第25話 緊急クエスト

「なんだ?」


 朝早くにもかかわらず、けたたましい鐘の音で目が覚める。 

 外からもなにやら金属を叩いて走る音が多く聞こえてくる。

 せっかく固くないベッドで快眠の予定だったのに台無しだ。


「お客さん、お客さん!」

 

 それに続き、部屋のドアがドンドンと叩かれる。

 声からしてこの宿屋の主人らしい。

 こんな慌ててどうしたんだ?

 まだ脳が目覚めないうつろな体を起こし、ドアを開ける。


「お客さん、非常事態宣言です! それにお客さんあてにギルドの使いの者が来ています!」


 そこには汗を垂らし、息のあがった主人。

 いよいよ俺も只事ではない事態になっていると察する。

 急いで用意して受付に行く。

 客が集められた中にレイが1人の男の人と一緒にいるの見えた。

 

「ロビン、遅いわよ」


 レイが俺に気づいて手招きしてくる。

 昨日渡した髪飾りをちゃんとつけてくれている。

 緊急事態なのにそれに真っ先に気づき、嬉しく思う自分がいた。


「ごめん。それで、こちらの人がギルドの使いの人?」


「はい。緊急事態にて、失礼ながらこちらまで来させていただきました」


 黄色のローブを着たギルドの使いが一礼をする。

 それに俺も礼を返し、早々に本題にうつる。


「昨晩カルタナの南西に位置するモア・グランドにてレッドドラゴンが出現したと報告がありました」


 レッドドラゴン? 

 ドラゴンってあの神話のドラゴンか?

 しかしあれは神話の話、本当にいるなんて聞いたことはないぞ。


「それは確かな情報なのですか?」


「ふもとの村人の証言です。しかしモア・グランドで大規模な山火事があったことはこちらも確認済です」


 なるほど。

 しかし夜の出来事――目撃したのがドラゴンに似た他の魔物という可能性もまだあるというわけか。

 大規模な山火事をおこせる魔物となればどちらにしろ危険なことには変わりないが。


「それで、やはりその討伐が今回の件ですか?」


「はい、そうなります。軍がもう討伐に向け準備しておりますが、冒険者にも助力依頼がきております」


 軍に加えてか、領主もこの事態を深刻に捉えているようだ。

 ドラゴンが相手なら当然のことだとは思うが。

 いや、ドラゴンが本当に相手ならイスティナ全土の軍をかき集めても勝てるかどうか……。

 

 ならば俺も参加して力になるしかないだろう。


「わかりました。引き受けましょう」


「そうですか、本当に感謝いたします」


 参加の意思を伝えると使いは深々と頭を下げ、感謝の意を述べる。


「わかっているの? 相手はドラゴンよ?」


「だからこそ俺たちがやらないと」


「まったく……。まあ、あなたならドラゴンさえも倒せるのかもしれないわね」


 半ば諦めた感じでレイも依頼を受けることを承諾してくれた。


 使いによると集合場所はギルドの前らしい。

 急いでレイと共に向かう。

 そこにはすでに参加者が集まっていた。


 集まっている人数はそこまで多くなく50人余りほどか。

 声をかけたのがBランク以上で強制でないということからこの人数は仕方がない。


 ギルドのランク別の人数はEランクを除きピラミッド型となっている。

 Dランクが一番多く、最高ランクのSが一番少なく、その数は5名ほど。

 まさに選ばれた者だけが辿りつく場所である。

 しかし、ざっとみたところその5名はいずれも不在。

 イスティナ全土から依頼のある彼らだ、中々つかまえることは難しいのだろう。


「おぉ、ロビンじゃないか」

 

「バジリスク討伐のロビンか」

 

「ロビンがいるなら心強いな」


 声をかけてくるこの職業様々な冒険者たちもこの都市ではもちろん名の通った冒険者である。

 カルテナでは元より俺は有名だったが、バジリスク討伐でより箔がついているらしい。


「集まってくれて感謝する」


 ギルドの扉が開かれ、そこからこのカルテナギルドのマスターが姿を現す。

 緑のローブを羽織り、杖を突いた細身の年のいったおじいさん。

 今ではその面影がないが、冒険者時代は名を馳せ、【剣帝】とも称されていたそうだ。

 もちろん当時のランクはS。

 父さんからも話は度々聞かされ、憧れの人だったそうだ。


 滅多に目にかかれないその人物が目の前にいて挨拶をする。

 当然それに集まった冒険者たちも視線を向け、静粛にその話に耳を傾けた。


「皆も聞いておる通りモア・グランドにてドラゴンが出現したという報告がなされた。報告が本当ならとても危険な任務となるだろう……。しかし、我ら自慢の精強な冒険者諸君であればきっと成し遂げられると考えている。皆の粉骨砕身の活躍を期待しておる!」

 

 杖ごと拳をあげるギルドマスター。

 それに呼応して冒険者たちも右手をあげ大きな声で鼓舞する。

 力強い高ランク冒険者とカルタナ軍が力を合わせればなんとかなる。

 俺も右拳を天に掲げ、この場と己を鼓舞した。

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