ラセル 騎士団長になる ラセルside

「ふっふっふっ、実は一度着てみたかったんだよな、コレ」


 ラセルは騎士団長の制服を着用し、鏡の前でご満悦の表情だ。


 王太子殿下と聖女のデートは、カグヤの隠密騎士とキャッツランドの第七騎士団で警護することになっている。


 ルナキシアは騎士団員だけで来るようにと伝えてきた。それに、女王陛下もラセルは王宮から出るな! と仰せである。


 そのため、こうして騎士団長に化けることにしたのだ。


 キャッツランドでは、国王、王弟の警護を担当する近衛騎士団とは別に、王子ごとに専用の騎士団が作られる。


 第五王子の護衛騎士団なら、第五騎士団、第八王子の護衛騎士団なら、第八騎士団、という呼び方をされている。


 ちなみに、王子が王族籍を離れると騎士団は解散するので、第一騎士団から第四騎士団までは既に存在しない。


 騎士団員の制服は、護衛する王子の猫変化時の毛色や模様で色やデザインを決めている。


 第七騎士団は黒猫王子の護衛なので、黒を基調としたスタイリッシュなデザインだ。キャッツランドの制服の中で、最もカッコいいと評判だ。


 騎士団長は一人国旗をイメージした腕章を身につけているため、少しだけ目立つ。騎士団長は、ラセルがやってみたい職業ナンバーワンなのだ。


「ビスのやつ、毎日これ着れて羨ましいよなぁ。王子の正装なんかより、絶対俺にはこっちが似合うんだけど」


 鏡の前で浮かれているラセルを、キースが白い目で見つめている。


「団長、そんなに浮かれるなよ。次はいよいよパイセン登場かもしれないからね。気をつけて」


「んなことはわかってるよ。だから最強騎士である、ラセル・ブレイヴ・キャッツランドが団長を務めることになったんだ。アークレイ先輩が来ても負ける気がしない」


「はいはい。ラセルってほんと、ナルシストなんだかウジウジしてんのかわかんないよね。どっちかにしてくれって感じ」


 自分を最強だと思っていないと力が出せないではないか、とラセルは思うのだが、そういう発言をするとキースやカナは嫌そうな顔をする。


 ラセルは、騎士団員達が待機している王宮出口へと向かった。


「今日は俺が騎士団長だ! みんな殿下とは呼ばず団長と呼ぶように!」


 威厳を込めてそう言うと、ラセルの信奉者である騎士団員達から羨望の眼差しが寄せられる。


「でん……団長! 団長その服超似合う! マジでかっけー」


「そうだろそうだろ。ビス、そんな嫉妬の眼差しで見るな。俺だって好きでカッコいいわけじゃないんだからな」


 苦々しい表情のビスは、今日だけ副団長に降格だ。



 そして、庶民風ファッションに身を包んだ王太子殿下とカナが歩いてくる。ラセルは騎士団長として敬礼をした。


 ルナキシアは、ラセル団長を鋭く睨んでくる。


「わかってるとは思うけど、邪魔することは許さないからね」


「心得ております」


――邪魔する気まんまんだけどな。


 ラセルはカナが騎士団長姿の自分を見て、一瞬目を輝かせたのを見逃さなかった。自分でも見惚れるくらいなのだから、カナも見惚れて当然だと思う。


 街の中心部まで、ルナキシア達は馬車で移動する。ラセル達は騎馬で馬車の前後を挟んだ形で進む。


――街に出たらしかけてきそうだな。


 昨晩のうちから、隠密騎士達とは念入りに打ち合わせを済ませておいた。彼らは庶民に化けて、街中で待機している。


 街の中心部まで着くと馬車を止め、ラセル達も馬を預ける。ここからは徒歩だ。少し距離を置いて、ぞろぞろと王太子の後ろを付いて歩く。


 騎士団のスタイリッシュな制服は、街の人々の視線を釘付けにした。


 なにあの人達カッコいい~、先頭の腕章つけてる人イケメンだね、なんて声もちらほら耳に入る。


 ルナキシアは立ち止まり、鋭い視線で振り返った。


「キャッツランド団長」


 なかなか新鮮な呼び方をする。


「君達、目立ちすぎる! 黒だから圧迫感があるし! もっとなかったのか、お忍び風の服とか!」


「……我々はこれが制服なので」


 敵を誘き寄せるために、あえてお忍び風にはしなかったのだ。実はこのやり取りも、事前に打ち合わせ済みの茶番だ。


「君達が目立って全然お忍びになっていない。ま……まぁいい。これ以上近づくな、いいね?」


「承知しました」



 カグヤの首都・ミカヅキは、カグヤの特産物であるお月見団子や抹茶、味噌などが売られ、観光地として人気がある。


 道幅が狭いうえに人が多い。警護がしづらい街である。


 視線を感じ見上げると、頭上から赤い綺麗な小鳥がルナキシアとカナに近付く。ルナキシアに緊張が走るのがわかった。


――さすが殿下、気付いたな。


 ラセルは小鳥に追跡の魔術をかけた。


 小鳥がルナキシアとカナの頭上まで飛んだところで、鋭い風の刃が小鳥に襲いかかる。小鳥が無残に斬られた。


 遺骸はカナの目の前に落ちた。


「カナ、下がるんだ!」


 ルナキシアはとっさに結界を張った。小鳥はすぅ……と地面に消えた。


――魔術で作られた偽物の鳥か。アークレイ先輩本人か、腹心のものが近くにいる。


 追跡をかけられたと気付いたのだろう。そして、ラセルとルナキシアに対する宣戦布告だ。


 ラセルは隠密騎士団と第七騎士団に、最大級の警戒をするよう思念を送った。

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