第9話 美しい花にはお金がかかる
「はい、確かに。では、こちらが今回の報酬となります。更に今回の成果によりギルドランクがDとなりました」
レイと一緒にカルタナに戻りギルドで報酬を受け取る。
ゴブリン討伐の報酬は銀貨3枚と銅貨5枚。
そして早くもギルドランクがDに昇格した。
Eランクというのがチュートリアル的扱いなのだろうか。
この国の通貨は銅貨、銀貨、そして金貨の3種類。
分かりやすく、銅貨10枚で銀貨1枚、銀貨10枚で金貨1枚の価値になる。
こちらの主食である一般人向けのバゲットのようなパンで大体銅貨2枚。
外食となると大衆食堂の定食が銅貨5枚前後。
安い宿屋で1泊銀貨2枚ほどの価格である。
ということは、だ。
今日必要となるのはとりあえず俺とレイ2人分の食事、そして宿舎代。
それだけで少なくとも銀貨5枚必要ということになる。
一応家から出る時に持っていたお金はまだ余裕がある。
しかし、まさか初日で赤字とは……先が思いやられるな。
「さあ、食事にしましょう」
ギルドから出ると外で待ってもらっていたレイが早速食事の催促をしてくる。
ずっと飯飯とかなり空腹なようだ。
しかし、レイの姿を見て俺はため息をつく。
そうだ、待ってもらったのはその格好で中に一緒に入ってほしくなかったからだった。
その美しい見た目には似合わない貧相な布の服を着る彼女。
さすがにこの姿のままというわけにはいかないだろう。
「すまないが、まずは服を買いに行くぞ」
「え? 食事の方が大切でしょ? そんなにロビンはおしゃれが好きなの?」
「俺のじゃない、君のだ」
俺が言うと彼女は自分の身なりを確認する。
ようやく理解してくれたのか彼女は少し恥ずかし気な顔をした。
「そ、そうね。さすがにこれはないわよね……」
服屋でとりあえず安いもので適当に見繕ってもらう。
「見て見て! どうかしら?」
試着を終えて俺に見せびらかせてくるレイ。
うん、白と黒のゴスロリ服が映える。
レイ以外にこの服を着こなせる人は少ないだろう。
それほどに奴隷とは思えない気品の溢れる美しさを彼女は持っている。
「綺麗だ……」
不覚にも思わず言葉が漏れる。
「でしょでしょ?」
そう言って、嬉しそうにその場で一周回って笑う彼女からこぼれる白い歯。
多少性格に難がありそうだが、それがどうでもいいとさえ思えてしまう。
しかし値段を聞いて現実に少し戻される。
金貨1枚と銀貨3枚。
俺の装備代と同じぐらいの値段だ。
安いのでと言ったはずなんだが……。
女性の服は高いとは言うがこんなにするものなのか?
ただこのレイを見ると買わないわけにはいかない。
それにこの美しさは反則、これをこの場でしか見られないなんて勿体ない。
結局購入することにしてしまった。
「さ、いよいよ食事ね!」
「ああ、食事にしようか」
レイの再三の催促通り、食事をとることにする。
出費が重なったので大衆食堂で一番安い定食を2人前注文する。
「おいおい、なんだあの美人」
「本当だ、えらいべっぴんさんがいるぞ」
食堂の客から視線が集まる。
その視線は普段は俺に向かうのものなのだが、今日はレイに向けてのもののようだ。
鼻の下を伸ばしたおじさんどものいやらしい視線。
分かってはいるが、それだけレイが美美びびしいということだろう。
そんな露骨な視線にこの当人は気づいているのだろうか?
おいしそうに食べるその姿は目の前の食事にしか意識がいっていないようだ。
しかし綺麗に食べるな……マナーもしっかりしている。
「お腹は膨れた?」
「ええ、ご馳走様でした」
その後、安い宿屋に向かう。
『一緒の部屋でいい』とのレイの言葉に少し邪よこしまな気持ちになるが、そこはグッと堪え2部屋取り、別々の部屋で泊まることにする。
なんか思ったより忙しい日になった。
一人になった部屋で今日を振りかえる。
ゴブリン討伐までは順調だった。
まさか初日にして元奴隷のパーティメンバーができるとは思わなかった。
まあ、半ば強制みたいなものだったが……。
そしてこの《盗む》はなんなのだろうか。
盗むことができないはずの物を盗む。
これはたまたまか? いや、そんなわけはないか。
考えても答えは出ないだろう。
とりあえずもうちょっと試してみる必要があるな。
しかし今日だけで相当な出費だったな。
俺の装備代にレイの服代、食費に宿泊費……。
持ち物アイコンから所持金を見る。
まだ絶望的な所持金じゃないが予想を大きくずれるそれに溜息をつく。
明日からはもっと頑張らないと。
レイのレベルも上げて貢献してもらえるようにしないといけないな。
「はぁ――寝よ」
⭐︎以下レイの挿絵です⭐︎
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