黒猫王子の恋 キースside

 キースは笑いをこらえながら、カナが乗る馬車を追いかけるため走り出した。


 実はとても嬉しかったりするのだ。


――なんか、今回はうまくいきそうな気がするんだよね。


 人を引き付ける美貌と才能に恵まれているのに、なぜか意中の女性には積極的になれない主君の恋が実る予感に、キースの心は躍った。



 昨夜、カナに怒鳴られた後に、慌ててラセルはカナの後を追った。


「後で合図するから、そしたら来て」


 ラセルはキースにそう告げて、夜の街を疾走していった。


 天才魔術師と称されるラセルは、使用できる魔術も幅広い。


 探索の魔法でカナを探し出した。


 キースにしか見えない魔術で作られた蝶に導かれて、カナが眠る物置小屋まで迎えに行った。


 ついたよ、とそう告げると、ラセルはカナを抱き上げて小屋から出てきた。


 その時にギョッとした。


 ラセルが泣いていたからだ。それも号泣のレベルで。


「ど、どうしたの?」


 狼狽してそう聞いたらラセルが愛おしそうにカナを抱きしめる腕を強めた。


「わかんない。けど、猫で彼女に抱きしめられたら、涙が止まんなくなって……」


 キャッツランドの直系王族は、自由自在に神の使いである猫に変身できる特殊能力を持つ。


 王族たちは魅了、癒しなどの強力な聖魔法を、猫に変身した時にのみ使用できる。


 そんな王族の中でも、第七王子のラセルには他の王族とは異なる能力がある。

 

 それが――共鳴。


 対象の気持ちを自分の中に組み込み、自分のことのように消化し、ターゲットの精神の苦痛を癒す。


 共鳴は発動する相手と状況を選ぶ。


 ラセルの魂と相性のいい相手で、かつ、深い悲しみに囚われている時でないと起こらない。


――女の子に発動したの初めてじゃない? きっとあの子はラセルに近い子なんだ。


 ラセルの共鳴発動といえば、怪我をした小鳥の雛や、仲間となじめない猫など、人外のものばかりだったのだから、人間の、しかも女の子に発動なんてことが珍しいのだ。


 確かにカナはラセルと少し似てるところがある。


 虚勢張ってるのに脆そうなところ、そして孤独なところが。


 ラセルは人目もはばからず号泣しながら公邸に帰り、嗚咽を漏らしながらレイナに事情を話した。


 異世界から無理やり連れてこられた孤独な女の子であること、キャッツランド第七王子の威信をかけて彼女を保護したいこと、彼女が世界を救うかもしれない聖女の可能性が高いことをレイナに熱心に話した。


 レイナはラセルをよしよしと宥めながら、途中からもらい泣きし始めてしまったくらいだ。


「殿下があんなに泣いてるの初めて見ちゃいました。きっと、運命の相手なんですね」


 レイナはしみじみと泣きながらそう話した。


 レイナは張り切ってカナの世話を焼いた。レイナとカナはきっといい関係を築けるだろう。


 カナのためにキースに怒っていたレイナを見て、キースは強くそう思った。


 ラセルは王太子ではないから聖女と釣り合わないと話すけれど、本当にそうだろうか。


 むしろ、気楽な第七王子だからいいのではないかとすら思うのだ。


 ラセルは自由に外国を周れる。


 そんなラセルのパートナーとして聖女の力を活かせるのではないかと思うのだが、どうもラセルは煮え切らない。


――まぁ、キャッツランドも複雑だからねぇ。結婚を許してくれるかはまた別か。


 ただ、ラセルには他の王子にはないスキルがある。


 いくらでも外国で生きていく、後ろ盾とツテもある。


「でもその前に、本人ががんばらないとね」


 黒猫を睨んでいたカナを思い浮かべ、また笑いが止まらない。彼女を落とすのはなかなか困難だろうとは思う。


 それでも、キースは予感していた。うまくいきそうだな、と。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る