泣き虫王子、ナルメキアの事情を探る ラセルside
「で、結局黒幕は、お前の憧れの先輩と第二王子ってことか。前にあったラセルを標的にしたヤツもその二人が黒幕ってことね」
ビスも呼んで、眼でみたことを簡単に話した。
「第二王子とは、殿下が挑発して4発殴られた事件があり、そこで生意気なクソガキと思われたということですね。殿下ってご自身が王子って自覚ありますか?」
ビスも呆れ気味だ。ルーカスはもちろんラセルのしたことも、そのへんのごろつきと大差がない。少なくとも王子はそんなことはしないものだ。
「自覚……ないな。だから殿下って呼ばれるのも本当は嫌なんだって」
ビスが騎士団としてやってきた時に、「殿下って呼ばずに名前か、かっこいい二つ名を考えてそれで呼んでくれ」と頼んだことがあり、それが宰相閣下にバレて怒られたことがある。
「しかしどうやってアークレイ先輩は聖女を奪還したのが俺ってわかったんだろ」
「そりゃ、はじめに登場した人攫いに聞いたんじゃないの? ラセルって特徴あるし、すぐに特定されると思うよ」
「だよな。こんなにつやっつやの黒髪イケメンなんて俺しかいないからな」
せめて変装すればよかったと、今さらながら後悔する。
「……早めにここを発ちましょう。ナルメキアの王子が絡んでいるとなると大変危険です。さすがに第三国で大軍で囲まれるということはないでしょうが、本格的に討伐隊を組まれる可能性があります」
「次はカグヤだったよね? 我らの第二の故郷の。あそこなら王宮に入れてもらえるし、安全だよね」
安全だけではない。カグヤなら情報を集められる。特にサイラン・アークレイの。王太子のルナキシアは上級魔術師でもある。そして魔術師上層部の人間も動かせる。
その前にルーカスがどのような人物なのか改めて確認したいと思った。
ルーカスの兄である王太子とは、前に会ったことがある。外交特使で初めに来た時に手伝った農業バイトの時に、農園を営んでいる貴族を経由して会うことができたのだ。
そこまで優れた人物ではなく、どちらかと言えば軽そうな男だった。「え? 君ってキャッツランドの王子なの? そんな風に見えないねぇ」なんて言葉を交わした記憶がある。
ルーカスの言葉から、王太子とは仲が悪いように思われたが、まさかの黒幕の黒幕が王太子では、一国対冷遇王子の戦いになり、非常に不利だ。
そのルーカスのさらに下の弟が、ラセルが転職を斡旋してやった暗殺者二人組の元主君であるローガンだ。
ローガンは今回のことに無関係のようだが……。
「ちょっと剣取りに行くついでに、ダビステアの対ナルメキアの交渉を行っている貴族に会ってくるわ」
剣がそろそろ出来上がるのだ。本当はカナと取りに行きたかったが仕方がない。
「俺、一人で行く。お前らは全力でこの公邸でカナを守ってくれ」
「……本気で言ってんの? やっぱり主君でもぶん殴っていいですか?」
またキースが激怒だ。ビスも静かに怒っている。
「私も行きます。憧れの先輩にクソガキと罵られて一人になりたい気持ちもわかりますが、狙われているのはカナ様だけではなく殿下もです。むしろ、殿下が一番邪魔だから先に狙われたんですよ」
◇◆◇
「別にアークレイ先輩が黒幕とか、クソガキ発言だけがショックだったわけじゃねーよ」
ビスと並んで馬に乗り、ラセルは話し出す。ベイテルクの工房までの道筋は人通りが多い。また、ビスとラセルの二人組を襲撃するのは敵もリスクがあるだろうという判断から、二人で来ることになったのだ。
「アークレイ先輩が言ってた、国元で俺が殺されても怒るどころかむしろ感謝されるって部分に、あーって思ったんだ」
「そんな酷いこと言ってたんですか? そのアークレイって人、魔術の腕はいいのかもしれませんが、人として最低ですね」
ビスは人格者である。そのような最低発言は許容ができないのだろう。
「けどさー、なんかそれ、本当にそうかもって思えてきてさ。俺って宰相から超嫌われてるし、早くどっか行けって空気感じるし。そもそも邪魔だから外交特使やらされてるわけで」
「けど、殺されて感謝ってことはないと思いますよ。殿下のことを大切に思ってる人もたくさんいます。それに国王陛下は殿下のことを買ってるじゃないですか!」
「買ってない買ってない。君は見た目がいいね、髪が綺麗だね、そればっか。話したことそんなにないし、俺の性格とか中見の部分なんて知らないんじゃないかな……全然興味持たれないし……やっぱ……いらない子じゃん………グスッ」
「殿下……泣かないでください。ほら、通行人が見てますし。それに陛下が名前間違えないのって殿下とシリル殿下しかいないという噂でしたよ」
「名前覚えられないくらい子供作んなきゃいいのに……グスッ……全然愛されてないんだよ……庭で会っても、あれ君ってラセルだよね? 髪が綺麗な子だねぇ。で、今日の髪は……みたいな中見がない会話で……グスン」
「殿下、元気だしてください。泣きながら馬に乗ると危ないですし。殿下のご家庭はご兄弟が多いから仕方ないですよ」
ラセルは自分が冷遇されていることは知っているのだが、改めて突きつけられてショックなのである。
その時、ふと自分の中の警戒信号が働いた。周囲に怪しい人はいない。涙を拭って、上空を見る。
そこには鮮やかな赤い小鳥が舞っている。ラセルは小鳥から目が離せなくなる。
――あんな綺麗な鳥、見たことがない。
一瞬鳥と目が合った気がした。
「エンジェルジェイル」
鳥を優しく捉えようと、手を伸ばすが、バチンッと跳ね返された。
「……普通の鳥じゃない。使役鳥だ」
「使役鳥?」
ビスが聞き返す。鳥は高く飛び、ラセルから遠ざかって行った。
「多分、あれがアークレイ先輩の眼だ」
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