第19話 凱旋
「さて、戻ろうか」
「そ、そうね」
少し俯きながらこちらに振り向くレイ。
帰りは馬車がない。
レイに「抱えていこうか?」と提案するが、「やめて」と即拒否された。
♢
日も落ちたころ、ようやくギゼノンの都市に到着する。
昼の暑さとはうって変わって夜はかなり冷える。
「バジリスク討伐完了しました」
「おお、それはそれは。では早速ケト様にお伝えしますので少々お待ちくださいませ」
ケトが待つ祠に向かい、クエスト完了の旨を門にいた使いに伝える。
使いはケトにそのことを伝えるため、中に入っていった。
門の隣に鎮座するその像は静かに、しかしより大きい存在感を示している。
「中に。ケト様がお待ちです」
しばらくし、使いが戻ってきてケトがいる広間へ通される。
「ロビンよ、よくぞ、成し遂げてくれた。我は感服である」
椅子の前で立って俺たちを迎えるケト。
わざとらしく声に抑揚をつけ、彼は歓迎してくれた。
外は冷えるがこの広間は暖かく、彼は日中と格好が同じである。
「それにしてもあのバジリスクを半日で討伐するとは、少々驚きであるな」
「光栄にございます」
「よいよい」
膝をつこうとした俺を彼は制止する。
「我は新たな英雄をこの目に見ることができたことを大変喜ばしく思う」
英雄、か。
その響きはすごくいいものだ。
立派な大人になるという目標に近づけたような気がする。
「それでこの英雄を皆にも見てもらいたいと思うのだが、どうだろうか」
「どうするのですか?」
「パレードをおこなうのだ」
パレードか。
スポーツで優勝した時とかにあるあの感じのものだろうか。
カルタナとは違い、この都市には俺を知らない人の方が多いだろう。
ずっと注目はされてきたが、パレードとなればこの都市皆の注目を一斉に浴びることになる。
いざ想像すると少し恥ずかしいが……。
「レイはどう?」
「私はごめんよ。あなた一人でお願い」
「そうか」
「嫌か? 皆、きっとお前たちの、英雄の顔を見たいと思っているぞ?」
そうだろうとは思ったが、やはりレイは嫌なようである。
俺一人で参加するのは余計恥ずかしが……。
いや、いい意味で目立つならやるべきか。
ケトも期待の目でみているし、厚意を断るのは気が引ける。
「わかりました。俺一人でよければ」
「そうか、それは良かった。では早速準備させよう」
「い、今からですか?」
まだ心の準備が……。
早速という言葉に反応した俺にケトは高笑いする。
「さすがに今からは無理だ。明日に執り行う」
良かった。
まあ、冷静に考えればそうだよな。
準備に結構時間もかかるだろうし、もう日も暮れている。
明日でもすごい早い気がする。
「では、今日はもうゆっくりと休むがよい」
「はい、ありがとうございます」
使いに誘導され広間を後にする。
その暗い廊下を外へ戻っているとふと使いの動きが止まり、横を向く。
「こちらにございます」
広間の時と同様に使いが手をかざすと壁と思っていたその岩が開く。
中は広間より少し狭いが、それでもかなりの広さの部屋であり豪勢な装いを見せる。
広間と同じシャンデリアがその白い空間を照らす。
部屋の中央には小さな円卓テーブルに椅子が向かい合わせで2脚。
左側には何人寝れるんだというような大きなベッド。
見るからにフカフカそうで、それは映画に出てくる王や王妃が寝ているそれのよう。
右側にある化粧台の鏡は大きく、輝く装飾が縁どられている。
客間だと使いは簡単に言うがその空間に俺は圧倒される。
「では、ごゆっくり」
「ちょ、ちょっと待ってください」
使いは部屋を後にしようとするが俺はそれを止める。
理由は簡単だ。
俺とレイ2人にこの部屋で過ごせと言うのだ、それはできない。
「何か不都合がございましたか?」
「すみません、小さくてもいいのでもう一部屋用意できませんか?」
「恥ずかしがる必要はありません。お若く好き合う男女、別々の部屋にどうしてできましょうか」
「いや、俺たちは――」
「それでは、私はこれにて」
俺の話を聞かず使いは部屋を足早に後にして扉が閉じられる。
「ちょっと」
あれ? 使いが手をかざすと簡単に開いた扉が開かない。
どうなっているんだ?
魔法や力ずくで壊すわけにもいかないし……。
閉じ込めらてしまったか。
「諦めましょう」
平然と椅子に腰かけるレイ。
「レイはいいの? 俺と一緒の部屋で一晩なんて」
出会った時もそうだったが、彼女は何も思わないのだろうか。
それはそれで男として見られていないようで悲しい。
「それはもちろん……。 も、もちろんなんとも思わないわ」
あ、少し動揺して早口になった。
今日はレイのこういう姿がよく見られる日だな。
なんとか俺も男と思ってもらえてるみたいで少し嬉しい。
「さ、もう寝ましょう。英雄様はベッドで寝て」
「レイは?」
「私はこのまま椅子で寝るわよ」
そのまま円卓に伏せて寝ようとするレイ。
しかし、さすがにそういうわけにもいかないのでなんとか彼女にベッドで寝てもらう。
フカフカのベッドで寝れないのは残念だが、仕方ない。
しばらくして寝ようと机に伏せる俺の耳にレイの寝息が届く。
はぁ、今日は眠れそうにないな。
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