第20話 パレードと闘技場

 ♢

 

「やあ、ごきげんよう。どうした? 寝不足か?」


 昨日は本当に一睡もできなかった。

 そうなった元凶――ケトが目の前にいる。

 

「おかげさまで」


 仏頂面で返す俺になぜかケトは高笑い。


「よきかな、よきかな。お熱い夜を過ごせたようでなによりだ」


「違います。俺とレイはそんな関係では――」


 俺の否定はケトの高笑いによって打ち消される。

 くそ、寝不足のせいもあって久しぶりにムカッときた。

 しかし、相手は間違ってもこの地の領主様――下手な真似はできない。


「寝不足は仕方ないが、パレードでは笑顔で振る舞ってくれよ」


「それは、もちろん」


 あなたに言われたくはないと内心思いつつも堪える。

 もちろん祝いの場、しかも主役は俺なわけなのだから相応のものにしたい。


 白いターバンに白く上下がつながった服を着せられ、広間でその時を待つ。

 これがこの国の礼装なのだそうだ。


「準備が整いました」


 使いが広間に来て告げる。

 

「それでは参ろうか」


「はい、レイはその間どうするの?」


「私は町でも見て回っておくわ」


「そうか。じゃあ行ってくる」

 

 レイを残して俺とケトは共に外へ向かう。


 話ではこの門の前から都の中心にある【コロッセウム】までの距離をまわるとのこと。

 門の前に近づくとすでに人の声が聞こえてくる。

 やっぱり少し緊張するな。


 太陽の日差しが廊下まで差し込む。

 それを抜けると一気に歓声が耳に轟いた。


 門の前には馬車。

 2頭の見るからに屈強な馬が引く、小さい2輪の乗り物が用意されている。

 これは昔戦争などで使用されていた戦車、【チャリオット】というものだそうだ。


 それに俺とケトが搭乗し、ケトが右手を上げ高らかに宣誓する。

 ざわついていた場が一気に静寂に包まれ、皆の視線が一気にこちらに向かう。


「諸君、急にもかかわらず集まってくれてまずは感謝する。ここにおられるはロビン=ドレイク。あのバジリスクを討伐せし英雄である!」


 ここでケトが一呼吸置く。

 それに民衆が呼応し、拍手して沸き上がる。

 そしてしばらく置き、彼の挙げた手が握られるとまた場が静まる。


「我が精強な軍が7日7晩かけようやく討伐したバジリスクを、たった半日で討伐せし強者つわものである!」


 ここでまた一呼吸。

 民衆も同じく沸き上がり、彼の手の合図で同じく静まる。


「新たな英雄の誕生を今日は盛大に祝ってもらいたい。盛大な拍手で迎えてくれ!」


 おおおお! と一層の沸き上がりを見せる場。

 皆彼の一挙手一投足に注目しており、彼のカリスマ性がうかがえる。


 そしてケトがチャリオットの手綱を握り、ゆっくりと馬車が動き出す。

 両脇には床が見えないほどの民衆。

 盛大な拍手と歓声が俺を包む。


「ロビン、君もどうか手を振って応えてやってほしい」


 言われるまま笑顔をつくって手を振る。

 それにその盛大な歓声がより大きさを増す。

 それはなんというか凄いとしか言えないもので俺は圧倒される。


「どうだ? ギゼノンの者は元気が良いだろう」


「はい、とても。こっちが圧倒されてしまいますね」


 ハハハと満足気に笑うケト。

 それからどんなに進んでも民の道は途絶えず、それに祝福される俺はまさに英雄のよう。

 いや、少なくともここでは英雄でいいのか。


 ん? あれはレイじゃないか。

 この都市では目立つゴスロリ服に金髪の少女が民衆に紛れて見えた。

 俺はそれに向け手を振るが、レイはそっぽを向いて民衆の中に埋もれるように消えてしまった。


 そして進むこと1時間ほどであろうか、太陽が天の真上に上がる頃パレードの終着点が見えた。

 

 古の昔造られた、岩でできた威厳ある円形の建物――コロッセウム。

 3万人収容可能というその建物は主に闘技場として使用されるらしい。

 砂漠地帯故に環境資源に乏しく、遺跡などの観光資源に頼るこの都市。

 その中でも莫大な資産を生むのがこのコロッセウムである。


 また、ギゼノンの軍はイスティナ全土でも屈強な軍として有名である。

 そしてそのギルドに登録された冒険者も同じと聞く。

 とにかく強さを求める民族性を象徴するものと言ってもいいかもしれない。


 コロッセウムの入り口まで到着し、下車する。

 ケトと共にコロッセウムの中に入る。

 いくつものアーチから日差しは入るものの、薄暗い通路を進んで階段を最上階まで上がる。

 音のしない空間にカンカンと俺たちの足音が冷たく響き渡る。

 先程の盛大な歓声に耳が慣れたのもあり、それがすごく異質に聞こえてしまう。

 

 そして、領主専用の席という場所のアーチへ入場する。

 バッと中の景色が目に飛び込んでくる。

 真ん中に闘技をおこなう円形の舞台。

 それを囲むように観客席が幾数も用意されている。

 ただそれだけのシンプルな構造なのだが、歴史がそうさせているのだろうか、とてつもない威圧感を感じる。


 この場でこの後特別試合が行われるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る