イケメンはぶん殴って変形させますわ! サイランside

 鮮やかな結界破りだった。



 結界を破られた瞬間、クソガキから強烈な蒼いオーラが放たれたのを見ることができた。


 サイランはゾクゾクするほどの興奮を覚えた。


「あれが男の敵のルナキシアと、キャッツランドの第七王子ですか。二人ともぶん殴って変形させたくなるほどのイケメンでしたね」


 僻みたっぷりのビジュアル感想を述べたのは、今回の助っ人だ。


 第一騎士団の騎士に来てもらっている。れっきとした王太子の部下だ。彼は王太子殿下の命令と疑っていない。どうやって騙したかと言えば――手紙だ。


 王太子・サイフォンは、特徴のある字を書く。特徴といっても、達筆ではなくその逆だ。誰もマネすることができないほどのクソ下手な字なのだ。


 王太子の部下たちは、その字の酷さをよく知っている。だが、ルーカスとて彼の弟。血は争えない。ルーカスはサイフォンの字を真似ることができた。


 この騎士は呆れたことに、王太子の私物をこっそりとくすねては、質に入れるということを繰り返してきた。そしてついにエスカレートし、王太子の隠し金庫にあった金までもくすねてしまったのだ。


 王族……しかも王太子の金を盗む。本来であれば死罪である。当然バレたのだが、王太子は謹慎で済ませてしまった。隠し金庫の金――恐らくは王太子も表沙汰には絶対にできない後ろ暗い金だったのだろう。


 後ろ暗い金の存在を知る男。死罪をまぬがれたとは言え、ほとぼりが冷めればこっそりと闇打ちされる運命だ。そこにサイランは付け入った。


 第二師団のサイランと共に、男の敵・ルナキシアを討て。そうすればくすねた金のことは不問にして命は助けてやる、という内容の手紙を送った。


 まともな感覚の持ち主であれば嘘だとわかる。くすねた金のことが不問になるわけもないし、仲の悪い第二王子の部下と手を組めなんて、王太子が言うわけがない。


 だが、彼は信じ切ってしまった。


 そして、ナルメキアのうだつのあがらない男達は、ルナキシアが大嫌いだ。彼が何かしたわけではないのだが、嫌いに理由などないのだ。


 騎士は張り切ってサイランと共に船に飛び乗り、カグヤの首都、ミカヅキまでやって来た。


 その他、第一師団の魔術師にも来てもらっている。この魔術師は、騎士以上に救いようのない男だった。


 博打で作った借金で首が回らなくなり、あろうことか下町の商家への襲撃を計画していた。金を奪った後、証拠隠滅で放火しようと企んでいたのだ。


 貴族が暮らすエリアには、防火魔術が多数施されているが、庶民が暮らす下町はそうではない。


 火は燃え広がり、貧民街にも広がるだろう。その貧民街には、サイランが昔暮らした孤児院もある。その情報をキャッチしたサイランは、迷わず声をかけた。


 大金、そして男の敵・ルナキシアのブロマイドを見せたら、まんまと乗ってきた。貧乏な庶民を標的にするより、男の敵を抹殺する方を選んでもらった。


 しかし、たった3人でルナキシア率いるカグヤ軍団に勝つのは困難だ。いくらサイランが誓約無効の結界を張ったとしても、ルナキシア配下にも優秀な魔術師はいる。


 今回はルナキシア、クソガキの他に第七騎士団が護衛をしていたが、騎士団とて魔術が使えるものはいる。防御魔術でクソガキが結界破りをする時間を稼げたのだ。


 そこで、サイランは近隣の海賊にも声をかけた。数で勝負をかける作戦だ。資金はもちろんルーカスから出ている。ルーカスがなぜそこまで金があるのか――彼は国庫からこっそりと金を抜いているのだ。


 クソガキの持つ船に乗るのか、カグヤの軍艦でキャッツランドに向かうのかは不明だが、雑魚の第七王子の護送で艦隊を組んで向かうとは考えにくい。


 万が一、ルナキシアの独断で強引に艦隊を出してきたら、この作戦は終わりだ。キャッツランドでのクソガキ闇打ちへ切り替えるまで。いつも警備も薄くフラフラしている第七王子なのだ。そこまで困難でもないだろう。


「クソガキを海の喪屑にしてやりますわ」


 サイランは、カグヤ入りする前にTS変装で女体化している。声色も女性のものになり、自然と口調もこんな感じに変わった。


 自分を探すため、ルナキシア配下のものが街を探っていることは気がついていた。まさか女体化するとは思っていないだろう。


「では、そろそろ海賊と合流ですか?」


 鼻息荒く魔術師も聞いてくる。


 今この地を発っても、やることがない。海賊アジトに長々といるのも気が滅入る。


「もう少しだけ、クソガキを待ってみますわ。あのクソガキが窮屈な王宮でおとなしくしているとは思えなくてよ」


 出来ることなら、クソガキと一騎討ちがしたい。しばらくはそのチャンスを待ちたいと思った。

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