ラセルに起きる身体の異変 ラセルside
「ラセル、起きてる?」
ドンドンとドアを叩く音が、頭に響く。
「今起きたよ」
ラセルが頭を押さえながら起き上がると、キースが部屋に入ってくる。
「あれ? 起きるの遅いね。国元の兄貴から手紙がきて……どうした?」
いつもと様子の違うラセルの様子に、キースも話を止めた。
「なんか身体が変」
キースがラセルのおでこに手を添えて、「うわ」とすぐに手を離した。
「熱あるよ。大丈夫? カナを呼んでくるよ」
はぁ、と頭を押さえる。頭痛も酷い。そしてなぜか、左手の甲に激痛があるのだ。
しばらくすると、カナが走り寄ってきた。
「ラセル、大丈夫?」
「大丈夫だって。風邪引いただけだから」
カナはヒール、そしてパーフェクトヒールを放った。しかし、魔術はラセルの身体を素通りした。
「効かない……なんで? これまでそんなことなかったのに」
キースがハッとした表情を浮かべる。
「ね、ねぇ……前にもこんなことなかった? ラセルが高熱出して……」
そんな時、ドアがノックされた。
「ああ、みんな揃っていて良かったよ」
ルナキシアが部屋へ入ってくる。
「ルナキシア殿下、ラセルに治癒が効かないんです……」
カナが涙目で訴えるも、ルナキシアは必殺技の頭ぽんぽんを繰り出した。
「大丈夫だよ、それは君のせいじゃない」
ルナキシアはラセルに向かってヒールを放つが、カナの時と同様に魔術は身体を通り抜けてしまう。
「キース、前にもこういうことがあったの覚えてない?」
ルナキシアはキースに話を振った。
「……さっき、思い出しました。あったような気がします」
「君達がカグヤで暮らして、ラセルが10日ほど寝込んだ時……誰のヒールも効かなかったんだ」
今からは想像もつかないが、ラセルは12歳で魔力が発動してから留学する少し前までの期間、体調が不安定な状態が続いていた。
生死を彷徨うほどの高熱が、10日続いた時もあった。
「……誰のヒールも効かなかったのに、どうやって治ったんだっけ?」
ラセルはその時の記憶を辿るけれど、気がついたら治っていて、そこからは風邪ひとつ引かない丈夫な身体になった。
「ラセルもキースも、あの時のことを忘れてるよね。それもあわせて、今夜話しておきたいことがあるんだ。カナと三人で神殿にきてほしい」
キースがそこに割って入った。
「あの、ラセルは抜いてもらえませんか? この状態で神殿まで行くのムリですよ」
「大丈夫だよ。それは今夜治るから。できれば、安全な神殿で迎えたいんだ。悪いけどキース、ラセルが歩けないようなら君が背負って連れてきてほしい」
「どうしてルナキシア殿下は今夜治るってわかるんですか?」
カナが疑問の声をあげるが、ルナキシアは難しい顔をしたまま真相を語ってはくれなかった。
「それはその時になればわかる。ラセルとキースの人生にも関わる話なんだ。二人にきてほしい」
◇◆◇
結局その日、ラセルはベッドから起き上がれなかった。
カナはラセルのために氷枕を作ってくれた。深い愛に感動するばかりである。
「たまには熱出すのもいいな。カナが優しい」
高熱でふわふわした意識の中で幸せを噛みしめていると、キースが苦々しい顔で呼びにきた。
「約束の時間だよ。まったく! なんで病人まで問答無用に呼び出すのか意味不明なんですけど」
ベッドから起き上がると目眩が酷かったため、結局、キースが背負って運ぶことになってしまった。
「お、重い……。頼むから猫になってくれない?」
「ごめん、猫になる余裕もないんだ。くらくらする……これも筋トレの一環だと思ってがんばってくれ」
「……しょうがないなぁ。けど、ラセル本当にきつそうだね。そもそもなんで、ラセルも含めて呼び出すんだろ。ほんと意味わからないよね」
今回のルナキシアの行動は謎だらけだ。普段であれば、高熱でふらふらと出歩く方を咎めるはずなのに、なぜあえてラセルも含めて呼び出すのか。
「なんだろうな。俺らの将来がどうこう言ってたけど。カグヤに移住する話かな」
「うーん……けど、その話はシリル殿下が強硬に反対しているでしょ? あの人が王位継承者なのは、ほぼ確定だよ。そしたらカグヤとキャッツランドの王様同士でラセルを争うってこと?」
「おばちゃんと弟で取り合いされてもなぁ……。けど、俺的にはカグヤに住みたいんだよな。カレーうまいし」
「カレーはいいとして、兄貴から手紙がきてさ。コリン殿下が14歳の誕生日を迎えたけど、王位継承者だと認められなかったんだって。改めてまだ王属籍にいる王子から再審査って噂で持ち切りみたい」
「そっかー。いよいよシリル王太子の誕生ってことかぁ」
「でも、国王の補佐は誰やんの? クズオブクズは論外だし」
「さぁ……下の弟でいいじゃん。それより、キースはどうする? 俺らと八百屋やる?」
そんな話をしていると、神殿が見えてきた。今宵は満月――カグヤとキャッツランドにとって最も神聖な日。
神殿に入ると、ルナキシアと聖女ルナマリアが向かい合わせて座っている。
「わざわざきてもらって、悪かった。地面で申し訳ないが座ってくれ」
ラセルとキースは胡坐で座り、カナもその隣に座った。
「一体なんなんですか? 今朝も言いましたけど、ラセルは熱があって、ここまでくるのしんどかったんですよ」
「本当にごめん、ラセル。つらいだろうが、少しだけ我慢してくれ」
ラセルは「わかった」と答えておいた。
そこでルナマリアが口を開いた。
『今日はね、テトネス様とのお約束の日なの。ラセル殿下の身体の中で、テトネス様を受け入れられるように少しずつ変化していってる感じなのよね』
テトネス様――キャッツランド人なら誰もが知っている信仰の対象。
月の力によって人に変化した猫。初代国王の王妃であり、女神と崇められる人物。
「私は8年前と6年前に起きたことを思い出したんだ。今朝、二人は忘れてるよね? って聞いた、あの時のことだよ」
ルナキシアはラセルとキースに再度話を振るが、二人ともぽかんとしたまま思い出せなかった。
「ラセルは過去に二回、テトネス様から王太子の任命を受けているんだ。二回とも失敗に終わってしまったんだが、今日改めてテトネス様がラセルに会いにくる。今度は王太子ではなく、国王として任命するために」
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