図書室の最奥 聖なる本の秘密

 パーフェクトヒールによって回復をしたラセルを連れて、王宮の図書室の最奥の部屋へ行ってみることにする。


 しかし、服が流血でどろどろ状態だから、とりあえず着替えてもらうことにした。


「なんで稽古で血まみれなの? どういうことなのよ?」


 キースに苛立ちをぶつけ、キースもまた渋い表情だ。


「なんかガチものの殺し合いになっちゃって。二人ともすごい剣士でしょ? 対戦する度に骨折したり、死にそうになってるの。あの二人の対決は今後禁止ということで……」


 防具付けてるのに骨折とは……何のための防具なのやら。


 着替えてきたラセルが、幸せそうな笑顔で私に駆け寄ってくる。


「カナ、お待たせ!」


 そう言うと、キースの前だと言うのに思いっきりハグをしてきた。


「ちょっとぉぉぉ~」


 背中をバシバシ叩いても離してくれない。


「カナのパーフェクトヒールのおかげで体力も全回復したよ。俺は明日も明後日も稽古して強くなるからな!」


「……いや、お前とルナキシア殿下の対戦は禁止ということになったから」


 冷たいキースのツッコミにも構わず、蕩けそうな笑顔で私に甘えてくる。もう……可愛いなぁ。


 しかし、そんなラセルの機嫌を急降下させるルナキシア殿下も現れる。


「やぁ、カナ。先ほどはパーフェクトヒールをありがとう。君の愛を感じたよ」


 ラセルは私を後ろに庇ってから、ルナキシア殿下と対峙する。


「あんたへの愛じゃない。俺への愛だ。あんたはついでだよ」


「君、私が彼女を口説くのは妨害しないって言ったくせに、どうして背中に隠すのだ? 男に二言はないことを忘れたのか?」


「今は俺と彼女のターンなんだよ。邪魔すんな! 王太子はそれほどヒマじゃねぇだろ?」


 ルナキシア殿下は鼻で笑うと、図書室へと歩き出す。


「なぜか聖女様は、カナの旦那さんとしてラセルを名指しで図書室最奥の鍵を渡したようだが……旦那さんは私の可能性もある。したがって、私も最奥の図書室に入る権利がある」


 その無茶苦茶な理屈に、私もラセルもはぁ? と思ってしまう。


「あの、私の旦那さんはラセルですってば!」


「そうだ。さっき俺は、カナの決定に従えって言ったよな? 従えよ!」


 その抗議に、ルナキシア殿下はくるりと振り返った。


「最終的な決定はラセルがこの国を発つときにしてもらおう。それまでに私はカナの愛を掴む」


 随分と自信満々だ。しかし、ラセルはこの国を発つことができるんだろうか。軟禁されているというのに。


 その疑問はラセルも同様に思ったようだ。


「あんたの母上がこの国を出さないって言ってんですけど? そしたら一生出れないな。叔母上は俺より長生きしそうだしな」


 そう言うと、ルナキシア殿下はフフッと笑った。


「大丈夫だよ。母上は近いうちに折れてくれる。その時に、カナがラセルを選ぶと言うなら、カナの愛は本物だ。今の時点でのラセルへの評価は、本来のものではないからね」


 魅惑的な笑みを浮かべ、勝手に図書室へ向かって行ってしまった。



◇◆◇



 さすがは大聖女のお膝元。ルーシブルのレオン様のところよりも、聖魔法関連の本が充実している。


 何冊か本を取りぱらぱらとめくる。そして聖女の役割を確認する。


「豊穣の祈りについては、以前、ラセルに教えてもらった土魔法の応用でいけるみたい」


 豊穣の祈りについて記したページをラセルに見せる。


「けど、なんで俺はガス欠して、カナは平気だったんだろう?」


「それもここに書いてあるよ。一般的な魔術師……ラセルみたいな人は、全部土属性の力を使うんだけど、聖魔法の使い手は、土魔法と同時に聖魔法を使うんだって。聖魔法の方は魔力をそこまで使わないから、ガス欠しなかったんじゃないかな」


 恐らく、水を出した時も、温めるために火を出した時もそうなんだと思う。聖属性の方も使ってるんだ。


「祝福については、剣を作った方法でもいけるみたいだけど……でも、鍛冶職人さん達との共同作業になっちゃうから、非効率みたい。そしておまもりの方が威力高いって……」


 おまもりの作り方まで書いてある。


 鉄と魔鉱石を使って、ペンダントや、ピアス、指輪などのおまもりの素材を作る。そして作った素材に聖なる光の加護を注ぐ。


 注ぐ魔術は、聖なる光の加護の他、治癒、能力上昇も加えることができるようだ。


「すごい……! おまもり作ってみようよ!」


 ラセルに声をかけるけれど、ラセルは少し浮かない表情だ。


「なぁ……、どう思う?」


 ルナキシア殿下に話を振る。


「昔、ナルメキアに召喚聖女がいただろ? その時にナルメキアが領土を拡大していった。戦争中に聖女が治癒魔法を使ったんじゃないかって思ったけど、このおまもりがキーとなるものだったんじゃないかな」


「兵士ひとりひとりにそのおまもりを身に付けさせる。すると爆発的に強い軍隊が出来上がる。確かに軽々しく手を出すものでもないが……」


 ルナキシア殿下は魅惑的に微笑む。


「ナルメキアのテロリスト対策として、私とラセル、後は主要な騎士団長クラスにテスト的に身に付けさせるならいいんじゃないか」


 しかし、ラセルはまた浮かない顔をしている。


「けど、それじゃ……俺らが聖女の力を悪用することに繋がっていくんじゃないのか? 特にあんたは王太子だ。カナを口説いたのはこれが目的なのか?」


 ラセルは視線を鋭くさせた。ルナキシア殿下もまた真摯な表情で向き合う。


「私だって今、初めておまもりのことを知ったんだ。悪用と言っても、仕掛けてきたのはナルメキアだ。彼らを懲らしめるために使うくらいいいだろう。こちらから攻めるときに使うかどうかは、その時に決める。例え、カナが私の妻になったとしても、同盟各国からそれはやめておけって言われたら、うちのような中堅国家の判断でおまもりは使えない」


「……シリルだったらやめておけって言わなさそうだ。だから怖いんだよ。あいつもあんたと一緒で、目的のために手段は選ばないヤツだからさ」

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