第15話 蛇王バジリスク

「頼もしい! ならばロビン=ドレイクよ、成し遂げてみせよ」


 立ち上がり、ビシッと人差し指を俺に向けケトは俺に言う。

 視界の右上にはクエストとして『バジリスク討伐数0/1』の文字。

 Cランクではありえない難易度のクエストの始まりが告げられた。


 ♢


「バジリスク、ね。まさか本当に存在するとは思わなかったわ」


「だな」


 ケトのもとを後にし、バジリスクがいるとされる場所へ馬車で向かう。

 授業で習ったバジリスクの最後の目撃は50年近く前。

 数十年単位に単発でここギゼノン周辺に出現するこの魔物。

 蛇種の魔物の突然変異説などが言われているが実際のところその生態系は不明である。

 ギゼノン軍による討伐の記録があるが、実のところその存在自体否定する者もいるほどの存在。


 その得体の知れない存在が本当に存在し、その討伐をこれからおこなう。

 確かにこれを完遂すれば英雄であろう。

 

 馬車が止まり、俺たちは下車する。

 遠く目に映るのは一面砂の景色にぽつんと生える木々と泉。

 ――オアシスか。

 

 これ以上近づくのは危険とのことでここからは2人、徒歩で向かうことになる。


「暑いわね」


 そりゃそうだ。

 この日が照る砂漠地帯にその白黒のゴスロリ服。

 太陽を吸収したこの砂はどのくらいの温度を持っているのだろうか。

 酷だが、仕方ない。

 我慢してもらわなければ。

 

 しばらく歩き、ようやくオアシスに到着する。

 疲れの見えていたレイは早速泉の水を手で掬って飲む。

 

「はぁ、冷たい。生き返った気分ね」


 バジリスクは……いないのか?

 その小さいオアシスを一周眺めてみるが、そのようなものは見えない。

 それどころか小さな生物の姿さえなさそうだ。


 小さいとは言えオアシス。

 水分補給に生物が集まっていてもおかしくはないが、やはりバジリスクが原因か?


「あなたはいいの? とてもおいしいわよ」


「ああ」


 レイに勧められるまま俺も泉から水を掬って飲んでみる。

 

「おいしい」


「でしょ?」


 水なんてなんでも同じだろうとおもっていたがこれは別格だ。

 この砂漠の暑さと特別感もあるのだろうが、冷えたこの水はとても体にしみわたる。


「ん? 地震?」


 地面の僅かな揺れを感じた。

 地震かと思ったりもしたが、そんなはずはない。

 この世界に自然発生する地震はないのだから。


 となれば恐らくそういうことだろう。


「レイ、気を付けろ」


「ええ、分かっているわ」


 地面の砂がズズズと盛り上がる。

 それは道をつくり、こちらに向かってくる。


 レイにできるだけ木々のある俺の後方へ下がるよう指示し、俺は短剣を構えてそれに備える。


 まもなく足元近くまでそれが近づき、一層大きな音を立てた後、砂漠から勢いよくそれは出現する。

 大きく口を開け俺を飲み込まんとするその巨体。

 俺は短剣で防御し、それを食い止め、力を入れて弾き返す。


 弾き返し、距離ができたところでその姿を確認することができる。

 コブラに似た顔回りの大きな巨大な蛇。

 その太さは俺の体3つ分、長さはいったいなんメートルあるのだろうか、想像もつかない。

 茶色く黒い鱗模様が全身にあり、特に腹の模様は髑髏のよう。

 そして頭部には蛇の王と言われる所以となる王冠に似た突起物。

 赤く輝くその王冠は鉱石だろうか。


「おっ、と」


 顔に集中していたところ、横から尻尾が俺を払おうと振り払われていた。

 咄嗟に上に跳びそれを回避する。


「レイ! MPの限り魔法を放って攻撃するんだ」

 

「はいはい。ファイアボール」


 蛇にレイの放った炎の球が着弾する。

 しかし、煙が消えたその部分には焦げ一つない。

 ――やはり効かないか。


 しかし、それは想定済み。

 その後も次々とファイアボールがその巨体に着弾していく。


 動じていない様子のバジリスクだが、標的をレイに変更する。

 その巨体に合わない素早さで牙をむき出しにして這いずり、レイに攻撃せんとする。


 しかし、それでも俺の素早さには勝てるはずもない。

 俺はその動きに先回りして口を裂こうと短剣を横に振り払う。

 

「ッ、硬い」


 扱いやすいだけの簡素なこの短剣。

 バジリスクの鱗は硬く、その切れ味では不十分らしい。

 それでも力まかせになんとか口を裂く。


 しかし、その攻勢は止まず俺の体に巻き付く様にその体を纏おうとする。

 それが締め付ける前に跳んでかわす。


 そして上方から短剣をその身に突き刺す。

 勢いもありなんとか短剣は突き刺さるが、引き抜く際にバジリスクの体が激しく動いたことにより短剣が根元より折れてしまった。

 その力に俺も振り払われるように体を投げ出される。

 咄嗟に体を回転させて着地し。

 ギラギラと眼光を放ちつつも冷たい、その黒き双眼と対峙する。


「ん?」

 

 頭部の鉱石が赤い輝きを増す。

 同時に裂いたはずの口が修復、短剣を突き刺した部分も刃やいばを飲み込み、その傷口はみるみる塞がれた。


 ⭐︎以下蛇王バジリスクの挿絵(イメージ)⭐︎

https://kakuyomu.jp/my/news/16818023213188134160

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