お国元とラセルの将来② キースside

「あいつの手紙読んで元気になるかなぁ…………親愛なるラセル、ちゃんと髪をいたわってるか? 君の美しい黒髪は唯一無二だから大切にするように。帰ってきた時に髪がボロボロだったら許さないからね……毎回思うけど、相変わらず中身がない手紙だな。髪のことしか書いてねーじゃん」


 ラセルが国王陛下からもらう手紙は髪のことばかりつらつら書かれているものが多い。むしろそれしかない。過去にカグヤ国の黒髪の女性と恋に落ちたからだとか、そんな噂すらある。


 いやいや、息子に母親以外の恋人を重ねるのはまずいだろうと思うのだが。


「でも陛下はまだラセルのこと買ってるんじゃない? ほら、内容は変だけどたまに手紙もくれるし。ちゃんと顔と名前が一致してるし」


「…………そもそも自分の息子の顔と名前一致しないのって親としてヤバくない? うちの親父だけだよそんなヤツ」


 そうなのだ。国王の子供は十人いるのだが、頻繁に名前を間違う。存在すら忘れられてる哀れな王子もいるという。


「それにしてもさぁ……なんでラセルも、ソニア様もシリル殿下もダメだったんだろ。うちの王位継承システム、本気で謎なんだけど」


 キャッツランド王室の王位は長子相続ではない。生まれた順番問わず、相応しいと判定された王子が王位継承権を持つ。


 しかし、ラセルを含め、第九王子までが王位に相応しくないと判定され、14歳の時点で王位継承権を剥奪されている。


 第一王子のソニア伯爵はすでに国内の伯爵令嬢と結婚し、伯爵家を継いでいる。元王子という肩書がなくても立派な人物で、農政長官として国の内政面で活躍中だ。


 第八王子のシリル殿下もダビステアの名門アカデミーを首席で卒業を決めるだけの逸材だ。心優しい美少年で、ラセルほどではないが魔術と剣の腕も立つ。


 ラセルも素行という面においては国王に相応しくないと判定されてもおかしくはないが、魔術、剣の実力や博識の高さを思えば、少なくとも第十王子に劣るとは決して思えないのだが……。


「誰が判定してんの? それ。まさか髪フェチの国王陛下? それとも宰相閣下?」


「多分親父が決めてるんだと思うけど、判定基準は俺らにも知らされてないからわかんないんだよなぁ……。俺もなー、せめて国王がソニア兄上かシリルだったら臣下として仕えてもいいんだけど、第十王子かぁ……ちょっとしか知らないけど、生意気そうなクソガキって感じの子だったな」


「ラセルにクソガキって言われるなんて、よっぽどの子なんだね、第十王子……コリン殿下だっけ? 勉強できる子?」


「まだ子供だからなんとも言えないけど、そんな秀才タイプではなかったような」


「それにしても、陛下は髪のことばっかりで聖女については触れていなかったね。どう思ってるんだろう」


 ラセルは少し考え込みながら、手紙をアイテムボックスへしまった。全く無意味な手紙であってもパパからの手紙は抹消しないようだ。ラセルは両親からの愛に飢えている。


「お前の兄貴はなんか言ってた? 辺境伯夫人の手紙届いたんだろ? カナを息子にってヤツ……」


「そんなの断ってるに決まってんじゃん」


 実は兄には、ラセルがカナに惚れていることを伝えてある。キースの兄も、ラセルのことが可愛いのだ。


「そうそう。カナね、レイナとビスに教わって、水と火と風同時に操って洗濯機と乾燥機両方やったよ。超一流の魔術師の卵みたいだよ。土も極めたらラセルより上に行くかもね」


 わざとラセルのプライドをくすぐるような言い方をして反応を見てみるが、あまり反応がない。


「なんかさ、俺、カナに嫉妬しちゃった。カナっていきなりなんでもできるじゃんか。チートじゃね? みたいな」


「そりゃ、聖女様だからな。チートに決まってんじゃん」


 ラセルは当たり前だろ、という言い方をする。ラセルはカナをいろいろな意味で崇拝してるので嫉妬心なんてものは欠片もない。


「さっき、カナに感じ悪いこと言っちゃったな。俺って小さい男だよね。女の子に嫉妬するなんてさ」


「……別にキースは、カナと同じになる必要ないだろ。お前は聖女じゃない。期待されている役割が違う」


「そうだね。俺は今のところ、その山のような書類片付けてればいいってことだよね」


「カナだって苦労してるんだ。俺は共鳴したからわかるんだよ。俺はカナを守りたい。たとえ、あいつが俺よりも強くても、俺はあいつの盾になりたいんだ」


 そう言って部屋を出て行くラセルを見て思う。


「本気でカグヤに行く気なのかもな……」


 第十王子や宰相の息子に奪われるくらいなら、信頼するカグヤ国のルナキシア王太子殿下に庇護してもらいたいとラセルは思っている。


 そして、ラセルは自分の気持ちに蓋を閉めて、王太子と王太子妃となったカナのために、カグヤに移籍して騎士になるつもり……らしい。


 ラセルをよく知るキースからして見ると「自分とは結ばれなくても、影から聖女様を見守り尽くす俺」という、悲恋ものの主人公になった自分に酔っているようにも見えてしまうのだが。


――方向性がずれたナルシストだなぁ……。ラセルらしいけど。


 キースはヒルリモール家の次男坊だ。家を継ぐ必要もない。キースにしても、国王を継ぐのがラセルか、先に上げた二名であるならばキャッツランドに残って仕えてもいいのだが、第十王子……。


「俺もカグヤで転職しようかなー。昔のよしみでルナキシア殿下、受け入れてくれないかなー……」

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