お妃教育、そしてキャリアウーマンのパイオニアへ
強引な女王陛下によって、午前中は妃殿下教育と決められてしまった。
妃殿下としてのテーブルマナー、国際政治学、カグヤと同盟国の歴史、そして社交ダンスと幅広い。
先生はかつて、失踪したラセルのお母様の教育係も勤められた、キャッツランド出身の方という。いずれカグヤ女王の養子になるとはいえ、キャッツランドゆかりのラセルの妻ということで、キャッツランド出身者が選ばれたと言う。
「キャッツランドからカグヤへ、国籍変更して移住するものは多いんですのよ」
チェルシーと名乗った先生はそう話す。
「歴史を遡れば、婚姻を経なくてもカグヤ王家の養子になられたキャッツランド王子もいらっしゃいます。なので、陛下の仰ることは突拍子もないことではないんですよ」
ふふふ、と笑いながらチェルシー先生は言う。そして授業が始まる前に、なんと女王陛下が現れた。
「貴女に言っておきたいことがあるの」
そう言って、あの情熱的な瞳で私を見てくる。
「貴女のいらしたニホンという国は、男性に頼らなくても一人で道を切り開く、独立心のある強い女性が多いようね」
女王も王太子も、ラセルからの手紙で私の事情は知っている。そして独身のパイオニアの発言も、ラセルから聞いているのだろう。
「私はそういう子の方が好きよ。男性の言いなりなんて、ぞっとするもの。もっとこの世界も、そういう女性が増えればいいのに」
女王として国のトップに立つ女王陛下は、まさに独立心のある強い女性だ。そしてカグヤは女性の活用を目指す国のようだ。官吏も騎士も魔術師も、男女問わず採用している。
しかし、応募自体があまり来ないという。
この世界の貴族の女性は、適齢期がきたら婚約、結婚し、夫人として家を守るのが主流だという。
カグヤのような国は珍しいのだ。
「女王だけでなく、王弟妃、つまり貴女には先頭を切って強い女性としての生き方を示していってもらいたいわ。どんどん社交界にも出て、次世代の女性のリーダーになってほしいのよ!」
キャリアウーマンのパイオニアになれってことかぁ……。なかなか荷が重いことを言う。それに、キャッツランドの王子が国籍変更に反対してるのに、本当にラセルを息子にしてしまうのだろうか。
でも、考えてみればこの妃殿下教育は、私にとっても都合がいい。だって、このままキャッツランド王子のラセルのお妃になるにしても、令嬢としてのマナーは必須だ。
マナーがちゃんとしていないと、クズ・オブ・クズのお兄様達にバカにされかねないし。これはラセルを守ることにも繋がる。
「がんばります!!」
私もやる気満々にそう答えておいた。
まずはカグヤと、最も関係が深い同盟国、キャッツランドとの歴史を学ぶ。
カグヤはキャッツランド建国とほぼ同時に成立した国家ということだ。隣国の大国であるキャッツランド王家とは婚姻を繰り返してきた。
カグヤからも女王陛下の妹を嫁に出しているけれど、女王陛下の王配もまた、キャッツランドの国王陛下の弟王子である。両国は現在もなお、固い血で結ばれている。
両国は共に月を信仰し、満月の夜には月にこれまで無事に過ごせたお礼と、明日からも平穏な日々を過ごせるように祈りを捧げる。
それにプラスして、キャッツランドでは猫も信仰している。
なぜ、王族のみが猫になれるのか、といえば、なんと猫の女神と恋に落ち、結ばれたのが初代国王なのだという。
100年生きた猫の女神が月の力で人間になり、その女神と人間の王が共に作ったのがキャッツランド王家の始まり……というなんともおとぎ話のような物語。
その関係で猫は大切に保護され、猫を殺したら死刑、のような生類憐みの令的な法律も健在だ。
この法律は歴代国王が何度か変えようとしたのだが、変える度に天変地異が起きてしまうため、変えるに変えられないという状況らしい。
国王陛下の子供たちは、不思議なことにみんな男性で生まれる。今は10人の王子様がいて、他国とは異なり長子相続ではない。適性ありと国から認められた王子が王太子となり、王位継承権を得る。
また、他国とは異なり死後相続でもない。王太子が20歳になって国王交代となり、王位継承権のない王子は一人を除き、臣下に下る。残った一人は王兄、または王弟殿下と呼称され、補佐官となり国王に次ぐ強い権力を保持する。
滅多にはないということだが、王位継承者は王弟や王兄の息子から選ばれることもあるという。
ちなみになぜか、王子は10人前後生まれてくるようだ。世界的に見ても子沢山で知られる王室である。
ちなみにヒルリモール公爵家は、先々代の王弟殿下の子孫の家系で、王家とは親戚関係にある。ラセルとキースの関係性がほぼ対等なのは、そういう背景もあるのだろう。
キャッツランドは世界三位の経済力、軍事力ではナルメキアに匹敵する戦力を保持し、特に海軍は世界最強と言われている。
そして臣下に下る王子達は、臣下になる前に他国へ輸出……つまりどこかの王族のお婿になることが多いと言う。
「ラセル殿下はお婿人気ナンバーワンなんですってね。確かにあの麗しいお姿と、剣の強さ、そして先日初めてお話されているところを拝見したのですが、声がものすごくいいですねぇ」
チェルシー先生はうっとりとしている。
「カナ様は、ラセル殿下のような素敵な婚約者がいて羨ましいですわ」
「は……はい」
「しかも、あのお方は繊細で、よく涙を流されるとか……! きっとそんなお姿も可愛らしいんでしょうね」
「そ……そうですね。胃痛で悶えている姿も可愛いですヨ」
彼氏が褒められるのはとても気分がいい。そんな感じで授業が進むと、ルナキシア殿下が私を呼びに現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます