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「クリス姉さん、なんだったんですか?」
アレックスに尋ねられ、クリスティーナとお茶をする約束をしたと答えた。途中、唇が震えて返事がぎこちないものとなる。
「あの……っ、それよりアレックス。さっきヴァージルが出て行ったんだけど?」
「問題ないですよ。花壇を掘るためのシャベルを準備したら裏庭へ持ってくるよう頼んでおいたので」
「……あぁ。そう、なのね」
「はい。なので僕たちも先に
上に羽織ったウエストコートを脱ぎ、アレックスが白シャツの袖を肘までたくし上げた。
アレックスの自室を出て
元々彼とは幼馴染で、彼は男爵家の跡取りであること。誘拐される前日に舞踏会で会い、憧れを抱いていたこと。
私を屋敷に置いておきたくないという理由で誘拐したと聞いたこと。そしてその誘拐自体を、私の侍女だったマーサに依頼されたこと。
順を追って話すと、アレックスは目を見張り、言葉に窮していた。特別、後半に話した侍女の内容が気に掛かった様子で、眉を寄せていた。
「姉さんと仲の良かったあの侍女が関係していたのは衝撃だけど……きっとなにか事情があるんですよね」
「ええ。彼を助けることができたらマーサに会いに行って、直接本人から話を聞くつもりよ?」
マーサの動機に関しては、あらかたエイブラムから聞いていたが。過去にあった銃殺事件を今さら話題に出す気にはなれなかった。
「姉さんは。その……エイブラムさんを助けたら、そのあとどうするつもりですか?」
「どうするって?」
「彼と……結婚するつもりですか?」
弟の口調が弱々しい。私の今後を心配しているのだと思った。
「そうね。そうしたいのは山々だけど。家同士のことだし、お父様はきっと許してくれないわ」
「……そうですね」
先に降りた階段から
絵画や彫像などを飾る画廊の向こうから、見慣れたふたつのシルエットが歩いて来る。顔が強ばり、足が止まった。
「……なんで?」
今朝九時ごろに見送った侍女、メアリーとスーザンだ。今ごろは鉄道を降りて薔薇園に向かっているはずなのに、どうしてもう帰宅しているのか。
画廊の中ほどで侍女たちと顔を合わせた。ふたりとも手ぶらで、薔薇など一輪も持っていない。
「ただいま戻りました、マリーンお嬢様」
侍女たちは型通りの挨拶をし、私から弟へ視線を移した。「アレックス様とご一緒でしたか」と続け、微笑を浮かべている。
「あなたたち。薔薇はどうしたの?」
「もちろん手配済みでございます」
「……え?」
目で疑問を訴えると、メアリーが嬉しそうな
「駅へと向かう前に、商店が並ぶ通りへ立ち寄ったんです。そこの花屋に薔薇の注文をしたところ、ちょうど百本を超える薔薇を仕入れたところだと言われました。ラッキーでした」
「なのでご用命いただきました百本の薔薇は、午後にでも屋敷に届きます。なんの心配もございません」
「……そんな」
落胆する気持ちがうっかり声に現れた。肩から力が抜けて足元を見つめた。
「いかがなさいましたか、お嬢様?」
「まさか……薔薇はなにかの口実だったわけではございませんよね?」
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