第14話 ケト=ラゼフ

 都市の端、使いに連れてこられた場所は岩の祠。

 小さい山のような一枚砂岩を掘って造っているその姿は古代遺跡のよう。

 門の横には左右3体ずつの巨大な鎮座した人間像。

 そこに至るまでの10メートルほどには柱が立ち、そこにはびっしりと文字が刻まれている。


 その祠こそが領主の居る場所のようで、俺たちは使いに従い中に入らんとする。


「あっ、すみません。俺たち服装が……」


 尊厳な佇まいを見た俺は自分が今から領主に会うのだということを思い出す。

 当然のことながらかなりの大物。

 そして、その方と会うのには俺たちの服装はあまりにも失礼なものだ。


 俺はせめてもとあわててローブを着ようとするが、その前に使いが口を挟む。


「ご安心を。ケト様はそのようなことを気にするお方ではありません。むしろ冒険者らしくてその方が良いかと思います」


「そ、そうですか」


 使いに諭され、ローブを着ようとして開いた選択画面を戻す。

 

 祠の中は道の左右に明かりはあるもののさすがに薄暗く、そして静かだ。

 装飾品などはなくただただ岩を切り開いただけの道が続き、俺たちの足音だけがその場を支配する。

 そしてしばらくすると行き止まりに打ち当たった。

  

「この中でケト様がお待ちでございます」


「え? この中?」


 あるのはただの岩の行き止まり。

 だが、使いがその岩に両手をつけると岩が輝きを見せる。


 ドドドドと音を立て分厚い岩が左右に割かれる。

 岩の扉? しかしどうやって開いたんだ?

 その扉はその廊下程の広さまで開かれ、中の光景が広がる。


 今までの薄暗い廊下のそれとは違い、中は実に明るいものだった。

 部屋の中央には赤いカーペットが敷かれ、天にはシャンデリアがデカデカと輝きを見せる。

 奥には3段の小さな階段があり、その先には立派な椅子が置かれている。

 壁には壁画がびっしりと描かれている。

 その壁画の意味は分からないけれどその状態から大分昔に描かれていたものと推測できる。

 椅子には1人の男が座っており、この男がケト=ラゼフと理解した。


「ロビン=ドレイクよ、よくぞはるばるこのギゼノンに出向いてくれた。我がこのギゼノンの領主、ケト=ラゼフである」


 左足を右膝に乗せ、椅子の手もたれに左肘をのせ頬杖をついたケトが迎えてくれる。

 俺たちは前に行き、膝を折って頭を下げる。


「よいよい、我は堅苦しいのが嫌いだ」

 

 ケトの言葉で頭をあげ、目を向ける。


 この人がこのギゼノンの領主。

 意外と若い、これが最初に思ったことだ。

 頭に薄く巻いた白いターバンの下から黄金に輝く金の短髪がのぞく。

 肌も潤っており、シワの1つもない。

 胸のはだけたかなりラフな格好で、下は赤いサルエルパンツを履いている。

 しかし、その格好とは反対にその細いルビーの瞳の奥からはっきりとした威厳がこちらに伝わってくる。


「そちらは連れの者か?」


「はい、こちらは仲間の――」


「レイと申します」


 俺の言葉を遮りレイが名乗る。


「そうかそうか、カルテナで最強と名高い男にこんな美しいひとがいたか」


「レイと俺はそのような仲では――」


「照れなくてもよい」


 ハハハハと高らかに笑うケト

 使いの言う通り、この領主の男はそんなに堅い人間ではないらしい。

 

「ところで今回のクエストの内容を教えていただきたいのですが」


「ふむ、まだ無駄話をしようと思ったが。まあよい。本題に入ろうか」


 崩した体勢を解き、膝に両手をのせ、前かがみの状態になったケトは問う。


「『バジリスク』という魔物は知っておるか?」


「もちろん、知っていますが」


「そのバジリスクの討伐だ」


 ニヤッと笑みを浮かべ言ってのけるケト。

 見えた地雷であると理解していたが……なるほど、これで金貨100枚は安い。

 

 バジリスクは厄災をもたらす魔物。

 古い昔、緑豊かな都市であったこのギゼノンを砂漠地帯にしたという伝説を持つ魔物。

 その危険さと姿から『蛇の王』と呼ばれることもある。


「それを何故俺に? バジリスクならば軍を出し討伐するのが良いのでは?」


 危険すぎる魔物――バジリスクぐらいになるものは軍を出し討伐するのが普通である。

 少なくともいち冒険者に依頼するものではない。

 特にこのギゼノンの軍は精強であると評判であり、その実力は相当のもののはずだ。


「それでも良いのだがな。カルタナ地方に強い者がいると耳に挟んだので一度会いたく思ってな」


「試してやろう、ということですか?」


「物分かりが良い男だ」


 やはり高笑いするこのケトという男。

 ひと癖ある男というのはよく分かった。


「して、どうする? 自信がないのならば今断っても良いが」


「俺以外にも依頼している冒険者はいるのですか?」


「いいや、お主たちだけだ。断れば言う通り軍をもって討伐に当たるつもりだ」


 他に共闘する冒険者もなし。

 なるほど、本当に俺たちだけで討伐させてやろうということか。


 ――おもしろい。


「そのクエスト、快く受けさせていただきます」


 ⭐︎以下ケト=ラゼフの挿絵です⭐︎

https://kakuyomu.jp/my/news/16818023213103837552

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