第27話 愚者は英知には届かない

「どういうことだ!」


 当然討伐隊に加勢にきた冒険者たちは納得できない。

 立ち台に乗る指揮官。

 周りには500を超える軍兵が乱れず整列しており、それに割り込んで冒険者たちは口々に不平不満をぶつける。


 他の冒険者が言っているので直接口にはださないが、もちろん俺も納得できるはずはない。

 相手はドラゴン、違う魔物だとしても強大な敵に変わりはない。

 その相手に立ち向かうのに軍も冒険者もなく協力するべきなのだ。


「静まれい!」


 怒号に耐えかねた指揮官が叫ぶ。

 さすがは指揮官といったところか。

 その迫力のある叫びに冒険者はその口を塞ぐ。


「これは討伐確率を上げるためのものである!」


 その言葉にまた次々と怒号が飛び交う。

 当然であろう、俺たち冒険者が足手まといだと言っているのと同義なのだから。

 今まで数々のクエストをこなし腕を磨いてきた彼らを侮辱している。


 指揮官は手を前に出して静粛するよう促すが収まらず声を荒らげる。


「隊列も組めないやつらと共闘なんてできるはずなかろう! 確かにお前たちは個人では腕の立つ強者なのかもしれぬ。しかし! 連携を図るうえでは足手まといにしかならんと知れ!」

 

 冒険者たちは押し黙るほかなかった。

 それは正論に近いものだったからである。

 ここにいるメンバーは共闘というものをしていないわけではないだろう。

 しかし、それはこんなに大規模ではない。

 個別戦闘と集団戦闘では勝手が違うことぐらいはここにいる彼らは理解しているのだ。

 

「ならなぜ俺たちを招集したんだ!」


 だがそれでも冒険者たちの不満は残る。

 ここにいる者たちは領主の要請に従い集まっているのだから。

 1人のその言葉にまた場が乱れようとするが、それは指揮官の手を振り下ろす動作で静まる。


「これ以上無駄な時間をかけるわけにはいかん」


 整列していた軍兵が俺たちを取り囲み剣を抜いたのである。

 相手は500以上の訓練を積んだ兵、対してこちらは僅か50名ほど。

 正直俺は負ける気はしないが他の者はそうでないらしい。

 武力行使されると引くしかないと場から続々と退いていき、俺もそれに続いた。


 残った軍の討伐隊で作戦会議がおこなわれて俺たちはその後ろで離れてそれを眺める。


「あーあ、軍の奴絶対手柄を渡したくないからだぜ」


「いっそ全滅でもしてくれればいいんだ」


「こら、聞こえるぞ」

 

 あんなに高かった士気は失われ、作戦の失敗を願う者すら出ている。

 気持ちはわかるが作戦が失敗したらこの周りの村や都市に被害が及ぶかもしれないんだ、言って良いことと悪いことがある。


「ロビンはどう? 軍だけで勝てると思う?」


 ふとレイが俺に問いかけてきた。


「どうだろう、俺も軍の強さはわからない。無事勝ってくれればいいけれど」


 そう答えたが、相手が伝承通りのドラゴンなら間違いなく負けるだろう。


「そう……負けた場合はどうするの?」


「俺たちが戦うしかないだろう」


「やっぱりそう言うのね」


 「わかっていたわ」と諦めた溜息が彼女から漏れる。


 しばらくして軍が動き出す。

 作戦を開始するのだろう。

 山に向けて500もの兵がその歩を進めていった。

 

 ふもと――いや来る途中、見てすぐその山火事の凄惨さはわかった。

 白く美しい山の景色は殆ど失われていたからである。

 雪は溶けたその部分は地肌が、木々が生い茂っていた山の山頂から三分の一ほどには灰が積もり、黒い模様になっていたのだ。


 そこへ我がカルタナ軍が今入っていく。

 

 俺たちはただここで待つしかない。

 何人かはやる気をなくし帰っていったがそれでもまだ多くが残った。


 ♢


 太陽が真上まで昇り、降りようとしている。

 待つのも飽きた冒険者が横になったり話に更けていたその時、ついに事は起こる。

 山から爆発音が聞こえ、山頂からは一筋の煙が立ち上った。

 ――ついに戦闘が開始したようである。


「お、始まったようだな」

 

 残った俺たちの視線もその山頂に向く。

 どうなっているのだろうか。

 こちらからその戦闘状況はわからない。

 

 しかし、それも束の間であった。

 俺たちの目に見て明らかな勝敗が一瞬でついたのだ。

 

 一瞬にして目を焼くような強烈な光。

 熱風が俺たちを吹き抜ける。

 光が止んだとき俺は山頂で何が起こったかを察した。

 なにもなく地肌を見せていた頂きに煙が立ち込める。

 それは先程の一筋の煙などではない。

 多くのものが燃えてしまった証明である。

 

「お、おい……俺は逃げるぞ」


「ああ、あんなものと戦うのなんて馬鹿げている」


「いかなくて良かった、いかなくて良かった」


 次々に冒険者たちがカルタナに向けて走って逃げる。

 そう、確実にあの煙は兵が焼かれたもの。

 山のふもとと山頂――この離れた距離でもそれが明らかにわかる。

 その圧倒的な破壊力を持った炎に冒険者の戦意は消え失せてしまったのだ。


 逃走は逃走を生む。

 すでにこの場には俺とレイ、2人しか残ってはいなかった……。


 ⭐︎以下レッドドラゴンの挿絵⭐︎

https://kakuyomu.jp/my/news/16818023213830305282

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