テロリストを誘き出そう ラセルside
――話がある。
そろそろ寝ようかな、と思っていたところでルナキシアから思念が飛んできた。どこにいるのかと探索魔術で探ると、石庭前のベンチにいるようだ。
ラセルは寝衣姿のまま、ベンチへと向かった。
「昔は可愛いだけのかよわい男の子だったのに、君は随分と強くなったし、カッコよくもなったね」
ルナキシアは面白くなさそうにそう言った。
「そうかな。昔のことはあまり思い出したくないんだ。ただ泣いてるだけで周りが助けてくれた。ほんと、甘えたガキだったなってね」
ラセルもそう返し、ベンチに座った。
空には三日月が浮かんでいる。
「カグヤの魔術師協会と、ナルメキアに潜入させている隠密工作員から情報が入った」
ルナキシアは何枚かの資料を差し出してきた。
サイラン・アークレイは、ナルメキア第二王子の護衛部隊である第二師団の副師団長だ。ラセルが見た鳥のような、動物や魔獣を使役する能力に優れている。その他にも、彼が生み出したオリジナル魔術が多数あるようだが、詳細は不明だ。
「そのアークレイが、ナルメキア王宮から姿を消した」
「へぇ……」
ラセルは、サイラン・アークレイが憎々しげに「クソガキ」と自分を呼んだ時の表情を思い出した。
「俺さ、アークレイ先輩とは話したことないんだ。俺は憧れてて、こっそり教室まで覗きに行ったりもしたんだよ。片思いってことかぁ……ってなんだか悲しいんだよな。なんであそこまで憎まれているんだろう」
そう言うと、ルナキシアは暗い表情になる。
「君が悪いわけじゃないが、育ちからして彼とは決して仲良くはなれないだろう。彼は没落貴族で孤児院育ち。カグヤやキャッツランドじゃない、ナルメキアの孤児院だ。あの国は貧富の差がえげつない。それは劣悪な環境だろう」
ナルメキアのスラム街の風景を思い出す。
あの国の孤児院がどんなものか。サイラン・アークレイの少年時代は、ラセルには想像もできない壮絶なものだったと思う。
「それに引き換え、君は大国の王子様だ。見た目もキラキラした美男子。そして言動はかなり調子に乗っていて、しょっちゅう自分の正義感を振りかざして人攫いの妨害ばかりしている……境遇に対する妬みもあるだろうが、要は目ざわりなんだろう」
「そっかぁ。目ざわりかぁ……」
「実は私もやったことあるんだ。人攫い妨害。こういう行動って、現地の人達からしてみると傲慢に見えるんだろうね。やった行動は間違ってるとは思っていないが……」
「……もし、俺が王子じゃなかったら、仲良くなれたのかなぁ」
ラセルはサイラン・アークレイから嫌われていることに納得がいかない。カナを標的にしたことは万死に値するが、こんな出会いでなかったのなら……と切なくなるのだ。
「そんな仮定の話しても仕方がないだろう。現に今は仲良くないんだから」
ルナキシアはサイラン・アークレイに何の思い入れもないので、クールな反応だ。
「で、ナルメキアの王宮に現れないアークレイはどこにいると思う?」
「カグヤ領内の街に潜伏しているか、海賊のアジトか……どちらにしてもカグヤにいると思う」
「そうだな。あの映像から考えると、アークレイの聖女と君への執着は強い。聖女というよりは君への私怨が強そうだ。絶対に仕掛けてくる。しかし、未だ隠密騎士団からは発見の報告があがってこない。並の変装なら見破れるはずなんだが……」
ナルメキア王立魔術アカデミー史上最高の天才と呼ばれた男との対決が近い――憂鬱と共に闘志も湧いてくる。
「王宮には強力な結界が張ってある。警備も厳重だ。王宮内にはアークレイの眼は入ってこれない。だが、彼もいつ君達が王宮から出るか、王宮の出入口を見張ってるはずだ。向こうの反応を軽く見てみるべきじゃないかな」
ルナキシアはきらりとサファイアの瞳を光らせる。
「で、カナと私がデートをして、君達はそれを警護する。そこで眼がくるのか、眼を追えるのか、確認してみるというのはどうだろう」
「なんで俺らが警護なんだよ。俺とカナがデートでもいいだろうが」
「それだと私が面白くない。君は散々カナとデートしてきただろう。それにカグヤは私の庭だ。エスコート役は私が適している」
「俺だってカグヤで子供時代過ごしてきたんだ! カグヤは俺の庭でもある! エスコート役は俺でも充分だろ!」
ラセルの反発は充分予測していたのか、ルナキシアはにやりと笑った。
「明日はカナの妃殿下教育として、ダンスの授業がある。相手役は私がやるつもりだったが、君も参戦してもいいよ。それでどちらがうまいか先生に判定してもらおう。うまい方がデート権を得るということでどうだ?」
なぜカナの妃殿下教育スケジュールまで把握しているのか。ルナキシアはカナのストーカーなのか?
そして、よりにもよってダンス対決を提案してくるとは……。
ラセルのダンスは自分でもわかるくらい超下手だ。ラセルが踊ると周囲が爆笑に包まれる。どちらがより面白かったか、では圧勝できる自信があるが、うまい方となると……。
「負けを認めるようで悔しいが、俺が勝てるわけないだろ。あんただって、俺のダンスレベルを知ってるだろうが」
ラセルがギロリと睨みつけると、ルナキシアは仕方ないとばかりに溜め息を吐いた。
「じゃあ、代理でキースを出しても構わない。彼は名門公爵家のご令息だ。ダンスくらい踊れて当然だろう」
残念ながら、キースも特別うまいというわけではない。一方、ルナキシアはダンスの名手として名高い。勝てるわけがない。
「仕方ないな。第七騎士団の子達でもいいよ。あんなに人数がいるんだから一人くらいうまい子がいるだろう。それが私ができる最大限の譲歩だ。君もキャッツランドという大国の威信にかけて私と勝負しなさい。いいね?」
一方的な勝負を持ちかけて、ルナキシアは去っていった。
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