ところ変わってナルメキアの不穏 ルーカスside
ナルメキアの第二王子・ルーカス・ノア・ナルメキアは新聞を握りしめ、丸めて壁にぶん投げた。
【苛烈なキャッツランド新国王・兄王子を粛清か】
【キャッツランド新国王・新たな新兵器の開発成功を発表・新たな国防上の脅威となるか】
【キャッツランド国王実弟とダビステア第一王女の婚約が正式に決定! 両国の結びつきがより強固に】
キャッツランド新国王にまつわる話題で持ち切りだ。新聞には写真もあり、あのクソ生意気な第七王子のイケメン顔が載っている。
「なんで、第七王子の雑魚がいきなり国王なんだよッ!? おかしいだろうが!」
ガンッと机を蹴り上げた。勢い余って脛を打ち、悶え苦しんでいるところに副官のラオスが入ってきた。
「どうなされました? お部屋は散らかさないでくださいね」
この副官も、ルーカスの企みに絡んだ人物だ。ルーカス、サイラン間の金の行き渡し、作戦会議などに参加した人物である。
ラオスは丸められた新聞紙を広げ、あぁ……とルーカスの苛立ちの原因に気付いたようだ。
「なんで第七王子の雑魚が国王になれるの? 第二王子の俺が国王になれないのに!」
改めてルーカスは先ほどと同じ疑問、というよりは苛立ちをラオスへぶつける。
「それは国の違いとしか言いようがありません。キャッツランドは代々、第一王子が王位を継ぐ、というシステムではないですし」
「じゃあどういうシステムであのクソガキが国王に選ばれたんだよ!? 顔か? 生意気度合いか? クソッぷりが他より優れてんのかッ!?」
またガンッと机を蹴り上げる。今度は机がひっくり返り、飲みかけのウィスキーが散乱した。
「さすがにクソッぷりが優れてる人を選ばないとは思うのですが……なんでしょうね。前国王の指名とか? 宰相の指名とか? 国民投票ですかね?」
もはや適当である。キャッツランドは遠い国なので、そこまで情報通もいない。
「あいつは嫌われもんだから殺してOKってサイランが言ったんだよ! だから国王や宰相の指名とか、国民投票はあり得ないな!」
さらに面白くないことに、カグヤ内で騒乱を起こした魔術師を処刑というニュースも耳に入る。あれからサイランとは連絡が途絶えている。処刑されたのはサイランとみて間違いはなさそうだ。
「くそ! ルナキシアめッ! そしてクソガキめッ!」
あの女を侍らせて得意気になっているルナキシアと、人通りの多い道沿いで挑発してきたクソガキの顔が思い浮かぶ。
そういえばあの時……ルーカスは思い出す。
――あのクソガキは、アイゼルを庇うために割って入ってきたんだよな。ということは、アイゼルとは親しい仲なのかもしれない。
「おい、アイゼルんち行くぞ!」
第四王子のアイゼルにキャッツランドの王位継承システムを聞こうと思い、ルーカスはアイゼルの邸宅へと向かった。
◇◆◇
アイゼルの邸宅では、かなり迷惑そうな顔をされ、執事に応接間に通された。わざとなのか、熱くて飲めない熱湯紅茶を出される。
アイゼルが部屋に入ってくると、ルーカスは丸めた新聞記事をアイゼルの顔をめがけて投げつけた。
「お前、前にこいつと親しげにしてたよな!?」
アイゼルが呆れながら丸めた新聞記事を広げる。
「こいつって、キャッツランドのラセル国王陛下のことですか?」
「陛下とか呼びたくないね! そのクソガキだよ! お前とどういう関係!?」
アイゼルがひたすら困惑している。首をかしげ、どう答えていいものか迷っているようだ。
「あの……海外の国王のことを陛下とお呼びしないのは、大変非礼なことですよ?」
困惑したあげく、返ってきたのは説教である。
「非礼か無礼かなんてどーーーーでもいいんだよッ! お前との関係を聞いてるんだ」
家でしているように、ガンッとテーブルを蹴り上げた。熱湯紅茶が脛にかかって「あーーーッ!」と悲鳴をあげる。後で誰かにヒールをしてもらわねばならない。
「……関係というか、王太子殿下を通じて知り合った方です。王太子殿下の知り合いの知り合いを助けてくださったとかで。お話すると面白い方なので、ナルメキアに来ていただいた際には必ずお声掛けいただくようお願いしていました」
つまり知り合い以上友人未満といった関係か。ルーカスはアイゼルを睨みつけた。
「こいつ、第七王子の雑魚だったよな? なんでいきなり国王になってんだよッ!?」
そう詰め寄ると、さらにアイゼルは困惑してしまう。
「そんなこと知るわけないじゃないですか。あぁ、でもラセル陛下からはお手紙をいただいてましたよ」
「その手紙見せろッ!」
「……大切なお手紙なので、破いたりなさらないとお約束いただけるならお見せしますけど?」
「……約束しよう」
渋々約束すると、アイゼルはアイテムボックスから手紙を取りだす。そして、ご丁寧に魔術で破損防止結界を施した後に、ルーカスに見せてきた。
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アイゼル殿下、お久しぶりです。
実は先日、国内の事情から、私が国王に就任することになりました。
就任の過程についてはお伝えすることができかねるのですが、急な話で驚かれると思いましたので筆を取らせていただきました。
今後は外交特使としてお会いすることができないのですが、アイゼル殿下がキャッツランドへお越しの際は、気軽に王宮に訪ねてきていただきたいと思っております。
私達の変わらぬ友情を願っております。
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サイフォン王太子顔負けの汚ない字かと思いきや、なかなかの達筆である。
国内の事情とはなにか。不穏な動きでもあったのだろうか。
――確かにクソガキはクソなだけに荒くれ者だ。剣と魔術の腕は相当なものだと聞く。あの新聞に載っていた兄王子の粛清もそういう事情に寄るものか……?
もしかすると、キャッツランドでは王子達で決闘を行い、そのイベントを勝ち抜いた者が王位を継ぐシステムなのかもしれない。それならばクソガキがナンバーワンなのも納得がいく。
粛清の兄王子は、その武道会で破れ、運悪く天に召された者達なのだろう、とルーカスは勝手な妄想で納得をした。
手紙には変わらぬ友情と書いてある。アイゼルが王宮にふらふらと訪ねて行けば会ってもらえるという。
「お前、外国の国王と親しい俺ってマウント取っただろ? アイゼルのくせにッ!」
手紙は破けないので、乱暴に返した。火傷を負ったままアイゼルの屋敷を後にする。
アイゼルは涼しい顔でルーカスを見送った。
それがルーカスが見た、最後のアイゼルの姿となった。
アイゼルの屋敷を出た後、王宮の周りが騒然としていることに気付く。
「ローガン殿下が兵を挙げた」
「領地から攻めてくるぞ」
兵士たちが慌ただしく王宮の門から飛び出して行く。
第三王子謀反――それはナルメキアの崩壊の始まりだった。
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