死亡フラグ!~からの

「カナ!? なんでそこにいるんだよ!?」


 ずっとフランツとの戦闘に集中していたのか、私の存在に全く気付かなかったようだ。


「いてよかったでしょ? 闇に呑まれたらもう会えなくなるじゃないの! バカッ!」


 私は泣いてるのか笑ってるのかわからない感情でラセルに怒鳴った。


 ラセルは剣を構えながら笑って言った。


「この戦いが終わったら話がある」


「それは死亡フラグだからやめなよ」


 でも、私はラセルの勝利をなぜか確信してしまった。だって、立ち昇るオーラがさっきと違うから。


 それはフランツも感じたようだった。


「殿下、その剣はずるくないですか? さっきと全然違うじゃないですか」


「別に剣のせいじゃない。俺の実力だ」


 ラセルは高く踏み込んで、上段から思いっきりフランツに振りかぶる。フランツは押されて後ろに下がり、ラセルの猛攻に防戦一方になっている。


 フランツが体勢を崩したところで、ラセルの一閃がフランツの服を斬り裂いた。


「ぐ……っ」


 フランツは蹲り、手で腹部を抑えた。腹部から鮮血が零れる。


「勝負あり。急所は外してるからな。お前は殺さない」


 ラセルは手に蒼い魔力を集める。そしてフランツの腹部にかざした。


 私はラセルに駆け寄った。


「ヒールしたの?」


「まさか。ちょっとした止血だよ」


 そのまま手から魔法の縄を出して、くるくると縛る。傷口は避けて縛るところがラセルだなぁと思う。


「剣助かったよ。ありがとう」


 私に剣が手渡されると、すぐに杖に戻った。

 

 ラセルが優しく私の髪を撫で、頬に触れた。見上げると、ラセルは少し泣きそうな顔で微笑んでいる。


「ほんとに助かった。でもさっきの聞かれちゃったな」


「さっき?」


「聞いてないならいいよ」


「ウソ。全部聞こえてた」


 私も泣きながら笑った。生きててほんとうに良かった。ずっとラセルと一緒にいたい。心からそう思える。


 その気持ちはラセルに十分に伝わったみたい。


「以前、俺はお前に相応しくないからやめとけって言ったけど……」


 ラセルはそっと私の肩に手を置いた。優しい、そして強い眼差しに魅入られる。


「必ずお前に相応しい男になる。そんなに出世はしないと思うんだけど、絶対にお前を裏切らないし、幸せにする。だから妻になってほしい」


 抱き寄せられて、そのまま瞳を閉じた。元の世界にいた時も含めて、初めてのキスをした。




 ◇◆◇




「なんで俺がこの人と同じ馬なの?」


 昨日の私と同じセリフをキースがぼやいた。キースは縛られたフランツと一緒に馬で移動するハメになったからだ。


「そりゃ、お前がこのメンバーの中で一番乗馬が下手だからだよ。傷口に響くだろ? 俺に刃を向けたことを後悔するんだな」


 最後のセリフはフランツに向けたもの。フランツはずっと放心したままだった。


「殿下、あの時急所を狙って斬ってくれればよかったのに」


「お前には黒幕まで吐いてもらわなきゃいけないからな。騎士団長に袖の下を渡して、お前の身柄はうちで引き取ることになった」


 本来であれば、フランツは騎士団長達に引き渡さなければいけない。ここはダビステアで、ダビステアでの犯罪はダビステアで裁かれるべきだからだ。


 そして、ダビステアの規律に従えば死罪を言い渡される。ダビステアの友好国であるキャッツランドの王族に対して剣を向けたわけだから。


「あの人を助けるの?」


 騎乗でラセルを振り返って尋ねると、後ろからギュッと抱きしめられた。


「なんか、本当はやりたくないことやらされてるって感じだった。そのへんをちゃんと聞かないと」


「また記憶を読むの?」


「そういうこと。もしかすると、剣に毒塗ってた連中と黒幕は一緒かもな」


「そうかも。ラセルのことそこまで憎む人、そんなに多くなさそうだし。私狙いだって思えば、少しはあなたの弱いメンタルも楽になる?」


 くすくすと笑っているとラセルもくすぐったそうに笑った。


「睨んでるのもいいけど、やっぱ笑うとめっちゃ可愛いな、お前」


「……へ?」


 そういえば、この世界にきてからレイナ以外に笑ってない気がする。なんかもったいないことをしたかもしれない。笑うとこんなに楽しい気持ちになるのに。


 相変わらずフランツは苦々しい表情だ。結局まだヒールしてあげていない。暴れられると困るから。簡単な止血のみで済ませてしまっている。


「死ぬ前に、殿下のプロポーズのセリフを臣下の皆さまに聞かせて差し上げたいですね」


 あ、、そういえばフランツもそこにいたんだっけ。


「えっ! なんて言ったの? 教えてよ」


 キースがさっそく食いついてきた。


「……フランツ、言ったら殺すよりつらい拷問してやるからな。攻撃魔法には当らない、じわじわと攻める魔法はいくらでもあるんだ」


 ラセルがフランツに睨みを利かせて、軽快に馬を走らせた。山道も抜けて、海に差しかかる。キラキラした海面が綺麗で、たくさんのカモメが飛んでいる。


「うわぁ……めっちゃ綺麗だね!」


 ラセルに話しかけると、隣から騎士団長が馬を寄せてきた。


「な……なんか殿下と聖女様、何かありました? 昨日と全然雰囲気違くないですか?」


 イケメン騎士団長が私たちに漂う空気を感じて目を丸くしている。


「実は俺、昨日この聖女にプロポーズしたんだ」


 ウキウキしてラセルが騎士団長に報告した。ちょっと私は顔が熱い。


「……断ったら泣いちゃいそうだから、仕方なくオッケーしたんですよ」


 私もちょっとウキウキでそう返す。騎士団長が大げさに驚き、そして笑顔で祝福してくれた。


「おめでとうございます! あのフランツってやつの件、上には言わないでおきますよ。あ、お祝いにさっきもらった袖の下、返しますね」


 ちゃっかりと袖の下も返ってきた。


 私は私の肩にかかったラセルの黒髪をそっと手に取ってみた。実はずっと触ってみたいなと思ってたんだ。このつやつやの黒髪。


「すごい綺麗。この髪も、もう私のものなのよね?」


「俺の全部、カナのものだよ」


 今なら最高な気分でできそうな気がする。騎士団長に呼び掛けた。


「じゃあこれからダビステアの浄化と結界強化しますね! エリアホーリーブラスト! からのルナホプリゾーンバリア!」


 結界が虹色に輝いてみえた。前回よりも要領よくできたし、後ろからラセルが魔力を注いでくれたのがわかる。


 かなり強い魔力を使ってしまったのか、髪がいつもとおり銀に変わる。最高の結界ができあがった。


「カナの髪、いつもの色もいいけど、この髪色も最高だよな」


 ラセルがさっき私がしたように髪を一束掬って愛おしそうに撫でた。


「気の毒ですね、キャッツランドの皆さんは。ずっとあのイチャイチャを見せつけられるんですか?」


 フランツは少し悲しそうな笑顔で呟いた。


「でも……これで良かった気がします。既に借金はチャラになって、妹が困ることはなくなった。そして、殿下を斬らずに済んだのですから」

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