残党との決戦
王宮を出立し、大軍を率いて港へと向かう。
カグヤ国内でもラセル新国王誕生は知れ渡っていて、カグヤの最大同盟国のイケメン国王を一目見ようと、沿道には多くの人々が押し寄せている。
また、ラセルは10代をこのカグヤで過ごしていることから、同級生と見られる貴族の一団が「ラセル国王万歳!」と王宮近くで大騒ぎをしていた。
ラセルはゴージャスな真紅の衣装を身にまとい、騎馬で沿道に手を振っている。
その国王を守るように第七騎士団が護衛し、さらにラセルを先導するようにルナキシア王太子殿下の精鋭騎士達が守り抜く。
来る時と帰る時で随分と待遇が違うものだ。国王の重みってやつだね。
私は王妃に相応しい、これまたゴージャスな白地に銀の装飾が入った衣装を着せられている。
私とレイナは馬車に乗り、国王陛下の騎馬を追いかける形で進んでいる。
「私、本当に大丈夫かな」
ガクガクと震えてくる。王妃になると決意したものの、やっぱり恐れ多いもの。
「カナ様、大丈夫です! それにカナ様は聖女様ですもの!」
レイナもなぜか震えている。まさか自分の主君が国王になるとは、仕えた当初は想定していなかったのだろう。
「レイナ! ずっと一緒にいてくれるよね?」
「もちろんです! 私、帰ったら王宮から離れませんっ!」
ガッツリと手を取り合う。
港へ到着し、ひときわ大きいカグヤ軍艦に乗り込むことになる。
カグヤ国民達に手を振りながら、軍艦は海に向かって進みだした。
◇◆◇
船には腕利きの騎士達と、後方支援の魔術師達が乗り込んでいる。軍事演習のための人員だ。別働隊は既に遠回り航路で海賊の本拠地へ向かっている。
ルナキシア殿下の狙いもシリルと同じ。アークレイ先輩の次に指揮を執っている、ナルメキア近衛騎士が持つ手紙だ。
なんとしてでも生け捕る、と燃えている。
「俺も戦わないとな。キースもビスも、第七騎士団も絶対に負けんなよ!」
ラセルも第七騎士団プラスキースに激を飛ばす。そしてラセルは私に向けて言った。
「ペンダント、貸してほしい。絶対にお前を守るから」
◇◆◇
部屋の窓から眺めていたら、キャッツランドの島の一部がはるか遠くに見えてきた。キャッツランドとカグヤは一日で往復できる距離なのだ。
キャッツランド王国は5つの島で形成され、一番大きなテール島に首都がある。
「あれはなに島?」
横で海を眺めていたレイナに尋ねた。
「フロントレッグ島です! 魔鉱石と鉄がよく取れる山があるので、魔道具工場がたくさんあります。あんまり私は行ったことないですね」
「へぇ~。確かキャッツランドの主産業は魔道具開発って言ってたもんね」
だんだんとドキドキワクワクしてきた。もうすぐみんなの故郷であるキャッツランドに着くんだ。
でもその前に軍事演習があるんだった。キャッツランドの反対側から、大きな船が近づいてくるのが見えた。
「ついに来た! 敵襲!」
カグヤの人達の声が遠くに聞こえる。私は慌てて杖を出すと、ドアに駆けて行く。
ドンッ! と船に軽い衝撃が走る。甲板に出てみると、海賊船が軍艦に突撃をしかけてきたのだ。海賊たちが空を舞って、軍艦に攻め込んでくる。
しかしカグヤ側の魔術師も負けじと海賊を運ぶ飛行魔術を妨害して、何人かの海賊が海に落下している。
カグヤの騎士と海賊達が乱戦状態になった。指揮を執るルナキシア殿下には、既にペンダントを渡してある。
「貴様ら、この世界最強の騎士、ルナキシア・ナタン・カグヤの剣を受けてみろ!」
剣を持ち人が変わったルナキシア殿下が、海賊達を華麗な剣さばきで圧倒していく。世界最強の騎士、と自分で名乗るところは、ラセルとの血の濃ゆさを感じる。
「世界最強ねぇ……。じゃあ捌いた数でどっちが最強か比べてみようか」
その様子を見たラセルまでが燃えている。やはりこういう場面では血が騒いじゃうのか。
ラセルは国家元首らしい真紅と黒を基調とした軍服を身にまとい、腰にはもちろん私の祝福が込められた剣を着用だ。
ラセルはものすごい勢いで敵に突撃をかまして、4、5人を一気に斬り捨てた。
「……今さらなんだけど、国王とか王太子って、後ろで指揮を執ってるものだよね? なんであの人達は最前線なの?」
後から現れたキースに呆れながら聞くけど、キースも同様にげんなりとした表情だ。
「俺TUEEEEEしたいだけでしょ? ああいう主君、ほんっと困るんだよね」
しかし敵も超強い。カグヤの騎士も第七騎士団もツワモノ揃いなはずなのに、なぜか押されている。私は彼らにヒールをかけまくる。
「やっぱり変だ。あの海賊達、魔術師から身体強化の魔術かけられてる他、特殊なポーション飲んでるね。きっとあの芋虫パイセンが作ったんだ」
キースが海賊達の動きを見て警戒を強めている。
序盤は押され気味だったものの、最強となった国王&王太子の手にかかると、ポーション強化された海賊達も敵うことなく倒れていく。
そこに、海賊とは異なる雰囲気を持つ男が舞い降りてきた。海賊と同じような服を着ているが、立ち居振る舞いが海賊と違い、どことなく気品がある。きっと彼がナルメキア第一騎士団の騎士だろう。
「お前らが男の敵であるルナキシアと、クソガキ第七王子だな! この海に沈めてやるから覚悟しろ!」
騎士は剣を突きつけて国王&王太子に宣戦布告だ。
「私が男の敵……? 私は男性からもモテモテなのだが?」
「情報古いなぁ。俺はクソガキ第七王子じゃなくて、偉大なる天才国王だ」
二人の突っ込みどころ満載な返しは置いておいて、そこそこ強い敵ではあったけれど、あっけなく生け捕りにされてしまう。
「下手くそな手紙もゲットできた。シミュレーション通りの出来だ」
ルナキシア殿下は、偽の王太子指示書をゲットして、仕舞った。
海賊達を一網打尽で縛り上げ、飛行魔術で海賊船から魔術師の方も生け捕ると、前から黒船の一団が近づいてきた。あれが世界最強の海軍・キャッツランドの22隻の戦艦か。
ものすごい迫力だ。
キャッツランド軍は、海賊が乗ってきた船を木っ端微塵にしてしまう。そしてそのまま海賊が拠点とする、カグヤ国無人島のチクリン島へと向かっていく。
先頭の大きな船から、一人の高貴な服を着た青年が手を振っている。シリルだ!
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