第10話 仲間との初クエスト

「朝か」


 窓から爽やかな日差しが差し込む。

 うーん、ちょっと腰が痛いな。

 間取りなどは宿泊するのには不便ないが、安いだけあってベッドが固い。

 やはり自分の家の慣れたわらベッドの方がいいな。


「あら、おはよう。遅かったのね」


 フロントに行くとすでにレイが待っていた。

 まだ朝早いというのに彼女は寝ぼけた様子はない。

 長く手入れに時間がかかりそうな綺麗な金髪にも寝癖など一切なく決まっている。


「今日もギルドへ行くのでしょう?」


「ああ、もちろん」


 宿屋を後にし、軽く朝食をとりギルドへ向かう。


「おいおい、ロビンの奴すっげえ美人をつれてるぞ」


「二日目からあんなのつれやがって。さすがは勇者になる逸材だな……いや、もう盗賊になったんだっけか?」


「ガハハ。言ってやるなよ。しかしどこの貴族様だあれは」


 朝早いというのにこのギルドもすでに活気づいている。

 ただでさえ目立つ俺にさらに目を引き付けるレイがいる。

 嫌味混じりの声が聞こえるが、仕方がないか。

 誰もこのレイが昨日まで奴隷だったなんて信じないだろう。


「ロビン、あなた有名なのね」


「まあ、そうだな」


 さすがにレイの耳にもこの声と視線を感じたようだ。


 まあ、そんなこと気にせずさっさとクエストを受注しよう。


 レイにもギルド登録をさせようと思ったが、聞くと彼女は15歳。

 ステータス画面に職業が表示されていなかったからそうと思ったがやはり未成年。

 俺と1歳しか違ってなくても16歳と15歳では大きく違う。

 ギルド登録は成人にならなければできないので無理ということだ。

 クエストを受注できるのは1人につき1つまでなのでこれは痛い。

 

 ランクDで受注可能なクエストをボードで見る。

 ――やはり2人分の生活を満足にできるような報酬のクエストはないな。


 仕方なく一番報酬が高かった『ウルフの討伐』を受注する。


 カルタナの近くにある村を荒らすウルフを討伐する依頼だ。

 収穫期の農作物があるようで、それが被害にあっているそうだ。

 討伐目標数は10体。

 

 ギルドを出て早速依頼された場所に向かおう。

 と、その前に――。


「レイは武器は何がいいんだ?」

 

「私も戦うの?」


 どうしてという顔をするレイ。

 だが、仲間として少しは活躍してもらわないと困る。

 頷くとレイは「うーん」と顎に人差し指を当てて考えて言う。


「やはり、杖がいいでしょうか?」


 確かにステータス的にも魔法職が良いだろう。

 近接職よりも守りやすいし。


 また出費となるが必要経費と割り切ろう。

 装備屋に寄り安い杖を購入してレイに渡す。

 防具は俺がいるから大丈夫だろう。

 そこまでの出費はさすがにできない。


 ♢


 この村は森のすぐ近くにある。

 これじゃ魔物に荒らされても仕方がない。

 なんでもこの時期になると毎回クエスト依頼をおこなっているそうだ。

 それでもこの地に居続けるのはこの土地の土壌がよっぽどいいからだろう。


 森に入り捜索すると俺達の臭いを嗅ぎつけた3頭のウルフの群れが側面から襲ってくる。

 ウルフはその素早さと鋭い歯と強い顎を武器とし、黒の混じった白い体毛でその身を守っている。

 大きい個体ではその大きさは体長2メートルにもなるという。

 名前通り前世の記憶にある狼によく似た雑食の魔物である。


 気配を消し、奇襲のつもりだったのだろう。

 普通の人間ならば避けることすらできなかっただろう。

 しかし、俺は別である。

 飛びつく際の草の軋む音を聞いてから反応しても余裕だ。

 すぐさま短剣で2頭を切り、1頭を足で蹴り払う。


「レイ、頼んだ」


「やっぱりあなた1人で十分じゃない……」


 ぶつぶつ言いながらも枝の先を残ったウルフに向け魔法を放つ。


「ウィンドエッジ」


 枝の先に風が纏い圧縮される。

 その風は半月状となってウルフに向かう。

 ダメージを受けたウルフではその風刃を避けることはできず綺麗に両断される。


 《ウィンドエッジ》は風属性の基本魔法の一つ。

 魔法は大きく2つに分類される。

 1つは魔法使いなど魔法職でなくても使用できる基本魔法。

 そして魔法職が扱う上位魔法の2つである。

 なので当然俺もこの魔法などの基本魔法は使用することができる。

 

「こんなものでしょうか」


 一仕事を終えたとレイはそのサラサラの金髪を払う。

 魔法よりのステータスだけあって思ったよりも威力がある。

 これは成長すれば中々の魔法使いになるのではないか?

 

 その後もウルフやその他遭遇したゴブリンもレイに討伐させる。

 

 俺が狩れば経験値の半分は仲間に入る――ゲームであればそういうシステムがあるのだろう。

 事実クエストでは仲間が討伐した分も討伐数としてカウントされる。


 しかし経験値はさすがに都合のいいようにはできてはいない。

 この世界は努力した分経験値が入り、レベルが上がってそれに見合ったステータスが上昇する。

 つまり、何もせずただパーティに入るだけでは経験値は全く貰えないのである。


「MPが切れました」


 ウルフ討伐数9/10と記されたところで彼女のMPは枯渇してしまったようだ。

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