王子様のアルバイト

 今日もラセルはダビステアの12歳の王子様にもふられまくり、人間に戻るとがっかりされるという友好活動を行った。


 これで王子様が大人になった時にはキャッツランドに親しみを持って、出来れば便宜を計ってもらえるようになるだろう。


 この国は既に王子の上に第一王女がいて、王女が女王になることは確定だ。12歳の王子が王位を継ぐことはないが、この活動が無駄になることはあるまい。


 いつもの猫外交の時と違うのは、護衛として第七騎士団が常に付いていること。先日の一件からキースの厳命で厳戒態勢に入ってしまったのだ。


 これ以上キースに逆らうと、本当に宰相にチクられて地下牢に幽閉されてしまうので、大人しく従っている。


「ビス、もうちょい離れて歩いてくんない?」


「すみません殿下、うざいですよね」


「第七騎士団の隊服目立つしさ。それに俺、先日の一件から知られた顔になったみたいで、みんなが「え~あの顔で?」みたいな目で見てくるんだよ。もう耐えられなくて胃が痛い」


 そうなのだ。先日の一件からラセルはちょっとした有名人だ。街を歩けば、「あの人でしょ? 童貞王子って」「そうそう、あの顔でウソでしょ?」と、ひそひそとした声で話されるのが耳に入るのだ。第七騎士団の隊服も目印になってしまっている。


 このひそひそは庶民達のものでまさか貴族には伝わっていないだろうが、猫外交に行く時も、どう思われているんだろうか……と思いドキドキするのだ。


「だったら殿下、馬車で移動すればいいじゃないですか」


「この街オシャレでカッコいいし、歩いて色々見てみたいんだよ。あの服カッコいい。ビスどう思う?」


「いいんじゃないでしょうか」


 昼間のスラーブルの街もオシャレで、スタイリッシュな店の数々が並び、オシャレな若者たちが買い物を楽しんでいる。


 バーはカフェに様変わりし、裕福そうなマダムがお茶を楽しんでいる。


 ラセルは何着かお買い上げをして、また徒歩で歩く。すると、前からダビステアの騎士団のイケメンが歩いてくるのに気付いた。


 今日お会いした12歳の王子様付の騎士団長で、今日は非番のようだった。


「お久しぶりですね、ラセル殿下、サーディン団長、殿下は最近ちょっとした有名人ですね」


――やっぱり貴族にも伝わってる! 最悪だ!


「……久しぶり」


 俯いてウジウジと返してしまう。


「お久しぶりです!」


 一方、ビスは爽やかに返した。


「いや、素晴らしい剣技と魔術の組み合わせだったと聞いてますよ。空中に剣を跳ね飛ばして、それを飛行術で華麗に舞って取ったんですよね?」


――なんだ、そっちか!


「そ、そうなんだよ。俺ってやっぱり天……」


 天才は封印すると決めていたのだが、やはりついつい口に出てしまう。


「殿下は天才ですよ! 剣術も強いし、魔術も使えるし。我が国は魔術師がほとんど育たなくて、人材難なんです。実は魔術が使える方に相談があって」


 やたらとラセルを持ちあげてくる。そうなるとラセルもちょっと機嫌が良くなる。


「相談ね。全然乗るよ」


「ちゃんとお金は騎士団から出しますから、ね?」


「てことは、魔獣退治かなんか?」


「ご名答です! ちなみに殿下は聖女様とご一緒だとか?」


 聖女のことはルーシブルの結界強化の話が噂で広まり、このように知られてしまったのだ。ナルメキアや本国・キャッツランドに知られるのも時間の問題かもしれない。


――でも大丈夫だ。絶対に俺が守るから。


 せっかくカナが聖女業にやる気を出しているのだから、聖女の騎士としては可能な限りその力を活かしてやり、全力で守るのみなのだ。


「とりあえず聖女様に聞いてから回答でもいいか? やはり俺は聖女様の騎士に過ぎないしな」


「なんか主従関係みたいですね……」


 ラセルの中では聖女、というよりカナは絶対的な存在で、主従といえば主がカナで従がラセルになるのだ。


「そうなんだ。俺は聖女様の騎士になるのが夢だったからな」


 王子として大切に守られるよりは、誰かを守る存在になりたかった。


 カナを守ることはラセルの喜びでもあるのだ。

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