第11話 スキルはアイテムですか?

「わかった」


 レイはMPが切れたので最後は俺が決めよう。

 ちょうど目の前のウルフも残り1頭。

 鼻にシワを寄せ、牙を剝いて唸ってこちらを威嚇している。

 先にとびついた仲間がやられているので迂闊にとびこんでくる気配はなさそうだ。


 よし、試してみるか。

 いったい魔物からは何を《盗む》のか。


「盗む」


 あの時と同じく、右手から大きな影の手が出現する。

 ウルフはそれを見てそのまま尻尾を丸め一歩退く。

 怯えているのだろうか。

 

「何よそれ……」


 モクモクとした黒い手は影を落とし、その姿は少し禍々しい。

 確かにこのスキルが攻撃技でないと知らなければ恐怖するだろう。


 そして俺は影を標的に放る。

 咄嗟に横に跳んで避けるウルフだが、この手は追尾能力もあるようでグイッと方向を変えてそれを追う。


 素早いウルフも次は逃れることができず、影に捕まる。

 影の手の拳がウルフを握ると影は消失した。


 怯えた様子のウルフがその場には残った。

 勿論攻撃技ではないため、ウルフの見た目にはなんの怪我もない。


 さて、成功したよな。

 何を盗めたのだろうか。

 ウルフも襲ってくる様子がないため早速持ち物アイコンを確認する。

 

 ――ん?

 『スキル《ウルフズファング》』の文字がそこにはあった。

 スキル? スキルを盗むなんて聞いたことないぞ?

 いや、それを言うなら奴隷紋もそうだけど。

 そして選択すると『使用しますか?』の文字。

 やはり使用可能なようだ。


 これは試してみなければ。


 意を決したのかウルフがこちらに向かって牙を剝いて駆けてくる。


「ウルフズファング」

 

 出るは《盗む》と同じ大きな影の手。

 しかし、その手の先がみるみるうちに変化をしていく。


 それを見てウルフの足が止まる。


 そして手は最後にはウルフの頭部の形となる。

 しかし、それは目の前の標的のそれよりも3倍ほどの大きさはあろうか。

 影の頭部はその禍々しく黒い牙を剝きだし咆哮する。

 ウルフは堪らず振り返り逃げ出そうとするがすでに影は標的を定めていた。


 逃げる背に大きな影が迫り、そしてその大きな口は標的を捕食する。

 捕食が完了するとその影は無形となり消えていった。


 なんだこれは。

 使用者の俺が困惑する。

 魔物のスキルを奪い、それを使用する。

 それは聞いたこともないことである。


「それはいったい何なの?」

 

 レイも混乱しているようだ。

 顔には恐怖すらうかがえる。


「《盗む》?」


 俺も分からず疑問形で返答する。

 そう、レイ以上に困惑しているのは俺自身なのである。


「ロビン、それは《盗む》ではないわ」


「じゃあレイはこれが何か知っているの?」


「いいえ……。ただ、それがとても危険なものだということはわかるわ」


 それはそうだ。

 何を盗むかわからないこのスキル。

 奴隷紋にスキル、どちらも通常《盗む》では盗めないもの。

 迂闊に使用するのは危ないのかも知れない。

 しかし、それと同時に何を盗めるのか試したい気持ちが奥にあるのを自分でもわかった。


「とりあえずクエストは終わったわよね。ギルドへ戻りましょう。疲れたわ」


「ああ」


 レイの言う通りにカルタナへ戻ることにする。

 

 報酬を受け取るがやはり赤字である。

 まあ、それは仕方がない。

 早くランクを上げて良い報酬のクエストを受注できるようになるまでの辛抱だ。


 それに今回の目的はもう一つある。

 レイのレベル上げだ。

 ウルフとゴブリン、特にゴブリンは道中何度も遭遇し、討伐した。

 少しはレベルが上がっているはずだ。


 期待を込めてレイのステータス画面を見る。


 ――――――――――――――――――――――――――――――

 レイ=アシュリー

 レベル22 状態:健康

 HP   : 210/210

 MP   : 75/75

 攻撃力  : 15

 魔法力  : 70

 防御力  : 15

 魔法防御 : 50

 かしこさ : 35

 素早さ  : 20

 器用さ  : 30


 スキル  : なし

 ――――――――――――――――――――――――――――――


 ――え?

 俺は目を疑った。

 レベル1しか上がってない?

 確かにゴブリンとウルフでは貰える経験値は少ないだろう。

 でも、あれだけ討伐してレベル21からレベル22?

 

 ここにきて俺は実感する。

 神が言っていた経験値超絶アップがすごいということを。

 これだけ狩ればレベル21からだったらレベル30ぐらいまでいっていてもおかしくないのだ。

 それがその恩恵がなければたったの1だけ。

 これは、中々時間がかかりそうだ。


 「はぁ」と思わず溜息を吐く。


「何? 駄目よ、食事中に溜息なんて。せっかくの料理がまずくなってしまうわ」


「いや、レイが強くなるまでは時間がかかりそうだなって」


「失礼ね。今日は頑張ったじゃない。それに、異常なのはロビンの方なのよ」


 そう言って、大衆食堂で注文した定食を綺麗に食していくレイ。


「そうだよね……」


 まあ、それは分かっているんだけどさ。

 ちょっと期待と現実とのギャップに凹んでしまうのは仕方がない。

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