ナルメキア亡国の危機② ルーカスside
ルーカスが手に取ると、一通はカグヤ王国からの王太子暗殺に対する釈明がなかった件と、賠償金が支払われなかったことに対する宣戦布告状だった。
残り二通は、キャッツランドとダビステアからの宣戦布告状。カグヤ王国の軍事行動を全面的に支持し、最大限の援護をすると書かれてある。
カグヤは同盟国であるキャッツランドとダビステアの海軍を援軍として引き連れている。連合軍はナルメキア海軍と国境近くで睨みあっている。
ナルメキア海軍は軍艦の数が圧倒的に足りない。カグヤ海軍単体ならかろうじて勝負ができたかもしれないが、キャッツランドは22隻も軍艦を率いているのだ。
時折響く重低音は、海上からの威嚇の空砲であった。
「で、でも! これまで釈明と賠償金なんて話、全然なかったですよね!? 大体、あの話は随分前のことで、なんで今さら? 俺も忘れてたくらいだし!」
しどろもどろで返すも、国王は苦い顔で、カグヤ王国女王からの年賀の挨拶状を出してきた。
挨拶状には、昨年はお世話になりました、今年もよろしくね、という定型文が書かれている。
「普通のお年賀じゃないですか」
「…………左下を見ろ」
国王は苦々しく虫眼鏡を渡してきた。その手紙の左下には小さい文字でこう記されていた。
【我が国の王太子・ルナキシアの暗殺を謀る部隊が拘束された。貴国の王太子、第二王子の指示である証言ならびに証拠はある。速やかに222.222,222ミウムの賠償を求める。期日までに支払わない場合、利子を上乗せして請求させていただく】
「文字小さ……」
呆れるくらい小さい文字だ。こんなの詐欺ではないか。悪意しかないとルーカスは思う。
「カグヤみたいな中堅国の年賀挨拶状なんて開きもしない。これがダビステアやキャッツランドだったら違うんだが……我が国に届く年賀なんて数えきれないほどある」
国王はそう言って項垂れた。
「この利子見てみろ。悪徳金融屋並の金利だ」
国王は力なくそう呟いた。三年の歳月で、国家予算の五分の一まで膨れ上がってしまった。
「ダビステアもキャッツランドもこれが狙いだったんだ。反乱軍が大規模に兵を挙げるタイミングは常に年末年始! 王宮をざわつかせて挨拶状から注意を逸らしたんだ! あいつら、汚ねぇことしやがって!」
王太子はそう叫び、宣戦布告状を破り捨てた。
騒乱を起こされるたびにお年賀の行事は中止となった。ダビステアやキャッツランドの挨拶状なら、どんな白々しいことが書いてあるのやら、と封をあけるだろうが、その他の雑魚国家なんてどうでもいいと見もしなかったのである。
「……他の国からも来てるんだ。カグヤと無関係の国からも。ほら見ろ」
何十通もの書状は、カグヤ王国を全面的に支持する、開戦と同時に我が国も攻める、というナルメキア周辺諸国からの宣戦布告状だった。
「け、けど。なんでダビステア以外の周辺諸国までカグヤの味方してるんだ?」
カグヤと関わりなんてなかったはずでは? と首をかしげると、王太子からは「だからお前はバカなんだ」とまた罵られた。
ナルメキア周辺諸国は、もともとナルメキアに強い恨みを持っていた。言いがかりとしか言えない理由で一方的に攻め込まれ、国土は削られ続けた。さらにこれまでナルメキアが滅ぼした国の中には、現存する国々の親戚国も多い。
これらの諸国は貧しく、脆弱な軍隊しか持っていなかった。そのため敵対する行動は起こしてこなかったが、このところ様子が変わった。
この二、三年の間で周辺諸国は国力を急激に増していった。鉄や魔鉱石の産出量が増加し、それらの資源を魔道具開発を主産業とする海外へ輸出している。その中にはダビステアやキャッツランドも含まれる。豊作も続き、食料自給率も大幅に向上した。
今回のカグヤの開戦は、彼らに取って最大のチャンスなのだ。奪われた領土を取り返し、滅ぼされた親戚の仇を討ちたいと宣戦布告状にも書いてある。
既に国境付近に軍を進軍させているという。カグヤとの開戦と同時に、陸からも四方八方から攻められる。
「けどまだ、我がナルメキアの同盟国があるじゃん。あいつらはどうしたんだよ!? まさか見捨てられたのか?」
国王は力のない目でルーカスを見た。
「そのまさかだ」
ナルメキアの最大同盟国であるルチウム皇国は、カグヤとダビステアの中間にある。ルチウム皇国の存在のおかげで、ダビステアとの絶妙な均衡が保たれていた。
そのルチウム皇国第一皇女とカグヤ王太子ルナキシアとの間で婚約が発表されている。
今にも潰れそうなナルメキアと、未来の婿殿の国であるカグヤのどちらを取るかなど、聞かなくてもわかるというものだ。
ルチウム皇国が動かない以上、他の同盟国も動かない。それどころか、カグヤ陣営へ加担する国もある。
カグヤやキャッツランドは他国で災害が起きれば、いち早く支援を派遣する国だ。特にキャッツランドは王妃自ら正規軍を率いて支援に乗り出し、魔術で怪我人を癒していくという。
両国へ恩を感じる国も多く、敵対行動など取るはずもない。
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