男装の麗人とスイーツ男子 キースside
――デートとは、一体……。
シリル第八王子はカナとレイナ、そしてビスとキースを連れてスラーブルで一番人気のスイーツバイキングのお店へ向かっている。
これではデートではなくツアーガイドをしているだけではないか。謎の行動にキースは首をかしげた。
シリルはカナだけではなく、キースやレイナ、ビスまで誘った。あの愛らしく人懐こい笑顔で。この時点でデートではないのだが、ラセルは鬼の形相でそんなシリルを見ていた。
「キース、あいつの行動言動すべてから目を離すな。少しでも色目を使い出したら即妨害しろ。命令だ!」
ラセルは先日のウジウジメソメソした態度からは一変し、カナへの独占欲を開放しだした。
そんなラセルは今日はバイトの打ち合わせでダビステアの第一王子の邸宅へ向かっている。今ごろ第一王子にもふられながら猫の姿で騎士団長と魔獣討伐の話をしているのだろう。
「ここのカップケーキは何個食べてもまだ行けちゃうんですよ~」
シリルは乙女な笑みを浮かべ、カナやレイナにスイーツバイキングの仕組みを説明している。行動言動すべてを監視といっても、シリルは存在自体が可愛いの塊なので妨害しようがない。
「シリル殿下はここのアカデミーに通ってるんですよね! よく来るんですか?」
レイナは可愛いシリルにメロメロだ。スイーツももちろんのこと、間近に男装の麗人がいることに鼻息を荒くしている。
「よく来ますよ。なので、国元には護衛騎士はスイーツ男子にしてくれと指定しているんです」
本日のスイーツツアーは、第七騎士団ではなく、第八騎士団が護衛に当っている。シリルのスイーツ好きに付き合わされているせいか、ややぽっちゃりな騎士が多い。
スイーツをごっそりとよそい、指定のテーブルに座る。周りの客は輝かしい男装の麗人が、ぞろぞろと騎士を引き連れて座るテーブルをちらちらと視線を送りながら遠巻きに見ている。
「聖女様がいた世界では、スイーツってありました?」
シリルは蕩けるような笑顔でカナに話を振った。カナもまたそんなシリルにうっとりしている。
「え……えぇ。ここと同じくらい美味しいスイーツがあります。あ、あと……聖女様ってやめてください」
赤面しながらカナは聖女様呼びを嫌がっている。そこでシリルがよくわからないことを言い出す。
「えーと、ではなんとお呼びしましょう。アネウエとお呼びしてもいいですか?」
――アネウエ……義姉上ってことか?
ラセルの話では、シリルはカナを狙っているということだったが、義姉上呼びをしたいということは、どちらかと言えばアシストに近い。シリルの思惑がどこにあるのか、キースには判別がしづらいところだ。
同じことをカナも思ったのか、別の意味で顔色を赤く染める。
「あ、あの……ッ! それはどういう……ッ」
ガタッと立ち上がるカナを、シリルは今度は潤んだ瞳で見上げた。
「違うんです……カナ様に僕の兄と結婚してほしいなんて言いませんよ。僕の兄で独身は三名いるのですが、そのうち二名はものすごく醜悪な人間で……クズ・オブ・クズで、人の皮を被ったケダモノなんです。そんな兄達に僕は酷い目に遭わされそうになったんです……ッ! だから……僕はただ……兄よりも姉が欲しかったな、なんて。そうなんです。姉上が欲しかったんです」
今にも泣き出しそうなシリルの様子に、カナは何も言えずほだされモードだ。もうここまでくると妨害の仕様もなく、キースは黙々とケーキを口に運ぶのみだ。
「そ、そんなに酷い目に?」
カナまで泣きそうになっている。シリルの世界に引き込まれてしまった。レイナやビスまで同様にハンカチを握りしめている。
「サーディン先輩は御存じでしょう? あの『第八王子、半殺し事件』のことを……」
物騒な事件名ではあるが、これは第八王子シリルが半殺しの目に遭った……のではなく、その逆だ。シリルが、兄である第五王子、第六王子を半殺しの目に遭わせたのだ。
シリルは見た目とは大きく異なり、かなりの武闘派として知られている。そのシリルの歴史を語る上でこの事件は欠かせないものとしてキャッツランドの貴族の間では広まっている。
シリルは可憐な容姿をしているせいで、危険な目に遭いやすい。クズ・オブ・クズの第五王子、第六王子は実の弟であるシリルに対し、性的暴行をしかけたという。それをシリルは齢10歳にして見事に撃退した。当時、第五王子は16歳、第六王子は15歳である。5歳差という大きなハンデがあるにも関わらず、1対2で勝つという人間離れした強さを見せつけたのだ。
以降、シリルはその手のクズには鉄拳制裁で対抗している。キャッツランドでシリルに喧嘩を売ろうという命知らずなものはもういない。
「本当に酷い王子達でしたね……。シリル殿下がおいたわしくて……うぅ」
ビスが当時を思い返し、涙を流す。「おいたわしいシリル様……」と第八騎士団達も同様にハンカチを握りしめている。
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