10.深夜の来訪者
1
ザリ、と靴裏が地面を擦った。
驚きと恐怖で二、三歩後ずさり、私はその場にへたり込んでいた。
こんなの、いつからあったのかしら……?
しばらくの間、裏庭へ来ていないからわからない。やはり今日の午後にでも来ておくべきだった。
視界が下がったことで、地面のあたりで何かがキラリと光るのを捉えた。
なに……?
そちらを注視すると、
少しだけ近づいて見ると、二本の長い
こんなの、だれが……?
庭師のおじさんが生垣を整えるときに使っている
「……もしかして」
ポツリと呟いた瞬間、そら恐ろしい気持ちが稲妻のように走った。背中に冷たい風が通り抜けるような寒気がして、急いで花壇まで戻る。
汗が冷えたせいで少しだけ寒い。片手で腕をさすりながらランタンを左右に振った。生垣の辺りを、目を凝らして見てみるが、だれの姿も見られない。
あの隠された
すでに外からだれかが侵入していたとしたら、このまま裏庭に居座るのは危険かもしれない。ぶるぶると足元が震えた。
とにかく一度通用口まで行って、アレックスが戻って来るのを待とう。そうするのが最善だ。
花壇にできた暗い穴を見つめ「待っててね」と声を掛けた。くるりと踵を返したとき、背後に人の気配を感じた。
「……マリーン?」
突然のことに体がビクッと跳ね上がり、ひゃっ、と声がこぼれた。驚きのあまり心臓が止まりそうになった。
背中からの声を確認するために振り返ると、目を皿のようにして立ち尽くすお父様と目が合った。私に向かってランタンを掲げたまま呆けている。
得体の知れない侵入者ではなかったことに、いったんは安堵の息をつく。
「なにをやっているんだ、こんな夜中に……?」
そういうお父様こそ……。
思ってすぐに体が硬くなるのを感じた。
ちょっと待って。お父様が
ここへ来るまでの道のりで入れ違いになっていたら問題はないんだけど。もし見つかっていたら……。
アレックスのことを思い、胃がキリキリと痛んだ。
書斎に向かったアレックスのことといい、花壇を掘り起こしたことといい、今が安堵できる状況でないのは明らかだった。
花壇から少し離れたところに立つ私を見て、お父様が一歩二歩と足を出した。
お父様の足が、置き去りにしたシャベルに当たった。カランと乾いた音がした。
「ああ」と声を出し、お父様が嘆息する。足元にあるシャベルを見るついでに、深い穴のできた花壇をじっと見つめていた。
「ガーデニングをしていたのか?」
「……っえ」
冷たい夜気がひゅっと口から入り、僅かに呼吸を狂わせる。
「今日おまえの侍女から聞いたよ。また新しく花を植えるんだろう? 早くやりたい気持ちはわかるが、明日にしなさい。侍女を連れておまえの好きな花を、好きなだけ買ってくるといい」
「なにを、言っているの……?」
底知れぬ不安から私は両手を持ち上げ、胸の前で握りしめた。唇が震えそうになるのは寒さだけのせいじゃない。
「これはお父様がやったの?」
「なんの話だ?」
「だって。この花壇に埋まっているのは……人の骨でしょう?」
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