男の敵・ルナキシアを討て! サイランside
「以前、俺はお前に相応しくないからやめとけって言ったけど……」
クソガキはカッコつけて、聖女の肩にそっと手を置いた。これはお約束のシーンというやつであろう。
――ほんとだよ、相応しくねーよ、ぜーったいやめとけ!!
サイランは心の中で野次を飛ばす。
「必ずお前に相応しい男になる。そんなに出世はしないと思うんだけど、絶対にお前を裏切らないし、幸せにする。だから妻になってほしい」
――うっぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!
サイラン・アークレイは、傍に置いてあったクッションやら枕やらを一斉に壁へ投げつけた。
クソガキのキスシーンなんて見たくないので、使役鳥にはもうよいと指示を送る。
順当に行けばフランツの勝ち、もしくは相討ちであったはずなのに、聖女の愛の力とやらで逆転させられてしまった。
予想外だったのが、フランツはギリギリまでクソガキを殺すことを躊躇していた。クソガキと面識があるものを暗殺者とするのは、もしやNGだったのではないかいう気もしてくる。なんといっても「典型的ないいヤツ」キャラの男なのだ。
――次はいよいよ、俺の出番か。
サイランはクソガキを抹殺することに一切の躊躇はない。むしろレベルの高い魔術師であるクソガキとの対決に、興奮さえ覚える。
しかしフランツを生け捕りにされたのは痛い。
改めてクソガキのプロフィールを確認すると、ヤツは人の記憶を盗んだり、記憶や思念を共有する技術に優れている。どちらかと言うと、王子よりも諜報員向きのスキルだ。
そんなクソガキに生け捕りにされたのだから、フランツがサイランの指示で動いたことも当然知られることだろう。
クソガキがサイランをどのくらい認識しているのかは謎だが、アカデミーでは一学年しか違わない。顔は知らなくても名前くらいは知っているだろう。なんといってもサイランは天才なのだ。
そしてヤツには援軍もいる。
ルナキシア・ナタン・カグヤ――カグヤ国の王太子であり、クソガキの従兄でもある。
そして、アカデミーではサイランの一つ上の先輩でもある。
クソガキは本国のキャッツランドでは冷遇待遇の王子だが、親戚の国であるカグヤでは違う。カグヤ王太子のルナキシアはクソガキをどういうわけか溺愛しているのだ。クソガキを殺せば当然怒り狂うであろう。
そして、ルナキシアはなんといっても王太子だ。カグヤの魔術師達を手足のように操ることもできる。サイランの情報を掻き集めることも可能だ。
そしてルナキシアは魔術師としてのレベルも優れている。クソガキとのタイマンでは勝つ自信が大いにあるものの、そこにルナキシアも加わるとかなり厳しい戦いになる。
そして、大っぴらにナルメキアの人間を引っ張り出せば、バレた時のリスクが高い。
相手は王太子だ。カグヤとの戦争はルーカスの望むところでは――いや、そうでもない。
聖女が手に入れば、聖戦と名付けてカグヤ程度の国を攻め滅ぼすことも簡単だ。
聖女には大いなる力がある、あの女がどこまで覚醒しているのかは謎だが、過去の文献では味方の士気や魔道具の威力を大幅に引き上げる力も確認されている。
そして、サイランの奥の手もある。すべて使えばカグヤのすべてが手に入る。カグヤの同盟国が黙っていないだろうというところが懸念としてはあるが……。
再度ルーカスの指示を仰ごう。
◇◆◇
「え? ルナキシア?」
珍しく酒に酔っていない第二王子ルーカス・ノア・ナルメキアは、ルナキシアの名前を聞いたとたん不機嫌になった。
「俺、あいつ嫌いだな。むしろクソガキより嫌い」
それはそうだろう。クソガキは単なる第七王子でいわば雑魚。ルナキシアは御令嬢人気ナンバーワンの輝かしい王位継承者なのだから。
ナルメキアで開催される舞踏会には、各国の王族貴族もゲストとして招かれる。ルナキシアも何回も参加し、ナルメキアご令嬢達の熱い視線を釘づけにした。
その関係で、ナルメキアの男性貴族はルナキシアが嫌いだ。要は男の嫉妬心というやつだろうとサイランはほくそ笑む。
「ルナキシアを殺せばカグヤと戦争になりますがどうします?」
賢明な王子であればそこで留まる。しかしながらルーカスはそうではない。
「兄上になすりつけちゃえばいいや。手先のものは第一騎士団、第一師団のものを使え。そうすれば兄の指示ということになる。兄上がカグヤに戦争をしかけたのだ。兄上には動機もある」
「どんな動機でしょう?」
どうせ下らない動機をあげてくるんだろうが一応聞いておく。
「兄上はルナキシアを憎んでいる。兄上の元婚約者のレイチェル嬢はルナキシアの大ファンだ。ブロマイドを集めて推し活真っ最中だ。それが兄上はどうにも許せなかったんだ! これは兄・王太子であるサイフォン・ジェイル・ナルメキアの指示だ。兄上の指示により、男の敵・憎きルナキシア・ナタン・カグヤを討つのだ!」
――うわー、くっだらねぇぇぇぇぇぇ。
そんな動機で戦争まで仕掛けるはずがないのだが、とりあえずは第一騎士団、第一師団で付け入れそうなものを探すことにした。
腕のほうは、サイランが独自で開発したポーションでなんとかしよう。
そしてサイラン自ら敵地に乗り込む。今度こそクソガキの息の根を止め、男の敵のルナキシアを討ち、聖女を奪還するのだ。
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