急いで体を反転も振り向いた時にはすでに鉤爪が俺の上から振り下ろされている。

 避けるのは無理か――短剣でその鉤爪を受け止める。


 少し勢いで体が押しこまれるが、なんとか受け止められた。

 

 すかさず次は巨大な太陽のようなオレンジ色の火球が上から迫る。


「スプラッシュウォーター」

 

 なんとか水で火球を蒸発させる。

 発生した霧の中から巨大な影が迫ってくる。

 俺は攻撃を未然に防ぐ為に霧のない所まで一気に昇って回避した。

 

「アイスフォール」


 手を天に向け巨大な氷の塊を生成する。

 ドラゴンの影は未だ下方にあるその霧の中で動く。

 そいつにこれを叩き込むため、手を振り下ろす。

 それを合図に先が尖った形の巨大な六角柱の氷が高速で落下――よし、感触あり。


 しかしその影は地に叩きつけられること無く上昇。

 すぐに俺を追い越していき、上を取られる形になる。


『やるでないか、驚嘆したぞ。中々に我を楽しませてくれよる』


「それは光栄だね」


 ドラゴンが俺の実力を認めた。

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