第26話 いざ戦地へ
レッドドラゴンを目撃し、人が避難をおこなったモア・グランドふもとの村が討伐拠点となった。
そこへ冒険者たちも向かい、軍と合流する予定だ。
「ロビン!」
よく聞いた声が届き、1人の軍兵――ロランが俺のもとへ駆け足で寄ってくる。
「ロビンもドラゴン討伐にいくのか?」
「ああ、ロランもか?」
「いや、俺は下っ端だからさ……」
どうやらロランは討伐軍には選ばれなかったようだ。
実力は確かな彼だが、新兵では大事には呼ばれないのだろう。
残念そうな表情の裏にはきっと腕の自信が表れている。
「周辺の村人の避難を任されているんだ」
「そうか、お互い頑張ろうな」
「ああ!」
相手の胸に拳を当ててお互いを鼓舞する。
避難誘導だって大事な仕事だ、胸を張ってほしい。
「お前の両親に会ったらお前の活躍を伝えといてやるよ」
「やめてくれ、なんか恥ずかしいから」
悪戯な笑みを見せるロラン。
きっと両親は喜ぶだろうが、それを友人から堂々と言われると恥ずかしい。
自然に伝わってくれるのが一番だ。
「ロラン! 上官が怒っているよ! ――ってロビンだ!」
ゆっくりとロランを呼びに来たエルシーだが、俺の姿を見るやその速度を上げていつものように飛びついてきた。
「はいはい」
いつものように頭を撫でて挨拶してやると「んぅ」と可愛らしい声で鳴く。
「ほら、エルシー。上官が怒っているんだろ?」
これも毎回のようにロランが俺からエルシーを引き剥がす。
「あっ! そうそう、早く戻らないと!」
パッとした表情で言うエルシー。
この一瞬で自分の役目をすっかり忘れていたようだ。
「あなたもそろそろ行かないと置いていかれるわよ」
こちらもレイが迎えに来た。
すでに周りには冒険者はおらず、置いていかれているようだ。
「ああ、これがあの噂に聞く美人のお仲間さんか。はじめまして、ロビンの友達のロランといいます」
「昨日言っていたお友達?」
「ああ、そうだよ」
「はじめまして、レイです」
ロランが昨日話した友達だとわかるとレイも彼に挨拶をする。
挨拶をするとロランはなにやら気持ち悪くニヤつき俺とレイを見ている。
こいつ、変な勘ぐりをしているな。
「むむぅ、これがロビンの……」
エルシーはエルシーでなんか頬を膨らませている。
「ほら、エルシーも挨拶しないと」
「むぅ、エルシーです……」
「どうも」
あの人懐こいエルシーがなんかむくれている。
どうしたんだろうか。
「まったくやはりロビンは隅に置けないな」
「そういうのじゃないって」
「このこの」と肘で突いてくるロラン。
やはり勘違いをしていたか。
「負けないからね!」
エルシーはなんでかレイを指差して闘争心を燃やしているし。
そもそもなんの勝負をするんだよ。
「ほら、お前ら上官に怒られるぞ」
これ以上面倒にならないためにもこいつらに告げてさっさと行くよう諭す。
「あっ! そうだった!」
エルシー……また忘れていたのか。
こいつは昔から1つ新しいことをするとさっきまでのことを忘れる。
猪突猛進というかなんというか。
「それじゃあ俺たちは戻るよ。レイさんとうまくやれよ!」
「またねー!」
「だから違うって」
ってもう走っていってるし、まったく元気なやつらだ。
でも、ロランの誤解はまだ解けてそうにないな。
「さ、あなたももう行くわよ」
「ああ」
レイと共に先に行ってしまった冒険者を小走りで追った。
♢
都市の門を出た先で合流することができたがレイはもう肩で息をしている。
「あなた、ちょっと速いわよ……」
「ごめんごめん」
大分抑えて走ったつもりだったがレイのペースに合っていなかったようだ。
いつも気にしてレイのペースに合わせていたのだが、友達に会って少し気分が浮ついているのかもしれない。
「そういえばこの美人の嬢ちゃん、いつもお前さんと一緒だが相当腕が立つのかい?」
大きな盾を持ち、全身に厚い鎧を纏った守護者であろう冒険者の一人が俺に話しかけてきた。
確かにレイと俺はずっと一緒に冒険者をしている。
しかしレイはまだ15歳なので冒険者登録しておらず、また実力も他の人からすると不透明であろう。
「うーん……」
正直に言うとレイの実力はここに居て良いものではない。
最初に比べるとレベルも上がり、魔法の威力も上がったがBランクのそれには程遠いのだ。
しかし正直に言うと彼女にも悪いし、かといって嘘をつくと指揮系統を乱しかねない。
どうしようか、レイに目をやると彼女がかわりに答えた。
「私は足手まといよ、力にはなれないわ」
はっきりと言うんだな。
「それじゃあお前さんの彼女か」
その淀みない回答に守護者の男は「ふむ」と納得したように言ってきた。
また誤解をされたようだ。
誤解を解こうと否定するが、どいつもこいつもそれに聞く耳を持たない。
まあ、別に悪い気はしないけど……。
気にしていない風なレイを横目に俺は一つ溜息をついた。
♢
「冒険者の諸君、わざわざご苦労。しかしこの作戦は我が討伐軍のみでおこなう」
熱意そのままに集合場所の村に着いた俺たち冒険者。
しかし討伐隊の指揮官から開口一番に告げられたのはその衝撃の言葉だった。
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