第13話 砂漠の都

 依頼内容を見るとそれはもう簡潔なものだった。

 魔物の討伐。

 報酬はざっと金貨100枚。

 詳細はギゼノンにて、英雄を望む。

 

 なんだこれは?

 明らかに説明不足。

 これでどう受諾しろというのだろうか。


 しかし金貨100枚。

 領主の依頼とは言え膨大で魅力的な報酬額だ。

 いったい何を討伐すればこんな金額になるというのだろうか。

 ここからも危険な臭いがプンプンしている。


 普通ならこんな明らかに見えている地雷には飛び込まないだろう。

 しかし俺は違う。

 どんな魔物が来ても倒す自信がある。

 それにそのような危険な魔物から盗めるスキルはなんなのか。

 そっちに興味が湧いてくる。


「英雄ねぇ……受けるのですか?」


「当然。むしろようやくといったところだ」


 いぶかしそうな目をするレイに言う。


 早速受付で受諾の旨を伝える。

 ギルドからギゼノンへ行く馬車がすぐ手配されるそうだ。

 これは助かる。


 俺たちは用意された馬車へ乗り込む。

 頭部に鎧を装備した馬二頭が人6人は乗り込める大きさの白い布で覆われた4輪の箱を運ぶ。

 そのような大きな馬車に俺たち2人だけ、大分スペースに余裕がある。

 乗り心地はいいとは言えないものだが、それは仕方のないことだろう。

 整えられた道はあるものの、前世ほどのそれではないのだ。

 

「ロビンはギゼノンの領主とは知り合いなの?」


「いや、面識はないはずだけど」


「じゃあどうしてわざわざあなた宛てにクエスト依頼を出したのかしら」


「さあ、なんでだろうね」


「全く……。やっぱりなにか危ないものなんじゃないの?」


「そうかもしれないけど、あの報酬は魅力的だろ? それに俺たちなら多少危険でも大丈夫だよ」


「過信にならないといいけれどね」


 馬車で揺られる中、自信ありげに言う俺にレイが忠告する。

 だけれども過信しているわけではない。

 勿論、今回のクエストは危険なものになるだろうと言うのは分かっているつもりだ。


「それに、私はあの領主は好かないわ」


「レイはギゼノンの領主を知っているのか?」


「直接は知らないわ」


「知らないのに嫌いなの?」

  

 知らない人を毛嫌いするのは良くないな。

 レイがそういう人だとは思わなかった。

 ただ、少し下向きになる彼女を見ると何かあるのだろうかと思う。

 そして彼女はボソッと小さな声でつぶやく。


「え?」

 

「なんでもないわ、とにかく好かないだけ」


 意味深な彼女の態度。

 しかし深くは話してくれそうにもない。

 

「ギゼノンってどういうところかな?」


 これ以上この会話は続かなさそうなので会話を変更してみる。


「そうね。トメトが名産みたいよ」


 結局食べ物かよ! とツッコミたくなるがグッと抑える。

 ちなみにトメトは前世でいうトマトに非常によく似たものである。

 形は多少不格好だが味も似ていれば名前も似ている。

 それは間違いなくトマトそのものであろう。

 他にも名前は微妙に違うが似ている食べ物はこの世界には多くある。


 レイは食べ物の話と必要な会話の他にはあまり口を開かない。

 元々無口なタイプなのであろうか、それとも俺の話がつまらないのか。

 レイと出会ってしばらく経つが、所謂世間話というものを多くした覚えがない。

 だが、そんな彼女だからこそ時折見せる女の子らしい可愛い仕草に胸がグッと掴まれるのかもしれない。


 今回も以降、特に話は繋がりを見せず。

 俺は馬車の後ろの布を開けて流れる景色を楽しんで暇をつぶす。


 ♢

 

 馬車に揺られること3日目草原地帯から徐々に景色は砂漠へと姿を変える。

 ギゼノンに近づいた証であろう。

 

「もうすぐかな?」


「そうね、きっともうすぐよ」


 さすがのレイも顔に疲れが見えている。

 2泊3日、結構な長旅である。

 寝るのは立ち寄った町や村の宿屋。

 それでも1日の殆どを馬車でじっとしているというのは意外と体力がいるものである。

 馬車に揺られたり不十分な道を進んだりするその感覚は寝る間も体が覚えてしまっていて変な感覚になる。


 そして、疲れて馬車内にてウトウトしていたところで馬車が止まる。


「到着しましたよ」


 御者が布の扉を開き、俺たちに到着を告げる。


「ありがとうございます」


 俺たちが馬車から降りると、ここで待つよう御者より指示される。

 砂の都と呼ばれるギゼノンの街並みが広がる。

 砂に近い色をした白茶色のレンガや石造りの建物が多く、風が吹けば砂塵が舞う。

 植えてある植物も葉が刺々しくカルタナの植物とはまた違った感じだ。

 砂漠に適した乾燥に強い植物なのだろうか。


 この地域特有の装いなのだろうか、道行く人は頭にターバンを巻いている人が多い。

 中にはこれでもかというほど太く巻いた人も見られる。


 そして一番目立つのは高くそびえ立つ巨大な1本の柱。

 建物を隔て、距離はここから少しありそうだがその存在感は一際大きい。

 四角形で先が尖っているその柱は神が鎮座する場所なのだそうだ。


「お待ちしておりました、ロビン様」

 

 しばらくその場で景色を眺めていると1人の老人に声をかけられる。

 ターバンを頭に巻き、体型は細い。

 口周りに真っ白な髭を貯えながら顔は日に焼け浅黒い男性。

 まるで仙人のようなご老体だ。


「あなたは?」

 

「この地の領主であらせられるケト様の使いにございます。これからは私がケト様のもとまでご案内させていただきます」


「そうですか、よろしくお願いします」


 俺たちはその使いの案内に従って依頼人――ケト=ラゼフのもとへ向かった。

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