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懐疑的な物言いを聞き、ギクリとなった。心がどよめいたのを誤魔化すように首を振って否定した。
「っそ、そんなわけないじゃない。早急に対処してもらえて嬉しいわ。ありがとう」
心にもない感謝を述べると、侍女たちはその身に安堵を表した。
隣りに立つアレックスが"どうするの"と目で訴えてくる。弟の腕に手を添えて、何事もなかったかのようにその場でくるりと踵を返した。離れた侍女たちに聞こえないよう、囁き声でひと息に告げた。
「ヴァージルが用意したシャベルは部屋に置いておいて。今夜、取りに行くから」
皆が寝静まったあとに花壇を掘るわ、と目だけで意思を伝えると、アレックスは硬い表情でコクリと頷いた。
「アレックス様とどこかへ行かれるところでしたか? だったら私たちも同行いたします」
「いいえ、必要ないわ。もう部屋へ戻るところだから」
「左様でございますか」
裏庭へ現れるはずの侍従を迎えるため、アレックスが
「じゃあ、またね。姉さん」
「ええ、ありがとう。アレックス」
私たちは互いに背を向けて反対方向へ歩き出す。侍女たちはなにも言わず、私に付いて来た。
胃の奥が重く、キリキリと痛んだ。エイブラムをあの貯蔵庫から出すことも、銃を手に入れることも、花壇を掘ることも、なにひとつ叶わなかった。目的を果たせなかった自分に歯痒さが募った。
こうしている間にも刻一刻とエイブラムの命が削られているかもしれないのに、容易く行動に移せない。
けれどここで無茶をすれば、監視はもっと厳しくなる。そうなると結果的に彼を救えない。
ごめんなさい、エイブラム。あなたがしようとしていたことをやり遂げたら、必ず助けるから……!
沈痛な思いをひた隠しに、侍女たちには毅然とした態度で接した。
*
午後を過ぎたころ、百本の薔薇が届いた。本をながめながら大人しくする私のそばにひとりの侍女が残り、もうひとりが行商人の対応に当たった。
三時になると、約束どおりクリティーナが部屋へ訪れた。天気も良いことだし、外でお茶をしようかという流れになり、私と妹の侍女たちが準備をしてくれる。
どうせなら私の花壇を見に行きたいとお願いすると、侍女たちが顔を曇らせた。
「申し訳ありません、お嬢様。実はいっとき管理を怠った状態が続いておりましたので、お花が全て枯れてしまって……」
「あら……そうなのね。残念だわ」
「お気持ちを落とされるのは当然です。なのでまた、明日にでもガーデニングをいたしましょう」
「ええ、そうね」
あのデイジーが枯れてしまったのは残念だが、かえって土を掘るのに差し支えがなくなった。新しい種を植えるのは、今夜あの場所を掘り起こしてからだ。
仕方なく前庭のテーブルセットで、妹とお茶をすることにした。
白いティーカップから立ち上る湯気を見つめながら、アレックスにした話をクリスティーナにもしようかどうかを、散々迷った。
けれど結局は当たり障りのない会話ばかりで、言えずじまいとなった。ふたりの侍女がそばに控えている状態で、一番の心配ごとを話題にはできなかった。
「実を言うとね、姉様」
私が吐露できない代わりに、妹が何かを決心した目で心中を打ち明けてくれた。
「私、ずっと姉様に嫉妬していたの」
「……え」
なにを、と思い表情が固まった。
もしかして。本当にお父様のことで……?
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