第6話 冒険者

「それじゃ、行ってきます!」


 玄関で両親に別れの挨拶をする。


「おう、達者でな」


「ロビン、寂しくなったらいつでも戻ってきていいのよ」


「母さん」


「えぇ、そうね。ごめんなさい。ロビン、頑張るのよ!」


 二人は手を振って見送ってくれた。

 遠くから振り向いてもまだ小さい両親が確認できる。

 きっと姿が見えなくなるまで居てくれたのだろう。


 巣立ち。

 青く澄んだ空。

 小鳥のさえずりが心地よい。

 四季がないこの世界でも、きっと今日は春なのだろう。


 早速俺はこの足を飛ばしてカルタナのギルドへ向かう。

 冒険者になるためにはまずギルド登録をおこなう必要があるからだ。

 カンストした素早さは伊達ではなく、1時間もかからずに到着する。


 筒状の茶色レンガの建物。

 派手さはなく、ただ看板に『カルタナギルド』と掲げられた、この大きいだけの質素な建物。

 ここがこの都市周辺の依頼を一挙に引き受ける場所である。

 副業としてもできるため、総勢2000名を超える冒険者がここに登録されている。


 ドアを開ける。

 中は冒険者の溜まり場。

 クエストを探すもの、仲間パーティを探すものなどが溢れている。


 人を掻き分けて受付に向かう。

 幸い、登録受付は空いているようですぐに自分の番がきた。

 

「すみません、冒険者登録をしたいのですが」

 

「はい、わかりました。それではパスの提示をお願いします」


 茶色の巻き髪のおっとりとした垂れ目が特徴的ななんとも色気のある受付嬢が対応してくれた。

 

 パスというのは所謂個人情報である。

 名前の表示されたアイコンから表示できる。

 年齢、学歴、レベル、職業、罪歴に至るまで書かれている――前世でいうと履歴書のようなものだろうか。

 そしてこれは渡すを選択すると簡単に受け渡しができる。


「えっと、ロビン=ドレイクさんですね。……ん? ロビン?」


 受付嬢は俺のパスを見て絶句する。

 ギルド内からもやたらと視線を感じる。

  

 自分で言うのもなんだが、俺は有名人である。

 少なくとも自分の村とここカルタナではそうだ。

 神童、勇者になる逸材など天才として囃し立てられていたのだから。

 

 いや、昨日の逃げ帰った話が広がっていたら恥ずかしい奴として見られているかも。


「え、えっと。それでは冒険者登録いたしますので少々お待ちください」


 少しばかり待つと俺にギルドカードが手渡される。

 持ち物アイコンからギルドカードを選択して早速見てみる。


 そこには俺の名前と職業、ギルドのランクが簡易に記載されている。

 勿論、内部はそれだけでなく今まで受けたクエストなど詳細情報も参照できるようになっているらしい。


 ギルドランクはE。

 最低ランクであるが、最初は全員がこのランクから始まる。

 このランク毎に受注可能クエストが分けられている。

 これは分不相応な依頼を受注したことによっておこる事故を未然に防ぐものである。


「それでは、これからのあなたの活躍を期待しております」


 さて、これで正式に冒険者としてギルドに登録され任務を受注できるようになった。


 さっそくクエストボードを眺める。

 ランクEで受注できるクエストは……っと。

 『ペット探し』、『薬草採取』、『ゴブリン討伐』――。

 うん。わかってはいたが見事にチュートリアルみたいなのしかないな。


 少し考えた後、受付に行ってクエストを受注する。

 受注したクエストは『ゴブリン討伐』。

 なんにせよ、討伐クエストであるところが決めてになった。


 内容はゴブリン5体の討伐。

 場所指定は特になし。

 ギルド側がチュートリアルで用意しているもので常駐クエストと呼ばれるものである。

 人に直接貢献はできないものの最初は仕方ない。

 回りまわってゴブリンの繁殖を抑えるのに役立っているのだと考えよう。

 

 受注が完了すると視界の右上にクエストが表示される。

 そこを選択するとゴブリン討伐数0/5体と記される。

 どうやって討伐の証明とするのか疑問だったがなるほど、本当にゲームのようだな。


 ♢


 早速ゴブリン討伐をしに都市を出て、いつもの山に入る。


 ゴブリンは森や山に生息し、繁殖力が非常に高い。

 その為、適当に山を探索すると嫌でも遭遇することになる。


 見た目は緑色をした老人のようなシワの多い小人。

 動きは少しばかり速いが力はなく、武器もその辺の木の枝や石である。

 群れで行動することも稀にあるが知能は低く、連携などはあまり取れないようだ。

 そしてギルド最低ランクのクエストに設定されている通り、一体一体非常に弱い。


 装備は都市を出る前に装備屋に寄って少し整えてきた。

 使い勝手の良い短剣、軽装で動きやすい皮の防具。

 素早さはカンストしているため意味はないがなんか盗賊っぽいという理由で風の加護が編み込まれたマフラーを購入し装備。

 正直ゴブリン討伐には素手でも大丈夫だが、身だしなみは大事だろう。


 ――そして当然ながらあっという間にゴブリン討伐数が5体になりクエストクリアの文字が表示される。

 あとはギルドへ戻って報告と報酬を受け取るだけだ。


 まだ日暮れには時間があるし、ゆっくりと歩いて戻ろうか。

 

「ん?」


 都市への帰り道。

 平原に立ち往生する馬車とそれを囲む大柄の男数人が視界に見えた。

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