ナルメキア亡国の危機① ルーカスside
第三王子・ローガンの謀反鎮圧から三年の時が経った。
その間、王家に不満を持つ貴族が相次いで反乱を起こした。
使役していた奴隷達も蜂起した。「ナルメキア解放軍」と名乗り、貴族の反乱に呼応するようになった。
年が明けるおめでたいタイミングで起きる騒乱の数々に、ナルメキア王家は悩まされていた。
ローガンや反乱貴族には、大国・ダビステア王国の
ローガンは見せしめのために公開処刑をしたが、反乱貴族達は捕らえることができなかった。
反乱貴族はダビステア製の魔導砲を使用していた。彼らはナルメキアの北側にあるモンテ王国を経由して、ダビステアへ亡命している。モンテ王国はダビステアと軍事同盟を結び、モンテ王国との国境には、ダビステア軍一万人が駐留している。
明らかにダビステアが裏で糸を引いている。ナルメキア首脳陣に衝撃が走った。
奴隷の反乱部隊・ナルメキア解放軍についても、信じがたい情報がもたらされた。ナルメキア解放軍の首領は、第四王子のアイゼルだというのだ。
アイゼルはローガンの謀反と同時に行方知れずとなった。ローガンの軍勢に殺されたのでは、と見られていた。アイゼルはローガンとは異なり、大人しく従順な王子だった。その彼が、なぜ謀反を企てたのか。それも、高貴な王族が奴隷と手を組んだのだ。前代未聞の反逆行為だ。
ナルメキア解放軍は、モンテ王国の隣国のピエニ王国を拠点としている。ピエニ王国の王女は、キャッツランド王国の王子と婚姻関係を結んでいた。ピエニ王国にはキャッツランド軍二万人が駐留している。
ナルメキア解放軍は、キャッツランド製の魔導銃を所持している。そして、アイゼルとキャッツランド国王は旧知の仲であるという。
反乱貴族の背後にはダビステアがいる。奴隷王子はキャッツランドの支援を受けている。
ダビステアとキャッツランドは、強固な絆で結ばれた同盟国。これまで仮想敵国として頻繁に名前があげられる両国だが、これまで表立った敵対行為は受けていない。
なぜ今になって牙を剥いてきたのか――これまで両国との交渉の矢面に立っていた外務大臣も首をひねるばかりだ。
ダビステアとキャッツランドの公邸大使を呼び出して詰問するも、知らぬ存ぜぬで煙に巻かれる。詰問状を両国へ送っても、そんなことは知らないと追い返された。
キャッツランドは遠方の国だが、ダビステアはモンテ王国、ピエニ王国と国境を接する近距離にある国家だ。
軍部では、モンテ王国、ピエニ王国へ侵攻し、さらにダビステアへ直接兵を向けるべきでは、という意見も出たが、反乱によってナルメキア軍主力の魔導砲が破壊されている。
同盟国に援軍を打診したが、あっさりと断られてしまった。単独でダビステアと戦うには戦力が足りない。ダビステアと事を構えるのは断念せざるを得なかった。
事態は刻一刻と悪い方向へと転がっていく。アイゼルが反乱奴隷の首領――その情報が広まると、兵士の離反が相次いだ。アイゼルは大人しい王子ではあったが、心優しい彼を慕うものは多かったのだ。
下級官吏や下級兵士、庶民達には、アイゼルの「愛読書」として、とある本が密かに広まった。「公僕論」というタイトルのその本には「王族貴族は国民の公僕である」という過激な思想が書かれている。
著者は、キャッツランド国王の弟・シリル王弟である。シリル王弟が16歳の時に書いたもので、ダビステア王立アカデミーが出版している。
元々、ナルメキアでは過激な政治思想が書かれた本は、発禁書として扱われる。王家は「公僕論」を所持しているだけで国民を投獄したが、弾圧すればするほど、国民は革命を切望する。
そして、ナルメキア最大の同盟国・ルチウム皇国皇女と、カグヤ王国王太子との婚約が大々的に発表された。カグヤ王家はダビステア王家、キャッツランド王家と親戚である。なぜ、同盟国が敵陣営の国と縁を結ぶことになったのか――。
緊迫した情勢から、ルーカスは他国の間諜と接触できないよう、邸宅に幽閉状態となった。次に謀反を起こすとすればルーカスに違いないと、国王も王太子も睨んでいたからだ。
ルーカスはこれまで以上に酒に溺れた。常に酩酊状態で過ごしていた。やることがないからだ。
ある時、ルーカスが二日酔い気味で目を覚ますと、遠くからドォォーン、ドォォーンという腹に響く重低音が響いていることに気がついた。何事かと起き上がると、副官のラオスがノックもそこそこにドアを開けた。
「国王陛下から至急のお呼び出しです」
「はぁ? 父上? 至急?」
幽閉されたまま、放置されていたのに。ルーカスは首をかしげる。
しかしこの大きな重低音はなんだろうか。ルーカスは疑問に思いながらも迎えの馬車に乗り、王宮へと向かう。
「半年ぶりの外出だ。まったく、ローガンや落ちぶれ貴族のせいで大迷惑だぜ。奴隷まで反乱を起こすし。けど、まさかあのアイゼルが賎しい奴隷を先導するチンピラに成り果てるとはなぁ……。アイゼルみたいな雑魚を軽く捻れない父上も兄上も無能だな」
馬車の中で、ルーカスはラオスを相手に愚痴を言う。いつもラオスは「はいはい」と聞いてくれる。
しかし今日は違った。
「雑魚なのはアイゼル様ではなく、貴方でしょう」
嘲笑うように冷笑された。ルーカスは一瞬、言われた意味がわからなかった。
「あぁ……でも貴方は単なる雑魚で、外道な国王や王太子とは違う。貴方の方がまだマシですね」
やっと言われた意味がわかった。ルーカスは酒臭い息を吐きながら、ラオスの胸倉を掴む。
「あ? 雑魚ってなんだよ!?」
ラオスはニヤリと笑った。
「そのままの意味ですよ。でも雑魚は雑魚なりに役に立ちました。貴方のことがきっかけで、革命が数年早まったのですから」
「あ? 革命? 何言ってんだ? 頭おかしくなったのか?」
馬車が王宮に到着した。ラオスはルーカスの疑問には答えずに、「公僕論のその先に」という本を手渡す。
「私はナルメキアの子爵家の出ですが、私の姉はミクロスへ嫁ぎました」
ラオスはぞっとするような冷たい目をしていた。
「ミクロスってなに?」
ルーカスが訳がわからない、という表情で尋ねても、ラオスは軽蔑するような視線しか返さない。
「…………わからないならいいですよ。さようなら、ルーカス殿下」
馬車を降りると、ラオスは反対方向へと歩いて行く。
「てめぇは俺の副官だろうが! どこ行くんだよ!」
ラオスは振り返らなかった。
◇◆◇
「これはどういうことだっ!?」
国王の執務室へ連行されると、国王はこめかみを震わせながら小型の魔道具を操作する。
『兄上はルナキシアを憎んでいる。兄上の元婚約者のレイチェル嬢はルナキシアの大ファンだ。ブロマイドを集めて推し活真っ最中だ。それが兄上はどうにも許せなかったんだ! これは兄・王太子であるサイフォン・ジェイル・ナルメキアの指示だ。兄上の指示により、男の敵・憎きルナキシア・ナタン・カグヤを討つのだ!』
魔道具からは紛れもないルーカスの声が流れてくる。
「一体なんなのだこれは! 本当にお前はサイフォンに命じられて、カグヤのルナキシア王太子を討てと言ったのか!?」
国王は苛立ちを抑えきれずに机を叩いた。
――確かに俺の声だ。これ……なんだっけ?
ルーカスはようやく思い出した。サイランにクソガキ抹殺を命じた時にこの言葉を発した。
「わ……私は別にルナキシア殿下を憎んでなどいない! た……確かにちょっとなんなんだよあいつ、的な、ちょっとした妬みはあったが、殺せなんて言ってない! 大体レイチェルがルナキシア殿下のファンだったなんて、今初めて知ったよ!」
兄のサイフォン王太子はイライラしたようにそう怒鳴って、ルーカスを拳で殴った。
「ルーカス、お前が仕出かしたおかげで大変なことになった」
国王は三通の書状を床に転がるルーカスへ投げつけた。
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