ラセルの買ってる恨みとは②
キースとビスは大爆笑して、ラセルはハッとした顔をする。
「え? もしかしてそれ? 俺が天才なのを妬んでの犯行か?」
「そうじゃなくて、いちいち自分で自分を天才って言ってるのが鼻につくんだよ、きっと」
納得したのかしてないのかわからないまま、妙にすっきりとした顔でラセルは二人に近付く。
そして一人ずつ例の眼で相手の記憶を盗む魔術をかけていく。魔術を解くと、少し涙目になっていた。
「誰なんだ。ここまで俺の名誉を著しく傷つけるウソを付くなんて。このユージェフさん、見覚えないんだけど。変装してんのかな……でもどっかで見たことあるような、ないような……」
がっくりとうなだれている。そして、二人に尋ねた。
「お前らさ、ユージェフさんの涙は本物だった! って言ってたけど、あの演技で信じたの? あんなの俺でもできるよ」
なぜか記憶の中のユージェフ氏に謎の対抗意識を燃やしている。そしていきなり、情感たっぷりに演じ始めた。
「ホリー宰相閣下は大変なクズ野郎なんだ……ッ! いつも罪のない、いたいけな王子に罪をなすりつけ、陥れようとしてるんだ……ッ! 私はそんな王子が気の毒でならない……ッ……うぅ……ッ………こんな感じだけどどうよ?」
涙までポロポロと流し、なんだか本当に悪徳宰相閣下と可哀想な王子がいるような気がしてしまう、迫真の演技につい引き込まれる。
パチパチと拍手を送った。お見事な演技力よ……。
「なんだかその宰相閣下が悪いヤツな気がしてきました!」
剣士の方が妙に納得をしている。
「だまされやすいなぁ、お前。俺はジュニアアカデミー時代は、演劇同好会の看板俳優だったからな」
なるほど。前に見た王子様的な猫かぶりも俳優さんだと思うと妙に納得。
「宰相閣下は嫌なヤツだけど、俺はそんなにいたいけで可哀想な王子ではない。多少罪はあるしな。捏造して喋ってるうちに感情が入ることはよくあることだ」
自分の話か。ラセルはお国元でどんな暮らしをしてきたんだろう。
キースは呆れた顔をしている。
「ラセルは王宮の敷地内から勝手に抜け出しちゃうし、昨日みたいな飛行魔術で王宮の上飛んでたりするし、しょっちゅう下町に行っちゃうし、色々問題行動が多くて、宰相閣下から超嫌われてるの」
「へぇ~。実際のところはわがままな王子様と可哀想な宰相閣下なのか」
「うーん……宰相閣下が可哀想はどうかな。どっちもどっちな気がするけど」
「で、そのユージェフは転職コーディネーターだっけ? お前ら任務失敗しちゃったから転職できないな。残念」
ラセルは爽やかな笑顔で二人に話を振る。すかさず、キースは警戒の声をあげた。
「転職どころか死刑だけどね、死刑! まさかラセル、その二人をガチで逃がすつもりじゃないよね?」
案外ラセルはそういうことをしそうだ。
「うん、人攫いと違って初犯のようだし、情報だけいただければいいからな。剣に毒塗ったところで俺の敵じゃねーし。それに、ローガンって言ったっけ? お前らの元主君。酷いヤツだなぁ」
どうやら記憶の中の、元主君への憎しみまで共感してしまったようだ。
「ローガンの酷さに面じて許そう。同じ王子として申し訳ないからな」
「ローガンとお前全然関係ないじゃん! なんでそこで情けをかけるのか意味わかんないんですけど!」
「俺はそんな酷いことはしないけどな。基本優しい王子で、臣下はみんな俺のことが大好きなんだ」
「俺は自分勝手で常識を知らないお前が大っ嫌いだよ!」
キースが珍しく大激怒しているけど、ラセルは無視を決め込んでいる。
剣士と魔術師は神を崇めるような目でラセルを見上げている。
「そうだなぁ……シューカリウム王国って知ってるか? ここから北に少しあがったところにある中堅国家だけど。そこでそろそろ王族軍の傭兵部隊として騎士と魔術師の募集をする。何年間か実績を積めば、国籍も取れるし、正規兵に昇格も可能だ。紹介状書いてやろうか?」
「「「「えぇぇぇぇぇっ!?」」」」
剣士と魔術師以外の私とビスまで含めて驚愕の声をあげてしまう。どんだけ甘いのこの人!
キースはダンッ! と机を叩いて、そのまま乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。彼の怒りのほどがわかるというもの。
「殿下、ちょっとやりすぎではないでしょうか」
ビスまで苦言を呈す。
「殿下のなさっていることは秩序を乱す行為ですよ。人違いならまだしも、彼らは殿下と認識して、明確な殺意を持って挑んできたんですよ。死刑が相当です」
「こいつらのしたことは悪いことだよ。騙されたとは言え、金もらって殺しを請け負うなんて。だけど、それって命取られるようなレベルの話? 罪を償ってやり直すこともできないのか?」
「命取られるレベルの話です! やり直す必要ないです! だ、大体、たまたま特異体質の殿下だから死ななかっただけです。普通の人なら死んでます。取り返しのつかないことしといてやり直すなんて、許せません!」
ビスは激怒するけれど、ラセルは譲らない。
「でも、結果的に誰も死んでないじゃんか。それに、俺は、俺のせいで死ぬ人がいるのは嫌なの。例えばカナに刃向けたとかなら俺が殺しちゃうけど」
「なんで私が出てくんのよ!」
すかさず反論してみるけど、なんだかこう……照れるなってそんな場合じゃないけど。
「それにさ、人って生まれてくる国選べないだろ。こいつらはたまたまナルメキアに生まれて、当然のようにナルメキアに仕えて、仕えた先の主君があり得ないクズだったって話じゃんか。ビスはたまたまキャッツランドで生まれて、仕えたのがたまたま優しい俺でラッキーだったということだよ」
天才、が優しい、に変わっただけで結局は自画自賛は変わらないラセル殿下。
「「このご恩は忘れません!! ラセル殿下ほど素晴らしい王子様はいません! 私達はシューカリウム王国に行ってもそれを言い続けます!」」
結局、甘々なラセルが転職コーディネーターをしてあげて、二人はラセルを神のように崇めながら去って行った。
こんなんでいいのだろうか。
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