語尾にニャをつけるツインテールな記憶 ラセルside


「……」

「…………」

「……………………は?」


 最後の「は?」はキースの台詞だ。


 ラセルにも、ルナキシアの言葉の意味が全くわからない。


「なにそれ? そんな記憶は一切ないし、俺は14の誕生日の時に『貴殿から王位継承権を剥奪します』って書類を国から受け取ってるんだけど?」


 キャッツランドの王子は、14の誕生日を迎えるまでは王位継承権が暫定的に存在し、14の誕生日に「王位継承権剥奪のお知らせ」を受け取って、王位継承権を失う。


 ラセルもカグヤにいた時に、その書類を受け取って保管している。


 ラセルはアイテムボックスからそれを取り出し、ルナキシアに渡した。


「よく見てみろ。『国王任命のお知らせ』に変わってる」


 ルナキシアは書類をラセルに返した。


――勝手に書類が変化するってあるのか!?


 確かに「貴殿から王位継承権を剥奪しましたが、本日をもって王位継承権剥奪を撤回し、貴殿を第61代国王として任命します」に変化している。


『その書類ねぇ……人間が作ってるんじゃないの。テトネス様がお作りになってるのよ』


「へ……へぇ~。けど、なんでキャッツランド王国の王子である俺より、ルナキシア殿下と聖女様がそこまで詳しいんだよ? 国家機密のはずなんだけど」


「今朝、俺の兄貴から手紙がきて、第十王子が14の誕生日を迎えたのに、王位継承者と認められなかったと書いてあったんですよ。改めて再審査という話なのに、キャッツランドの公爵よりもカグヤ王太子の方が王位継承権の話に詳しいって、どういうことですか?」


 キースもルナキシアに疑念をぶつけた。


「仕方ないじゃないか。たまたまそこに居合わせちゃったんだから。恐らく、ラセルが国王に任命されることは、前国王陛下もご存じのことだと思うよ。だから、ヒモになりたい手紙は、ずっと無視されていたんじゃないかな。答えようがないからね」


――前国王陛下……。


 撤回のお知らせには本日付けで「任命します」と記載されている。つまり今の国王はラセル自身ということだ。


「なぜそんなことになったかと言えば、8年前に遡る。8年前、ラセルの魔力が目覚めた。その魔力は強力かつ暴力的で、王宮を破壊しそうになってね。私は慌ててこの神殿にラセルを運んできた。あいにく父も母も不在で、私の判断でここに連れてきたんだ」


 ラセルが12歳ということは、ルナキシアは14歳。どんな出来事があったのか、ラセルの記憶が徐々に蘇ってきた。


○●○


 あの時は、中庭でルナキシアと共に満月を眺めていた。魔力が生まれますように、という願いを込めて手を合わせた。


「月が綺麗だなぁ。早く殿下みたいにカッコいい魔法が撃てるようになりたい。殿下よりも強くなりたい」


 泣きだしたラセルに、ルナキシアも「絶対に強くなれるから心配しなくていい」と、頭をポンポンしながら言ってくれた。


 その時、ラセルの身体の中心から、月の引力に引っ張られるように、強力な魔力が吹き荒れた。制御できない魔力は暴走し、結界に守られているはずの王宮のところどころを破壊した。


 ルナキシアは血を媒介とした結界を作り、ラセルを封じ込める。


 ルナキシアはなんとかラセルを神殿へと運びこみ、聖女を呼んだ。ルナキシアは「どうか助けてほしい」と願った。


 毎年、魔力の目覚めと共に死亡する子供が、数件報告されている。強い魔力に幼い身体が付いていかないのだ。


 ラセルは12歳という異例ともいえる年齢で目覚めたのだが、それでも制御不可能なくらいの魔力量で、このままでは王宮が破壊され、暴走した魔力によってラセル自身の命も危うい。


「このままでは私の従弟が死んでしまいます。どうか助けて」


 真摯に願うルナキシアに、聖女の魂が乗り移る。ルナキシアの手からシルバーピンクの結界が上書きされ、魔力が周囲に飛び散ることはなくなった。


 しかし、魔力の暴走は、ラセルの身体に多大なダメージを与えていく。


 パーフェクトヒールをかけて、なんとかラセルを回復させようと試みる。その時、ラセルの左の手の甲に、蒼く光る刻印が浮かび上がってきた。


 そして目の前に、美しい女の子が現れた。


 シルバーの髪をツインテールで結び、頭には猫耳が生えている。


『私はキャッツランドの女神・テトネスニャ。そなたを王太子に任命……ってなにごとニャ?』


 テトネスがその場にいたルナキシアと聖女に確認し、先ほど初めて魔力が目覚めたことを知る。


『たった今!? タイミングが悪かったニャ。そういえば、この子は魔力が生まれるのが遅かったニャ。困ったニャ。この子だと思ったのに……』


○●○


「なんで、語尾にニャつけてたんだっけ?」


「元は猫だからじゃないのか? ほら、もっと先を思い出して」


 余計なことで回想を中断させるラセルを、ルナキシアは呆れながら促した。

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