男装の麗人とスイーツ男子② キースside
キースも、第五、第六王子は虫酸が走るほど大っ嫌いだ。
キースが7歳の頃、キースは父から第七王子と歳が同じだからという理由で、王宮に連れて行かされた。以降、キースは第七王子ラセルのお友達として、王宮にフリーパスで出入りをしていた。
王宮は闇深い場所である。第五、第六王子は幼いころよりクズだったので、魔力のないラセルを徹底的にいじめていた。キースは父にチクるという、子供ができる最大限の努力でラセルを守ったのだが……。
――俺にシリル殿下のような強さがあったらなぁ……。あいつらをボッコボコにできたのに。
第八王子と公爵令息では立場も大きく違う。ボッコボコにしたら大問題になるのだが、『第八王子、半殺し事件』を聞いた時にそんなことを思った。
以降、キースはシリルのことを尊敬の眼差しで見ている。まさにヒーローだから、初めて会った時にサインを書いてもらったほどだ。
「……そんなわけなので、僕は兄なんていらないんですよ。欲しいのは姉上なんです。僕の姉上になってくれませんか?」
無茶苦茶な理屈ではあったが、可憐なうるうる目でカナに迫るシリルである。
これは弟ポジションをキープし、そこから好感度を上げていく策なのか、それとも唯一のクズではない独身の兄に対してのアシストなのか――頭脳明晰のシリルの思惑がいまいち読み取れないのである。
「そ、そうですね。私の元いた世界でも疑似的なお姉さまと妹みたいな物語があったし。そ、そういうことなら……姉上でもい、いいですよ」
カナはわたわたとしながら姉上呼びを許可してしまった。ぱぁ……っとシリルが幸せそうな笑顔になる。人を幸せにする天使の笑顔に一同は魅了されてしまう。
猫にならずとも愛らしさで人々を魅了する王子。そんな王子はキャッツランド王家でもシリルだけであろう。
「嬉しいです、姉上。本日は僕と義姉弟の契りを交わした記念日といたしましょう。今日以降、私は貴女を守る剣となります。いつ、いかなる時も私は貴女を裏切らない――
キースはギョッとしてシリルを見た。今のは精神の結びつきを強くする魔術だろう。妨害する間もなくいきなりシリルとカナの間で誓約が結ばれてしまった……。
「今のは誓いの言葉です。これからも仲良くいましょうね」
シリルはまた微笑んだ。
「え……えぇ」
カナもとまどいながら誓いの言葉を受け入れた。聖女が受け入れるくらいだから、悪意のあるものではないであろう……後でラセルに確認する必要があるが。
「ところで、キース」
いきなりシリルがキースに話を振ってくる。
「ラセル兄上は、カグヤ王太子と随分仲がいいようですね。何やら姉上のことでよからぬ画策をされているようですが」
シリルが鋭い視線をキースに向け、キースに緊張が走る。既に弟モードではない。これは――政治家の視線だ。
「私は反対です。カグヤ王太子は優れた人格者で人物には問題ありません……が、相手はカグヤ王家を継ぐ方です。カグヤ貴族からはなぜ、キャッツランドの公爵家から王太子妃を迎えるのかという反発が出るでしょう。キャッツランド王家ではなく公爵家ですからね。それならばカグヤの公爵、伯爵家から妃を迎え入れるべきです」
場がしーんと静まりかえる。
シリルは意図的に一人称を変えて話した。モードを切り替えたのが伝わり、シリルの持つ緊張感が場を支配した。
場を支配する能力は、カリスマ性のある為政者が生まれながらに持つ能力だ。やはり、ラセルが言うように王位継承者なのだろうか……。
ではなぜシリルが14歳の時に王太子に任命されず、王位継承権を剥奪されたのか――。
「そして、姉上はキャッツランドの王族、貴族と縁を結ぶべきですし、キャッツランド国内に姉上の意に叶うようなお相手がいないのであれば、キャッツランド国内で独身のパイオニアである姉上を保護するべきです。この私はたった今、親愛誓約を結びました。私は姉上の意思と安全を守ります。私からも伝えましたが、改めてキースからも、兄上に再考いただくようにお伝えください」
――独身のパイオニア発言まで正確に覚えてるんかぃ。
地獄耳にも、細かい記憶力にも、感心を通り越して呆れてしまう。
「承知いたしました」
キースは臣下として承知の礼を取った。
「それと、キース」
まだあるようだ。シリルはさらに視線を鋭くさせてくる。
「ラセル兄上は、カグヤへの国籍変更を希望されているようですが……それにも私は反対です」
「……なんでも反対じゃないですか」
さすがにキースはムッとして言い返した。
「当然でしょう。兄上が第五、第六王子のような無能なら反対なんてしません。むしろ
キースは手を握りしめた。シリルは憧れの人ではあるものの、優先すべきは主の幸せだ。これは承知できない。ラセルはキャッツランドにいる限り幸せになれない気がするのだ。
「ラセル殿下を邪魔者にしてるのはキャッツランドじゃないですか? ラセル殿下は他国に婿に行くことを望んでいないのに、ガンガンと見合いを押し付けてくるじゃないですか。どう見ても追い出そうとしてるって不信感を抱くのは当然じゃないでしょうか。それなら子供の頃にお世話になったカグヤに移住したいって思っても誰も責められないんじゃないですか?」
そう言うと、シリルはふっと笑みを浮かべた。
その笑みも、まさに為政者の余裕の微笑みだ。確かシリルは18歳。なぜこんなにも落ち着いているのだろうか。
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