王子様の疑惑 ラセルside
いきなり変な疑惑をかけられて、せっかくカナといい感じになったのに! とラセルの怒りはヒートアップしてきた。
「大体証拠はあるのか!? そのユージェフってヤツがうそついてるかもしれねーじゃんか!」
「お前こそ、童貞の証拠はあるのか!? その顔で童貞はウソくせーぞ!」
――童貞の証拠ってなんだ? それってどうやって証明するんだ?
その場で思案していると、突然味方が現れた。
「はい、俺証言します! その人は完全なる童貞です! 6歳から知ってる俺が言うんだから間違いないです!」
両脇に女性を連れてモテモテのキースがほくほくした表情で現れた。
「私も証言します。童貞……かはわかりませんが、その方はとても優しい人です。喧嘩っ早いところはありますが、嫌がる人に無理やりなんてことは絶対にしません」
レイナと手を組んだビスも現れる。
「私も証言します! そんな顔してますが、殿下は一途で純粋な人なんです!」
レイナも力いっぱい証言をしてくれた。
「私も証言します。この人は一晩中一緒に寝てても、熟睡してるだけで何もしてこない人です!」
カナまで証言してくれる。それは猫だからなのだが。
証言者が一気に現れて、男の方が分が悪くなる。だが、男も負けていない。
「大体そいつら、このクソ王子の取り巻きじゃないか! 本当はヤりまくってるのに童貞ってウソをついているんだ!」
剣を思いっきり振りかぶってくる。そんなに大した腕じゃないな、と思った途端、目の前が眩しく光った。
――魔法の援護!?
ギリギリでかわしたけれど、二手目、三手目とかなりきわどく攻めてくる。剣戟の音が激しく鳴り、人々が悲鳴をあげて逃げていく。狭い道だから大パニックだ。
魔法の防御をかける間もなく、風魔法で足を掬われる。
「殿下!?」
ビスも参戦するが、上段で振りかぶってきた剣でかすかに肩を斬られ、斬られた瞬間匂いでわかった。
――これが狙いか。猛毒塗ってる。似たようなことがあったな。
「お前、結構卑怯だな!」
足で蹴り上げて、男が体勢を崩したところで思いっきり剣を払った。
剣が上空高くまで跳ね上がる。
飛行魔術と同時に、援護している魔術師から邪魔をされないように結界を張った。上空で剣をキャッチし、下を見下ろす。
――いた。黒いフードの男。右横の一番奥の角にいる。
思考をそのまま魔術でキースへ送った。キースがその男の元へ走るのがわかる。
ふわっと風の力で降りて、ビスに後ろ手に縛られた男から鞘を奪った。
「結構強烈な毒塗ってるな。どこで手に入れた?」
普通に喋ってはいるものの、心臓がバクバクと激しく音を立てている。これは3日くらい寝込みそうだ。
「な、なんでお前、猛毒塗りたくった剣で斬られても普通なんだよ?」
「それはな、俺がキャッツランド王族の血を引いてるからだ! 先祖が100年生きた猫だからな! 生命力が桁外れに強いんだ」
ドヤっと語ってやったが、さすがに緊張が切れてへたりこむ。
「ラセル! 大丈夫か!?」
キースが慌ててラセルに肩を貸し、レイナがヒールをくれた。
「ラセル……」
カナが涙目だ。大きな瞳に涙をためてくれている。心配されているのかと、じんわりと嬉しさが込み上げる。
「ごめん……ッ……さっき、ああいってくれたけど、ヒールできないの……くやしい……私がパーフェクトヒールできたら……」
カナが泣き出してしまった。
ラセルはカナの涙を見て、さきほどの男達への怒りが爆発する。
「てめぇ、ツラ貸せよ。公邸へ連れて行け」
次々に現れた騎士団達に囲まれて、男二人を公邸へ連れ帰った。
◇◆◇
「取り調べは俺が元気になってからだなー。くっそー。舐めたデマ流しやがって!」
ぐっだぐだでベッドに横たわったラセルは悪態をつきまくる。
「やっぱりさ、こないだのごろつきと同じじゃない? よくわかんないけど、ラセルは恨みを買ってるんだ。けど、デマ流した人物は、そんなにラセルと親しくないヤツじゃない? 親しければ童貞だってすぐわかるのに」
キースは深刻そうに、しかし最後はへらへらと笑いながら言う。
「ごめん、私が聖女だったらこんなことにならなかったのに」
カナはまだ泣いて落ち込んでいる。そんなカナをレイナが慰めた。
「私のヒールでなんとなってるから大丈夫ですよ! それにこの程度で殿下が死ぬことはないですし」
「しかし私が傍にいながらなんという失態だ。殿下、カナ様、申し訳ありません」
ビスも謝ってくる。確かに警護対象が怪我を負ったのだから、騎士団長として責任を感じるのは当然だ。
「でも今回は俺がやられて良かったと思うよ。ビスだったら死んでる」
ビスもキャッツランド貴族だから、薄く100年生きた猫の血は混じっている。ただし薄いから猛毒をくらって生きながらえるとは考えにくい。
「もう今回のことはコレでいいから、解散ね。あ、でもカナ……」
この機会をちょっと利用してみよう。カナも相手が病人だと少しはほだされてくれるだろう。
「ヒールなんてしなくていいから手を握っててくれない?」
◇◆◇
別に嫁にしたいからってカナに魔力が戻らなくていい、とまでは思わない。カナがやりたいようにやるのが一番だからだ。しかし、魔力がないと無価値だと思うのは違う。
「こうして手を握ってもらえると、ヒールでは満たされない気持ちになるな」
「そ、そう?」
カナは俯いて、だんだんと頬を染めていく。もしかしたら少しは意識してもらえているのだろうか。
「金のある貴族の家じゃ、風邪ひくとすぐヒールしてくれる魔術師呼ぶんだ。キースの家もそう。だからあっという間に治って味気ないんだよ。だけど、平民の家は、両親が
昔の思い出を少し語った。ラセルの通っていた学校は、平民といっても首都の富裕層が通う学校だ。ご令息まではいかずとも、それなりのボンボン達が集まっていた。経済的には貴族とそこまでの差はなかったが、なんといっても魔法が身近か、そうじゃないかの違いはあった。
なんでも魔法で解決してしまう貴族の生活がもの足りなかったのは確かだ。
「ラセル……あの、私」
なにかを言いかけて、しかしカナは一瞬考えてやめたようだ。
「なにか言いかけた?」
「な……なんでもない!」
そんな時、枕元の一日の時間を示す、魔道具を使っ た時計がほわーんと音を立てた。
日付が変わった。
その瞬間、カナの周りにいつもの賑やかでうるさい精霊達が集まってきた。
『カナ、ごめんね。昨日は新月だから来れなかった』
『今日からまた新月までは魔法使えるよ!』
『あれ? 王子様具合悪いの?』
――なるほど。新月か。月の加護を受けた聖女は新月には魔法ができなくなるのか!
ラセルは少し、ほんの少し落胆した。聖女じゃなかったら良かったとほんの少し、本音で思っていたからだ。
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