そして王子は地下牢に幽閉される? ラセルside
いつまでも泣いていても仕方がない。
キースの言い分もわかるが、ラセルはやはりフランツを逃がす方向で考えていた。借金の話もあるし、クソガキと罵られる中、フランツは一度もクソガキを呼ばなかったのだ。
「ありがとう、フランツ。俺のことを一度もクソガキと呼ばなかったな」
「は?」
意味不明なお礼を言われて、フランツはきょとんとした顔をする。
「あの雰囲気だったら、『そうっすねー。あいつクソガキですよねー』とか同調しちゃいそうじゃないか。でもお前はそうしなかった」
「……別に殿下のこと、一度もクソガキとは思ってないですから。不良っぽいな、とは思ってましたが」
そう思われるのは仕方がない。同級生は、ナルメキアか、その近辺の裕福な国の王族貴族ばかりなのだ。その中で、ラセルのような荒くれ者は異分子なのだから。
「俺の副官であるキースは優秀な男だ。その優秀なキースの進言に俺は逆らうことにする。これはクソガキと罵られる中、一度もその空気に呑まれなかったお前への敬意だ。俺も空気に呑まれないことにする」
「はぁ!? なに言ってんの? 間違いなくお前はクソガキだよ! 君も空気に呑まれて良かったんだよ!? 今からでも遅くない! クソガキって言いなさい!」
ぶち切れたキースが、フランツにまできつく当る。
「しかし、同時に俺は聖女様を守る騎士でもある。彼女に危害を与えるものは万死に値する。俺の個人的感情で、無条件に解放することはできない」
「あの……殿下、初めに申し上げたように、むりして釈放しなくていいんですよ。死は覚悟してましたし」
フランツはこう言うが、ラセルはフランツを断頭台に送ることはできない。すべてはあの二人――サイラン・アークレイとルーカスが悪いのだ。
「聖女様の安全を守るため、お前に誓約をかける。お前は二度と聖女様――カナに危害を加えることはできない。カナに絶対服従だ。
カナとフランツの間に蒼いラセルの魔法が放たれて、フランツの視界が揺らぐのを感じた。そしてフランツを拘束している縄を解いた。
「この魔法はカナが死ぬまで解けない。カナに危害を加える行為には、あの悪魔の国、ナルメキアの騎士に戻ることも含まれる。たとえ、直接の主君であるアイゼル殿下がいい人であっても、彼はナルメキアの王子で、ルーカスよりも序列は下だ。また良いように使われることも懸念される」
この一件でフランツの人生は大きく狂った。もうエリート近衛騎士ではいられないのだ。ラセルの紹介で就職するにしても、近衛騎士は厳しい。その国の代々の貴族家系のものでないと勤められないからだ。
それは本国、キャッツランドでも同様だ。
キャッツランドでは騎士団入隊に家柄や身分の縛りはないものの、先祖代々キャッツランド国籍を有することが条件となっている。そのため、フランツは入隊できない。
ラセルは懐から分厚い紙袋を取り出し、フランツに手渡した。
「今回のバイト代だ。餞別にやろう。俺はお前から故郷と地位を永久的に奪ってしまった。恨みはあるだろうが、俺にも立場ってものがある。ごめんな」
「へ?……なんで?」
フランツはぽかーんとしている。
一方、キースは大激怒だ。
「お前何考えてんの!?」
ラセルの胸倉を掴み、激しく詰め寄る。
「なんで餞別まで渡してんの? バカなの? バカって知ってるけどあえて聞く!」
「ごめんキース。バカな主君はお前の言うことは聞けない。いくらでも殴っていいから」
「ぶん殴りたいけどさすがに主君は殴れないわ……もういい。宰相閣下に報告する。お前は国に帰ったら地下牢に幽閉だからな!」
バタン! と乱暴にドアを閉めてキースは出て行った。
「あの、私を釈放することによって、代わりに殿下は地下牢なんですか? 逆じゃないですか? それ……」
フランツはかなり困惑している。
「いいんだよ。自分のしたことには責任持たないとな。あの副官が戻ってこないうちに早く公邸から出るんだ。達者で暮らせよ」
ラセルは追いたてるようにフランツを追い出す。そんなラセルを、カナもまた困惑した表情で見つめている。
「ねぇ、ラセル」
カナが大きな瞳でラセルを捉える。少し怒っている。
「国に帰ったら地下牢に入るの? 俺の妻になってほしいって言ったよね?」
――そうだった!! プロポーズOKしてもらったんだっけ! 地下牢に入るわけにはいかねーじゃんか!
素早く猫になる。こうなったら禁断の魅了を使ってでも副官殿を止めなければならない。
「俺は地下牢になんか入らない! カナとずーっと幸せに暮らすんだからな!」
黒猫はダッシュでキースの部屋へ向かった。
◇◆◇
猫用出入り口からキースの部屋へ入ると、またしても紙屑が頭に当る。広げてみると案の定のことが書いてある。
「ラセル殿下は聖女を危険に晒したヤツを餞別渡して釈放しました。勝手な行動をするので早く地下牢に閉じ込めて逃がさないようにしてください……か。ごめんキース、俺が独身だったらいくらでも地下牢入ってやるけど、俺はもうカナという大切な妻がいるんだ」
机に飛び乗って、怒りの形相で手紙を書きまくっている手にじゃれつく。
「邪魔!」
「そう言うなって」
すりすりしていると、キースは諦めたようにまた手紙を丸めて、猫をもふりだす。
「結局、こうなるんだよね。キャッツランド王族って卑怯だわ」
今回も黒猫は副官を丸めこむことに成功した。
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